『Gibson Acoustic Weekend』| 上野 大樹 × 森 大翔によるトーク・セッション&アコースティック・ライブ レポート (10月10日)
その誕生から絶えることなく革新的な挑戦を続け、世界中のミュージシャン/ギタリストを魅了し続けてきたギブソン・アコースティック・モデル。本年3月よりシリーズ展開しているカルチャー&ライブ・イベントの第三弾、『Gibson Acoustic Weekend vol.03 』が10月10日・11日の2日間に渡り、ADRIFT (下北沢)で開催された。
本記事では、10月10日に行われた、シンガーソングライターの上野 大樹とギタリスト&シンガーソングライター森 大翔のトーク・セッション&アコースティック・ライブの様子をレポートする。
毎回さまざまなステージで催されている本イベントだが、今回の会場は東京きっての“カルチャー発信地”とも言える下北沢の[ADRIFT]が選ばれた。ジャンルを問わず多くのバンドマンが出演する老舗ライブハウスが多く居並ぶこの街だが、ADRIFTは駅近郊にも関わらず閑静なエリアに位置し、施設内は広くシックなデザインに統一されているため、アコースティック・ギターならではの鳴りや響きを感じるのにぴったりのスペースと言えるだろう。
文: 岡見 高秀
撮影:興梠 真穂
上野 大樹 × 森 大翔トークセッション
イベント初日に登場するのは、シンガーソングライターの上野 大樹とギタリスト&シンガーソングライター森 大翔。それぞれのアコースティック・ライブに先立って、トーク・セッションも行なわれた。客席は立ち見も出る盛況ぶりで、まず登壇したのはJ-WAVE『GRAND MARQUEE』のメイン・ナビゲーターで、当対談ではMCを務めるタカノシンヤだ。
タカノの呼び込みで登場した、上野と森はこの日が初対面で年齢も少し離れている二人だが、どことなく似通った雰囲気があり、ステージ上でもお互い顔を見合わせながら会話が始まった。
“お互いの印象は?” という質問に、森は上野について “さっき、外で初めて会ったんです。今日はすごく天気が良かったんですが、その気候と同じような人だと思いました” と、爽快な上野への印象を同日の空模様に合わせて教えてくれた。逆に上野が感じた森は、“SNSなどで動画をいろいろ観ていて、ギターを弾きながらダンスをするのがすごくカッコいいと思っていて。今日会って、やっぱりカッコいいと思いました” とすでにいちファンにもなった模様。“今日も踊るの?”という問いに森は、“実はけっこう難しいんです。だからテンション次第ですね”と返していた。
曲作りに関しての話題が及ぶと、ふたりの個性の違いを知ることができた。両名ともギターを相棒に作曲をしているが、上野はコードとメロディが一緒に出てくるほうだといい、“自分の中の言葉を大事にしている。使いたいワードがあれば、1年間自分で使ってから歌詞にしています” と返答。人と会ったりラジオを聴いたりするなどインプットを大切にしているということだ。逆に出てこないときは “心を震わせています……締切で震えてもいるので(笑)” とのこと。森は “日常からバイブスを感じるようにしています。空を見て歌詞が浮かんだり。自分が持っていないものに飛び込んでいく” と答え、プレイからもわかるように、感覚派な面が垣間見られた。
ギターに関する話題となると、森は “ギブソンのアコギには「ギブソン語」があって、人間の声に近い。一緒に歌っている感じ” との感想を語ってくれた。普段からJ-45ユーザーである上野は、“上京して初めて買ったのもJ-45。メジャー・デビューした記念に買ったのもJ-45” と、同モデルに熱い愛着を持っていることも告白した。20分少々の短い時間ではあったが、ふたりのミュージシャンシップ、そしてギター愛がわかる貴重な対談となった。
休憩を挟んでライブ本篇となるが、来場者はその間もアコースティック・ギターの世界に触れることができるため、時間を持て余すことはない。エントランスにはたくさんのギブソン製アコースティック・モデルが展示されているのだ。
今回はエピフォン製含むアコースティック・ギターが全部で19本展示され、基本的には現行モデルで、カスタムショップ・ラインのなかでも最高峰に位置付けられる[マーフィ・ラボ・コレクション]、同社の顔的ラインナップである[ヒストリック・コレクション]などが並ぶ中で、特に今回の来場者の興味を集めていたのが[モダン・コレクション]たちだ。
