【連載】Gibson CustomとHistoric Reissueの軌跡 (第6回)

栗田隆志 | 2020.09.10 - 特集記事
第六回
シグネチャー・モデル

 

シグネチャー・モデルとは、ベースモデルにアーティストが求めるカスタマイズを行い、さらに独自の装飾、オートグラフなど意匠的なものを加えた特別仕様モデルとして製品化されます。そもそもレスポール・モデルがレス・ポール氏のモデルですので、レスポール・モデルをベースとしたシグネチャー・モデルはダブルネームということになり、ダブルネーム・シグネチャー・モデルの黎明期には、Jimmy Page、Joe Perry、Ace Frehley、Slash、Tak Matsumotoというギタリストが名を連ねていました。

1999年、ヒストリック・リイシューに、トム・マーフィーが手掛けるエイジド仕上げがラインアップされたことで、名だたるギタリストが、そのキャリアにおいて長年愛用してきたギターのラッカーのクラック(ひび割れ)、傷、塗装の剥がれまでを、そっくりにレプリカする企画が可能となり、シグネチャー・モデルの新潮流が生まれました。ヴィンテージ・レスポール・レプリカ・シグネチャーの第一弾となったDickey Betts ’57 Les Paul Goldtopの市場での注目度の高さと、限定数115本の完売によって、その可能性が証明されました。これだけの本数を特定のエイジング・パターンで仕上げるのは、マーフィーにとっても初のミッションでした。以下、本人のコメントを引用します。
「当たり前ですが、ヴィンテージギターの傷を再現するための工具というものは存在しませんでしたので、ネジ、ボルト類、スプリング、ベルトのバックルなど、思いつく限りの使えそうなアイテムとアイディアを試しました。ネジやボルトを直接ギターにぶつけると不自然な傷になるけど、袋に詰めた状態で当てると良い仕上がりになるとか。皆さんが見たら私のツールボックスの中はジャンクの山ですよ。」

ヴィンテージ・レプリカ系シグネチャー・モデルは、Dickey Bettsを筆頭に、その当初はサザンロック系ギタリストの押し出しがすさまじく、「これは内部にサザンロック好きがいるんじゃないの?」と当時感じていた方がいましたら、その感覚は正しく、サザンロックをこよなく愛する、当時のカスタムショップのジェネラルマネージャー、リック・ゲンバ―が旗を振り、同じくサザンロックを愛する米国のディーラー達がその背を押し、ラブコールを受けたギタリスト本人や親族が集い、シグネチャー・モデル・ブームの到来となりました。では実在器をレプリカした、ソリッド・ボディのヴィンテージ・レプリカ系シグネチャー・モデルをリスト化してみます。

  • Pete Townshend Signature SG (2000)
  • Dickey Betts ’57 Goldtop (2001)
  • Gary Rossington Les Paul (2002)
  • Bob Marley Les Paul Special (2002)
  • Duane Allman Signature Model (2003)
  • Gary Rossington SG (2003)
  • Allen Collins Signature Korina Explorer (2003)
※青字の5モデルがサザンロック系ギタリスト

 

この流れに続いて2004年、ついに伝説の名器、Jimmy Page Number One Les Paulが満を持して登場しました。 ファースト・リリース直筆サイン入りエイジド25本、セカンド・リリースのエイジド150本に続いて、サード・リリースのカスタム・オーセンティック(後のVOSとなるラッカーの艶を落とした仕上げにエイジド仕上げのパーツの組み合わせ)の計3バリエーションという、過去最強のラインナップの張り方は、シグネチャー・シリーズの頂点と言えるものであり、記録的なセールスとなりました。

ヴィンテージ・レプリカ系シグネチャー・モデルは、ヒストリック・リイシューの進化で成しえたヴィンテージギターに迫るサウンドと弾き心地に加えて、名手と名器による名演を思い起こさせる胸熱なルックスで、ファンの心をわしづかみにしました。その後、2006年にThe INSPIRED BY Series、2010年にはCollector’s Choiceといった派生シリーズを生み、いずれもカスタムショップ・ビジネスの屋台骨として、市場シェアとファンを獲得していきました。ここ日本においても、Tak Matsumoto 1959 Les Paul、Tamio Okuda 1959 Les Paulという、2名のレスポールの名手が所有する1959年製のレプリカが製品化を遂げました。これらのシリーズには、中古市場での価格が新品販売時よりも高いという、ヴィンテージギター同様の現象が起きているものが多く存在します。

1960年中ごろから1970年代の全ての音楽、その後に訪れたMTVの時代、国内で何度かあったバンドブームと呼ばれる現象など、2000年前後くらいまでは、みんなで同じバンドやギタリストに熱くなるという、ムーヴメントが世代ごとにありました。レコード、ラジオ、CD、テレビ、雑誌を主要情報源としていた当時の音楽ファンには、確実に音楽の共通体験が存在し、その輪の広さが今と比較になりません。
ヴィンテージ・レプリカ系シグネチャー・モデルが市場を席巻した背景には、その共通体験の中で、その時代を象徴する音楽、ギタリスト、ギターを、同世代の人たちと価値共有できる確信があるからと考えられます。

オリジナルを所有するアーティスト、オーナーからは、「自分が本当に良いと思ったものだから、ファンや仲間と共有したい」と賛同していただき、カスタムの担当者が執念でデジタル・スキャナーとともに実器計測のために世界を駆け巡り、モデル名に反応したクラフツマンが求められる以上の仕事を行い、販売店の方々に手厚く扱っていただき、ファンの皆様には、「憧れのギタリストへの想いを帰結させるもの」と受け入れていただけるという、国や言語を超えて、オーナー、作り手、売り手、買い手を繋ぐマーチャンダイズが成立したのです。 もちろんそのスキームのためには、先ず企画の源泉となる音楽とギタリストありきですが、そのパートナーとして、時代の音を作ってきたギブソンの数々の名器がありました。

皆さん一人一人の心の奥深くに刺さっているギターと、何度も繰り返し弾いたリフは、最も多感な時期に何を聴いていたかによって異なるはずですが、一生を通じて永続する興味の対象と、魂を再燃させる存在とは、人間にとって自分を自分たらしめるものの一つではないでしょうか。

 

Tamio Okuda 1959 Les Paul released 2015 (Sold out)

 

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