The Art of Strings vol. 6
横須賀出身でアメリカ軍基地が近かったこともあり、自然と洋楽ロック・ポップなどを好んで聴くようになり、15歳よりギターを弾き始める。知り合いであった五十嵐 充の申し入れに招かれ、「Every little Thing」のギタリストとして1996年CDデビュー。現在では、ソロでバラエティ番組に出演するなど、活動の場を広げる。
伊藤一朗が愛用するギブソンを紹介
2023/3/22 at SOUND INNInterviewer: Tak Kurita Gibson Brands JapanSpecial Thanks: Jun Sekino
栗田隆志 Gibson Brands Japan
今回、レスポールとES-335を手にした時のいっくんの表情は、どこか懐かしい旧友に再会したかのように見えました。ヴィンテージ・ギターを弾くと、その音で子供の頃に聴いた大好きだった曲、聴いた部屋、その時の気分が蘇ることがあるそうです。 収録に使われたマーフィー・ラボの2本はヴィンテージではありませんが、ヴィンテージのトーン、ルックス、フィーリングを内在しています。 今回の収録で、まだ音楽が仕事ではなかった頃、大好きな音楽を聴き、地元横須賀で仲間とバンドを組み、練習にあけくれ、基地の米兵相手に演奏したら喜んでもらえて嬉しかった。そんな自身の原点となる時代を思い出したのかもしれません。 これは楽器に限ったことではなくて、ELT(Every Little Thing)のファンの皆さんにも思い当たることありませんか?若い頃に聴いた曲を今あらためて聴くと、その頃、自分が会っていた人たち、いた場所、見ていた景色が蘇るという経験。それは脳科学の領域かもしれませんが、音と音楽には明らかにそんなタイムマシン的な力があるように思えます。科学的なことはわかりませんが、ELTには記憶を引き出すトリガーとなる名曲が数多くあることはわかります。それらは多くのファンにとって過去の自分と向き合うインターフェイスとして、生涯かけがえのないものでしょう。 インタビュー後半はフィロソフィー的な内容にふれました。事前に資料として読んだ本人の著作「ちょっとずつ、マイペース。」の“ユルくて深い、いっくん哲学”について聞きたかったため。 著書の中で本人は、風まかせ、自分はたまたま運が良かったと書き綴りますが、私にはELTを結成するにあたり、五十嵐さんがいっくんにギターを頼んだのが、たまたま、偶然だったとは思えません。「一生音楽の仕事をしていたい」、「死ぬまでギターを弾いていたい」と人生を楽器に捧げることを決めた、いっくんの音と音楽に対するアティチュードが、常にまわりの人たちや事を動かしてきたのではないかと考えてしまいました。 自身のYouTubeチャンネル「いっくんTV」は、エンタテイメントとして成立させるというプロの仕事をしつつも、ファンとのタッチポイントという大きな意味を持っていますし、“マイペース”という言葉は、「自分はこうあるべき」を変えない人や、「ゆるりと楽しむ」的な意味で使われることが多いですが、本人は「お互いが認め合える寛容な世の中になるためのコツ」として著書を締めくくっています。 運で生きている人ではなくて、人一倍思慮深い人なのだと思いました。
ブリティッシュ・インヴェイジョンの中で登場したドライヴ・サウンド(歪ませた音)を伴うブルース・ロックは、70年代以降のロックの音を決定づけた。レスポールを始めとするソリッド・ギターと大型チューブ・アンプとの組み合わせで作られていた初期のドライヴ・サウンドは、80年代に飛躍的に発展したエフェクター類やマスター・ボリューム付きのアンプ、そしてパワフルなギターとギタリスト達によって個性的かつ幅広いサウンドへと多様化していった。レスポール・モデルはハード・ロックを牽引するギターとして人気を博すると同時に、多くの革新的ギタリストたちを支える相棒でもあった。自作のギターでブラウン・サウンドを作り出したエディ・ヴァン・ヘイレンが愛用したサンバースト・レスポールを筆頭に、その後のスタジオ・サウンドの方向性を決定づけたスティーヴ・ルカサーがキャリア初期に多用していたゴールド・トップやサンバースト・レスポール、ロック・フュージョンを生み出したジェフ・ベックやアル・ディメオラが愛した50年代レスポール、ギター全体をフレイム・メイプルで覆ったカスタム・メイド・レスポール(スーパーカスタム)を使用してメロディアスなギター・ソロを奏でたジャーニーのニール・ショーン等、歴史に刻まれるプレイとサウンドが作られていった。 レスポール・モデルにサンバーストが採用されたのは1958年半ば。それまでのギブソンのアーチトップに使われてきたブラウン・サンバーストではなく、鮮やかなチェリー・サンバーストで、ボディ裏側もチェリー・レッド仕上げだった。それはギブソンが初めて使用したチェリー・カラーでもあった。ギブソンではイエロー、レッド、ブルー、ブラックの各色を独自にミックスすることで、鮮やかで深みのあるチェリー・レッドを作り出した。しかし、初めての試みだったこともあり、この時期のチェリーは赤味が早々に褪色してしまうという問題を招くことになった。このため最終的にボディ・トップ全体が淡い琥珀色へと経年変化する過程で、色ごとに退色してゆく速度に差があるため、本来は同じチェリー・サンバーストとして生産、出荷されたレスポールは、ギター毎に異なる色合いへと変化していった。そして、偶然生み出された姿がヴィンテージ・ギターならではの個体差と円熟味として多くのファンを生んでいる。 