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『Gibson Acoustic Weekend vol.3』|豪華アーティスト4組のアコースティック・ライブ(10月11日)

その誕生から絶えることなく革新的な挑戦を続け、世界中のミュージシャン/ギタリストを魅了し続けてきたギブソン・アコースティック・モデル。本年3月よりシリーズ展開しているカルチャー&ライブ・イベントの第三弾、『Gibson Acoustic Weekend vol.03 』が10月10日・11日の2日間に渡って、ADRIFT (下北沢)で開催された。

本記事では、10月11日に行われた、4組の豪華アーティストによるアコースティック・ライブの様子をレポート。様々なカルチャーがミックスする下北沢でギブソンのアコースティック・モデルと各アーティストが共鳴した一日を振り返っていく。

毎回さまざまなステージで催されている本イベントだが、今回の会場は東京きっての“カルチャー発信地”とも言える下北沢の[ADRIFT]が選ばれた。ジャンルを問わず多くのバンドマンが出演する老舗ライブハウスが多く居並ぶこの街だが、ADRIFTは駅近郊にも関わらず閑静なエリアに位置し、施設内は広くシックなデザインに統一されているため、アコースティック・ギターならではの鳴りや響きを感じるのにぴったりのスペースと言えるだろう。

文: 岡見 高秀
撮影:興梠 真穂

ADRIFT内のバーカウンターにコーヒーショップが出店。ギブソンのブランドロゴをあしらった特性のコーヒーカップで販売された。

ギブソンロゴをデザインしたオリジナルのアイシングクッキーを販売。購入者にはピックやステッカーがプレゼントされた。

初日はふたりのミュージシャンによるトーク・セッション&ライブという構成だった『Gibson Acoustic Weekend vol.03』だが、2日目となる11日は4組のミュージシャンたちによるステージが催される。雨模様となったこの日だが、土曜日ということもあり、下北沢はさまざまな文化との接点を求める多くの人で賑わっている。そのなかでもアコースティック・ギターのサウンドを堪能したいという音楽ファンが、会場である[ADRIFT]に集結した。

HIMI アコースティック・ライブ

2日目のオープニングを飾るのは、シンガー・ソングライターのHIMI。ほかにない独自の個性を持ったプレイヤーだ。サッと壇上に登場するとシンプルな挨拶をし[1960 Hummingbird Light Aged]を構えコード・アルペジオを弾き始める。本ギターはマーフィ・ラボ・コレクションからのラインナップで、機種名のとおり、エイジド加工(長年使われてきた風合いやダメージを再現)が施され、サウンドとともにルックスにもこだわりを加えているのが特徴。HIMIは普段はヴィンテージのギブソン・アコースティックを使っており、今回のステージでもそのニュアンスに近いモデルを選んだということだ。

スクエア・ショルダーの大きいボディならではの深みのある音は、イントネーションはハッキリしつつも角がなく、彼のファルセットを混ぜた歌声とうまく絡まっていく。2曲目に披露したパフォーマンスでの“キュッ、キュッ”というリヴァーブの効いたスライド音も効果的。暖色の照明とも相まって、会場がひとつの温かい部屋のようだ。

「イマジン」の日本語バージョンを経て、ラストは新曲である「あの頃」を披露。ロー・ポジション・コードの低音が雄大さを感じさせてくれる曲で、それでも音が重くなりすぎないのもHummingbirdならではなのでは。繊細な歌唱は懐かしさも感じさせてくれるのだった。曲を演奏し終え、颯爽と去っていったHIMI。MCはほとんどなかったが、逆にそのシンプルさがゆえに、歌とギターにとことん集中できるライブだったと言えるだろう。