名称のとおり現役プレイヤーのリクエストに応え得るラインナップで、エレアコ仕様でサイド&バックにローズウッド材を採用した各モデルからは新鮮な印象がうかがえる。例えば[J-45 Standard Rosewood]は昨年発表された1本で、同材を採用することで低音から高音まで出音が幅広く、きらびやかさもあるのでフィンガーピッキング・スタイルには特に向いていると言えるだろう。ほかにもカッタウェイの入ったモデルがあったりと、伝統を継承しつつも新しい試みを投じたギターがずらりと展示されていた。
森 大翔 アコースティック・ライブ
森のライブがスタートし、“よろしくお願いします”と簡単に挨拶をすると、[J-45 Standard]を手に、ストロークとリードを織り交ぜたギター・ソロを早速披露。ブルージィな進行にモダンなシュレッドが斬新で、一気にそのスタイルへと引き込まれていく。
ギター・ソロからの流れのまま、ストロークをベースとしながら洒落たオブリを絡めれば、それは「オテテツナイデ」の合図となる。さすがダンスも得意とあり体全体でリズムをとり、それに合わせて客席からも大きな手拍子が起こっていく。そこに乗る彼の歌も負けずにパワフルで、伸びやかな声はJ-45との相性もピッタリ。間奏ではマイクを離れステージ前でソロをとるなど、一般的な弾き語りライブとは一線を画すアクティブなパフォーマンスに、客席も前のめりとなった。
普段はエレキをプレイすることも多い森だけに、エフェクティブなアプローチも披露。「台風の目」に入る前段ではディレイを生かした神秘的な空間を作っていった。しかも音の中ではかなりテクニカルなプレイも加えられていて、ペダル・フレーズも投入。エレキ・ギターに比べ、一般的にアコースティック・ギターのほうが弦高(ギターに張られた弦とギター本体との距離)が高いものだが、本人は“特別に弦高を下げていることはなく、今日受け取ったままです。ギターだったらエレキでもアコギでも、なんでも同じように弾けるんです!”と笑顔で教えてくれた。「君の目を見てると」の前奏として挟んだ「夜が来る」(サントリー・ウイスキーのCM曲)のソロ・ギター・アレンジも秀逸だったことを追記しておきたい。
ルーパーを駆使しつつ、ラティーナ・ヒートも感じさせた「大都会とアゲハ」を経て、“一緒にグルーブしてくれますか!”と客席に声をかけ、そのクラップに合わせてダンス・ステップも飛び出した「VSプライドモンスター」で大団円となった。指先の技術はもちろん体全体を使ってJ-45をプレイした森。“お客さんともセッションしている感じが楽しかった”という言葉は、まさに彼とJ-45と会場とが一体になったことの表われだろう。
上野 大樹 アコースティック・ライブ
新緑を想像させるSEに乗って登場したのが、もうひとりのアクト、上野だ。ステージには[J-45]と[L-00 Rosewood 12-Fret]が用意されていた。
“よろしくお願いします”と、シンプルな挨拶から演奏に入る上野。最初に手にしたギターは、メジャー・デビューを記念して購入したという自身所有のJ-45だ。日頃から使っているとあって、当然ながら彼の歌声と良く合う。1曲目「遠い国」は、キラリとしたきめ細かいストロークの音とウェットな上野のボーカルのコントラストから際立って聴こえてくる。ときにアタックのあるプレイから、それに追従して鳴りの強い音が出るところも、日頃から鳴らしている愛器だからこそだ。
続く「各駅」で、2本目のギターに持ち替える。こちらはJ-45と比べ、小ぶりなボディ・サイズが特徴で、ボディ・サイド&バックにローズウッド材を採用し、12フレット位置でネックがジョイントしている、新しいコンセプトを持ったL-00だ。スモール・ボディらしく丸く中域に個性のある機種で、優しい歌唱とフィンガーピッキングでのギター・トーンがより柔らかいひとつの音となって会場に響いていった。
その後も彼は楽曲の雰囲気に合わせて2本のギターを使い分け、独自の世界観を奏でていく。ラストの「ラブソング」では軽やかでありつつもアタックもあり、心に熱を込めたプレイをJ-45とともに作っていった。
終演後には “今回のステージでは自分の時間をしっかり作ろうと思って臨みました。静かな環境とも言えましたが、客席の後ろにギターがたくさん並んでいて興奮もしました(笑)” と感想を伝えてくれた上野。2本のアコースティック・ギターを使い、その音色の違いをわかりやすく披露してくれた彼は、本イベントの趣旨にもピッタリのステージを見せてくれたと言えるだろう。こうしてGibson Acoustic Weekend vol.03の初日は幕を閉じたのだった。