各色の中では赤味成分の褪色が先行するため、チェリー・サンバーストは、様々な淡いブラウン系のサンバーストへと色合いが変化してゆく。ダークな色合いのチェリーには青色成分が多く含まれており、これは赤色よりも褪色が遅い。そして、カラーの上層にあるトップ・コートのクリアー・ラッカーは、時間と共に黄ばんで琥珀色へと変化する。その結果、一定の条件下で下地のイエロー、褪色の遅い青色成分、その上の黄ばんだクリア層が重なることで、本来のチェリーとは大きく印象の異なるグリーン系のサンバーストへと変化したものも見受けられる。今回、伊藤氏が演奏したレスポールは、前述したメカニズムにより、リム部分がグリーンがかった色合いへと変化した様子を再現したグリーン・レモン・フェイド。退色が進む過程で現れるこのカラーに合わせて、ボディ・バックもまたチェリーが煉瓦色へと変化した様子に仕上げられている。マーフィー・ラボに4種類用意されたエイジド加工の3段階目となるヘヴィー・エイジド加工が施されたこのギターには、ラッカーのウェザー・チェック・クラッキング、場所によって異なる退色の濃淡に加えて、ピックアップ・カバーやブリッジ/テイルピース等のハードウェア類にも経年変化や弾き込まれた様子を模したエイジド加工が施されている。
ES-335に代表されるセミ・アコースティック・ギターは、ソリッド・ギターとエレクトリック・アーチトップを橋渡しするモデルとしてギブソンによって開発され、1958年春に発売された。その背景には、ボディの小さなレスポールよりも従来のアーチトップに近いトーンと弾き心地を備えたモデルの方が市場に受け入れられやすいというギブソンの思いがあったのかもしれない。2枚のメイプル板の間にポプラを挟み込んで作られた専用プライウッドをプレス加工することで作られた16インチ幅のアーチド・ボディは、ソリッド・ギター同様の厚みに設定され、ボディ内の中央部分にはメイプル製のブロックがボディ全体を貫くようにセットされている。そして、最終22フレット位置までをボディから露出させた斬新なダブル・カッタウェイ・シェイプもまた初めての試みだった。 発売当初のES-335は、アーチトップ譲りのブラウン・サンバーストもしくはナチュラル・ブロンド仕上げで、2つのハムバッカー、チューン "O" (オー)マティック・ブリッジ/ストップ・バー・テイルピースというレスポールと共通するハードウェアで構成されていた。ドット・ポジションマークが入れられたローズウッド・フィンガーボードは、発売当初はノンバウンド状態だったが直ぐに両側にバウンド加工が施されるようになる。1960年の後半にはナチュラルと入れ替わる形でチェリー・フィニッシュが採用され、1961年にはピックガードが今まで使われてきた汎用サイズから、このモデル専用に作られたショート・サイズへと変更された。また、ボディ内にセットされたメイプル・ブロックは、ヴァリトーン・ユニットを組み込むためにブリッジ・ピックアップ位置がくり抜かれたES-345/355と共通したものが使われるようになる。次にES-335に大きく手が加えられたのは1962年の半ば。ドット・タイプのポジションマークがパール柄のセルロース・ニトレイト製のブロック・インレイへとグレードアップされた。クリーム時代のエリック・クラプトンが愛用したことで知られるのが1964年製。この頃のモデルでは、ボディ両側のカッタウェイ・ホーンがやや尖った形となり、翌65年からはハードウェア類がニッケル仕上げからクロム仕上げへと変更されてゆく。ネックにはマホガニー材が使われているが、他のギブソン・ギター同様に年代によって形状が変化してゆく。1958年のファットなグリップは徐々にスリムになり、1960年にはフラット・アンド・ワイドと呼ばれる最も薄い形状となったが、数年後には再び中程度の厚みへと戻されてゆく。今回の収録で使われた64年スタイルが再現されたギターは、ヴィンテージ・ギターからスキャンされた中程度の厚みのミディアム・C グリップが再現され、マーフィー・ラボで用意された最も軽いウルトラ・ライト・エイジド加工が施されている。ブリッジ・サドルは本来ナイロン製だが、収録にあたり楽曲に合わせたセッティングとするため50年代スタイルのブラス・サドルに換装されている。 ブリッジ・ピックアップを使ったレスポールさながらのハードなドライヴ・サウンドから、アーチトップを彷彿とさせる奥行きと艶のあるネック・ピックアップ・サウンドを作り出すことができるES-335は、多様なギター・トーンが要求されるようになった70年代以降のスタジオ・ワークにおいて「今回は335で」とギターが指定されるほどの信頼と人気が寄せられた。 製品はギブソン傘下に加わったリフトン・ケースによって、ヴィンテージのスペックに基づいて再生産されたハードシェル・ケースに収められている。
文:關野淳大手楽器店、リペア・ショップを経て、現在は楽器誌、音楽誌で豊富な知見に基づく執筆を行うヴィンテージ・エキスパート&ライター。
THE COLLECTIONとはTAOS (The Art of Strings)に登場するギタリストが所有、愛用するギブソンを紹介するシリーズです。
希少性が高く入手困難なヴィンテージ・ギターの塗装の経年変化と弾き心地を忠実に新製品上で再現する特殊技術、エイジング。これを施されたギブソン・ギターの最高峰『ギブソン・カスタムショップ・マーフィー・ラボ』を、当代随一のギタリストが心行くまでプレイする動画シリーズ。