サバシスター アコースティック・ライブ

サバシスターから、フロントマンのなちとリードギターのるみなすがこの日のための新ユニットとして登壇した。ふたりは本イベントで最もエネルギッシュなステージを見せてくれた。普段はスリーピース・バンドとして活動している彼女たちであり、前述どおりふたりでのステージは今回が初めて。特にるみなすはアコースティック・ギターでリードを取るのも初……と言うより、この機会に合わせ自身1本目となるアコギを手にしたという。しかしそこは日頃から一緒に活動をしている彼女たちだ。「生活」から息も演奏もピッタリ。今回用のアコースティック・アレンジはどの曲も王道の弾き語りスタイルで、なちは[J-45 Standard]、るみなすは[J-45 Special]と、両名ともギブソン・アコースティックの王道であるJ-45をセレクト。前者はモダン・コレクションからの1本、後者はサイド&バックに単板のマホガニーを採用し、作りの良さはそのままに、より手に取りやすい価格帯を実現したモデルでもある。

なちの元気なストロークに合わせ、「スケボー泥棒!」でも客席からは自然と手拍子が起きる。エレキとは弾き心地のことなるアコギであるが、るみなすのリードもアレンジ良く楽曲を彩っていく。ときにヴォーカルにハミングをつけるなど、アコギ・デュオのいいところをギュッと凝縮して表現したふたりのプレイに、オーディエンスの表情はとても明るい。MCも軽快で、当日発売されていた[ギブソン・アイシング・クッキー]の告知をしたり、“本日はギターがメインなので、ドレス・コードは黒にしました” と衣装についても教えてくれるなど、彼女たちならではの楽しい雰囲気満載でステージは進んでいった。

“一緒に歌って”――という声ですぐに手拍子となったラスト・ナンバー「タイムセール逃がしてくれ」。ロック・バンドらしいアップテンポな本曲はアコギ・アレンジでもその元気さは健在で、なちの張りのある声とともに2本のJ-45も力強く鳴り響く。るみなすのソロもグッド、客席からは退場するまで大きな拍手が送られたのだった。

“初めての会場でもあったので緊張していたんですけど、楽しくできました(なち)”、“初めての経験がたくさんあったんですけど、お客さんが温かい空気で迎えてくれたのでリラックスしてできました(るみなす)”と、終演後にこのデュオでのステージを振り返ってくれたふたり。今日のステージが最初で最後……と言っていたが、“せっかくアコギを買ったのでまた使いたいんです(笑)”とるみなす。なちも“乞う、ご期待!”とシメてくれたので、また彼女たちのアコースティック・ライブが行なわれるかも!?

北澤ゆうほ アコースティック・ライブ

日頃からギブソン・ギターを使っているギタリストは多いが、彼女もまた、ギブソン・カラーを自身のキャラクターのひとつにしているミュージシャンのひとり。3アーティスト目となる北澤ゆうほは、昨年には野外音楽フェス《麦ノ秋音楽祭》での“Gibson Lager Stage”にも出演経験がある、ギブソンと深い縁のあるプレイヤーだ。

そんな彼女は今回、手に入れて約1年が経った[J-45 Custom]を携えて登場。もともとJ-45を持っている北澤だが、ここでは “シャリッとした高音が前に出て、普段弾いているエレキのような、自分好みの音が歌っていて気持ちいい” という本器をチョイス。そして “ハッ” と息を呑みアカペラから始まる「スプートニク」でライブがスタート。本人が語るように、J-45のきらびやかで粒の細かい響きは、ストロークとともに会場の奥まで届いてくる。胸をキュッとしめつけるような彼女の歌声は、そんなギターの音ととてもマッチし、自身の世界観をすぐに作りあげていくのだった。

そんな切なさを内包した「スプートニク」ならではのセンシティブな音響調整だった……と思っていたところ、曲終わりに “実はギターの音が出ていませんでした(苦笑)” と驚きの発言が。ボーカルのみがPAスピーカーから出力され、ギターの音は“生”だった、ということだ。ただ実際のところは違和感もなく、気になったファンも少ないのでは? このあたりは、さすがJ-45の鳴りと言えるのかもしれない。

