VOICE OF J-45 PART 3 : 秦基博 インタビュー

 

自分のパフォーマンスを一番引き出せるJ-45が“秦 基博の音”だと思います

 

2022年で誕生から80周年を迎えたギブソン・アコースティック・ギターのフラッグシップ・モデル、J-45。「ひまわりの約束」や「鱗(うろこ)」といったヒット・ナンバーで知られる秦基博も、J-45を愛してやまないミュージシャンのひとりだ。国内屈指のシンガー/ソングライターの音楽表現に欠かせないJ-45の魅力をじっくりと語ってもらった。

取材・文:尾藤雅哉
撮影:星野俊

 

 

J-45のギター・サウンドは僕のハスキーな声質との相性が良い

 

――まず最初に、秦さんが長年愛用されている1966年製J-45を手にしたきっかけを聞かせてください。

デビューする直前の2006年に手に入れました。それまではギブソンのJ-160Eを使っていたんですけど、デビューするにあたり「より生音が大きく鳴ってくれるプロ・ユースなアコースティックギターを手に入れよう」と思い、いろんな楽器屋さんを巡っていたんです。当時、“自分はどのようなギターを手にして、世の中に出ていったらいいんだろう?”ということを考えながら自分に一番合うモデルを探していたんですけど、楽器屋でこのJ-45を見つけた時に、すごく心が惹きつけられたんです。


――ひと目惚れだったんでしょうか?

そうですね。チェリー・サンバーストのボディに赤いピックガードが付いた見た目もすごくカッコよかったし、音も素晴らしかったので、手に入れた時は“やっと自分のパートナーを見つけられた!”と思いました。あとJ-45のギター・サウンドは使っていく中で僕のハスキーな声質との相性が良いと感じたので、“このギターが自分の代名詞的な存在になればいいな”って思いましたね。


――メインのJ-45は、どのような特徴を持ったギターですか?

温かみのある中域のサウンドが、このギターの一番の魅力だと思います。実は、購入した当初はセラミックのアジャスタブル・サドルが付いていたんですけど、ピエゾ・ピックアップを載せるにあたり、牛骨のサドルに変更したんですよ。そしたら、ふくよかさのある中音域が以前よりもまとまって鳴るようになったんです。バンド・アンサンブルの中でもアコギの音が抜けてくるようになったので、結果的にサドルを交換して良かったですね。1弦をハンマリングで鳴らした音はすごく気持ちいいですね。音量に関していうと、僕のJ-45はものすごく音量が大きいわけではないんです。というのも、ナット幅が39mmと狭いナローネック仕様のモデルなので、どちらかというと“爪弾いていて気持ちいいギター”という印象です。今では、このネックのグリップ感が、僕の使いたいギターの基準になっていますね。パフォーマンスをする時に一番ストレスがないので、ライブで他のギターを手にする時は、メインのJ-45のグリップ感に近いモデルを使うようにしています。


――J-45から生まれた曲や、思い出に残るライブは?

ライブもレコーディングも、基本的にはJ-45を使っていて。「ひまわりの約束」(2014年)もJ-45で作った曲のひとつですね。僕の中で印象に残っているライブは、2011年に行なった『GREEN MIND』です。『GREEN MIND』というのは演奏形式にとらわれないで様々な形で行っているアコースティック・ライブ・シリーズなんですけど、2011年は、たったひとりで日本武道館のステージに立ったんです。そこでギターを弾く時のタッチのニュアンスや歌といった自分の表現に対して、J-45と改めてじっくりと向き合いました。大きな会場でアコギの音をちゃんと鳴らすのはけっこう難しいんですけど、エンジニアさんと相談しながらアコギのピックアップの調整などを含めて細かいところまで追い込んで音作りが出来ました。このライブを経験したことで、自分の中で“良い音を出す”という点に関して一段階ギアが上がったような感覚がありますね。

 

 

僕にとってJ-45は、良いところも悪いところも知っている“友達”のような存在

 

――続いて、取材で撮影させていただいた愛用のギブソン・ギターについても話を聞かせてください。まずは、J-50(1968年製)を入手した経緯は?

デビュー以来、ずっとメインのJ-45だけを使ってきたので、ライブやレコーディングで使用できるような2本目のサブ・ギターを探していた時に出会いました。ものすごく状態が良かったので、ピックアップを取り付けるためにボディに穴を空けるのはもったいないと思い、手に入れてからはレコーディング専用のギターとして愛用しています。メインのJ-45との使い分けに関しては、2本を弾き比べてみてより曲に合っているモデルを使うようにしています。リッチな中音域が欲しい時にはJ-45、よりカラッとした音が欲しい時はJ-50を採用することが多いですね。新しいアルバム(『Paint Like a Child』/2023年3月発売予定)でも、J-50を数曲多めに使いました。


――サザンジャンボ(1960年代後期製)に関してはいかがですか?