いざスピーカーからJ-45の音が出力されても、その印象は変わらない。続く「Fortune」で徐々に体の動きが大きくなり、歌詞に気持ちが重なっていくように、よりエモーショナルなパフォーマンスになってくる。「スローモーション」前半では音数を絞って歌を聴かせるが、トーンがふくよかなので1ストロークでも会場に音が残り、自らの声を包む。しっとりとしたフィンガーピッキングを披露した「ドア」に次いで、「TEDDY」が最後の曲だ。客席からの手拍子と力強いコード・ストロークがひとつとなり、そこに北澤の高く伸びやかな歌声が重なっていくその音は、雨空を吹き飛ばすような晴れやかなものだった。

“普段ギターを弾かないお客さんはアコギの生音って聴いたことがないかもしれないから、そのまま歌いました。レアな経験ができて良かったです(笑)。背中にギブソン・ロゴを背負って、ピシッとやる気持ちで楽しみました!”と、パフォーマンス後も笑顔を絶やさない北澤であった。

Tempalay アコースティック・ライブ

ここまで3組のミュージシャンがそれぞれカラーのあるアコースティック・ライブを展開してきた『Gibson Acoustic Weekend vol.03』。4組目、小原綾斗&AAAMYYYが、結びとなるラスト・アクトだ。普段はTempalayとして活動するふたりが、ここではギター&キーボードとして弾き語りアレンジを聴かせてくれる。なかなかないシチュエーションということもありフロアには多くの人が集まり、立ち見エリアも一杯。

チルな雰囲気も流れる夜の弾き語りステージなだけに、小原はドリンク片手に“ゆったりと観てください”とひと言。そしてリヴァーブたっぷりで「J-45 Standard Rosewood」を鳴らしライブをスタートさせる。MCでは “リラックスしてほしい” とも語る小原。大きめのグリスから入った「Q」では、温まってきた会場の空気感に合わせて、ピッキングも徐々に大きくなってくる。そこにあくまでもギターを主軸にサポートするというニュアンスの鍵盤が重なり、彼の歌をアコギとキーボードの両軸で支えていく。曲のラストでは少しラフになる場面もあったが、呑みながら和やかに楽しむというコンセプトの本ステージでは、むしろアリな偶発的演出であった。

AAAMYYYはバッキング・ボーカルも担当し、混声のハーモニーを聴かせてくれているが、「Room California」では鍵盤が前に出て、メイン・ボーカルも聴かせてくれた。そこでの小原はコード・アルペジオでしっとりとフォローしつつ、後半では熱の入ったバッキングにも変わっていく。これもふたり編成で自由度の高い弾き語りならではと言えるだろう。

“弾き語りは呑み会”という小原の発言どおり、その後もあくまでカッチリしすぎず緩やかにライブを進めていく彼ら。そして最後は「そなちね」だ。小原が言うようにちょっと怖いキーボード・メロディが耳を惹く曲で、すると彼のギターも不穏に聴こえてくるから不思議だ。シンプルなアレンジだからこそ、聴いている人の心象が乗ってくるのかもしれない。そんなラスト・ソングだったが、アウトロ後のかき混ぜでは急に明るくなったりと、随所でふたりの気さくな人柄が表われるステージになったのだった。

小原綾斗&AAAMYYY(Tempalay)がステージを降り、計4組のギタリスト&ミュージシャンが演奏した『Gibson Acoustic Weekend vol.03』は終幕となった。どの回でも集まった来場者はステージをじっくりと楽しみ、その後は会場に展示してあるギターを間近で見てから帰るなど、それぞれの時間でアコースティック・ギターという楽器の魅力を存分に感じていたことは間違いない。

コンスタントなペースで開催されている本イベント、第3回目となる今回も、2日間にわたってギブソンアコースティック・ギターの魅力を堪能することができるイベントとなった。みなさんも是非、アコースティック・ギターを手に取って、音楽の楽しさを体感してほしい。

10月10日トーク・セッション&アコースティック・ライブレポート記事も見る。