J-50と同じく、ライブやレコーディングの時に“いろんな音の選択肢があったほうがいいかな”と思って、J-45よりもボディが大きいギターということで手に入れました。僕が所有しているサザンジャンボは、高音から低音域までバランスよく鳴るギターという印象で、とても優等生なモデルですね。最近は、このサザンジャンボの音色をもう少し見つめ直したいと思っていて。ボディの大きいギターならではの迫力あるサウンドは魅力的なので、その良さをレコーディングで活かせる音色に調整しようかなってことを考えています。

 

 


――ライブではエピフォンのテキサン(1966年製)も使われていますね。

テキサンは、ライブ専用として使っています。最近は、カポをつけて演奏しなければならない「鱗(うろこ)」で手にすることが多いですね。もともと俳優の大沢たかおさんが所有されていたギターで、それを譲り受けて使わせていただいています。低音と高音域に伸びのあるサウンドが特徴で、いなたくてカラッとしたフォークやカントリーに合いそうな音色という印象です。バンドの中でも、バランスの良い綺麗な音色で存在感を示してくれているように思います。


――その他に所有しているギブソンのアコースティックギターは?

今回撮影したモデル以外では、L-00やダヴ、J-200などですね。家にいる時は、小ぶりなL-00を弾くことが多いかな。そんなにたくさんのギターを所有しているわけではなく、自分が弾くギターだけを所有しているという感じですね。楽曲制作やライブなどで使って、ギターを育てていきたいという気持ちが強いのかもしれないです。やっぱりメインのJ-45ほど自分にピッタリとフィットするギターに出会える機会は少ないと思うので、他のギターに触手を伸ばすよりも、今の自分の手元にあるギターと向き合いながら、しっかりと使い込んでいくほうに意識が向くという感じかな。以前、メインと同じ年代のJ-45を見つけた時に、バックアップとして“買っておいたほうがいいのかな?”と思ったんですけど……結局買いませんでした。“弾かない可能性のあるギターをバックアップのためだけに手元においていく”というのが、どうもしっくりこなくて。


――ギブソンのアコースティック・モデルに共通する特徴や魅力は?

指でアルペジオを弾いた時の音も好きですけど、やっぱりストロークでギターをかき鳴らした時の“無骨な音”は、ギブソンのアコギならではの魅力だと思います。

 

 


――改めて、秦 基博さんにとってJ-45とはどのような存在のギターですか?

僕にとっては、良いところも悪いところも知っている“友達”のような存在ですね。お互いに演奏を通してずっと会話を重ねてきたことで、いろんなことを理解し合っている関係だと思っています。あと、自分でもこの“J-45が秦 基博の音”だと思いますし、自分のパフォーマンスを一番引き出せるのはJ-45だと感じています。お互いを高め合えるような存在ですね。あとJ-45の音って、ギターが生きているように感じられるんです。表情豊かな音が鳴ってくれるし、自分の声との相性も良いと思うので、どんどん愛着が増してきましたね。


――多くのギタリストに愛されてきたJ-45は、2022年で80周年を迎えました。今後のJ-45に期待することは?

これまで“アコギが欲しい”と思った多くの人が、J-45のシルエットを思い浮かべてきたように、これからもJ-45が変わらずにラインアップに存在し続けてくれることが、とても重要だと思います。長い歴史を持つモデルだからこそ、現行品のJ-45もやがてヴィンテージギターと呼ばれる時が来ると思うんです。例えば2020年代のJ-45を40年後に持つ人がいて、その時に“2023年モデルはこういう音色の特徴があるんだよね”と言われるようになる。そうやって“あの年代の音を弾いてみたい”という弾き手の思いと一緒に作られてきたJ-45の歴史を、これからも変わらずに積み上げていってくれたら嬉しいですね。ギター1本ごとに弾き手のストーリーが書き加えられていくのはすごく素敵だと思いますから。自分が生きている時代に生まれたギターと一緒に、新たな音を探しながら表現に磨きをかけていくことは、とても大切なことだと思います。

 

▲左からギブソン・サザンジャンボ(1960年後期製)、エピフォン・テキサン(1966年製)、ギブソンJ-45(1966年製)、ギブソンJ-50(1968年製)。

 

◎PROFILE

秦基博

宮崎県生まれ、横浜育ち。2006年11月シングル「シンクロ」でデビュー。
“鋼と硝子で出来た声”と称される歌声と叙情性豊かなソングライティングで注目を集める一方、多彩なライブ活動を展開。
2014年、 映画『STAND BY ME ドラえもん』主題歌「ひまわりの約束」が大ヒット、その後も数々の映画、CM、TV番組のテーマ曲を担当。
2023年2月1日に最新楽曲「イカロス」をデジタルリリース。また秦 基博の書き下ろし楽曲「イカロス」からインスピレーションを受け誕生した映画「イカロス 片羽の街」U-NEXTにて独占配信が決定。
3月22日には約3年ぶりとなる7thアルバム「Paint Like a Child」をリリースする。

●オフィシャルサイト:https://www.office-augusta.com/hata/

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