プロギタリストが、音色と演奏性に多大な影響を及ぼす調整に重きを置くことは当然ですが、その調整内容は人それぞれ異なります。具体的には、今さんの場合はレスポールの弦高をかなり上げた状態で演奏しましたが、小倉さん、鳥山さんは可能な限り弦高低めというリクエストでしたし、今回の梶原さんは出荷基準そのままで問題ないとのことでした。後半ではTHE ART OF STRINGSに出演されるギタリストの皆さんのために収録前に行っている調整に触れますが、その前に先ず基本となるギブソンの出荷基準のおさらいをしておきます。理由は、収録用の調整に入る前に、先ずは出荷基準の状態で全ポジションを演奏して確認しているためです。
使用弦
カスタムショップ製品の出荷時の弦は、10・13・17・26・36・46です。弦は劣化するとピッチが不安定になり、チューニングが狂いやすくなりますので定期的に交換してください。その際には弦の巻き方に注意してください。チューニングが狂いやすい原因のほとんどは、ペグポストの部分に弦が正しく巻かれていない、または弦のストレッチが足りない場合です。新しい弦はチューニングが落ち着くまでしっかり伸ばしてください。
ネックの反りについて
ネックに反りがあるとビビりや音詰まりが生じます。ネックの状態を正確に判断するには経験が必要ですが、誰でも簡単に行える方法があります。先ずチューニングしてください。そして左手の人差し指で1フレットを、右手の小指で16フレットを押さえたまま、右手の人差し指で7フレットに触れてみます。弦とフレットの間にわずかな隙間(約0.2mm)があって弦が動く状態が出荷基準です。6弦と1弦の両方で行ってください。隙間がなくて7フレットと弦が密着していると、7フレット以下でビビりが発生するネックの逆反りが生じている可能性があります。逆に隙間が多いと、7フレットより上のポジションの弦高が高くて弾きにく順反りが生じている可能性があります。どちらの場合も、楽器本来の弾き心地が得られませんので、トラスロッドによる調整が必要です。これを放置して長く反った状態にしていると修理の際に大きな出費につながるので、弦交換のタイミングでこまめにチェックしてください。
ブリッジ
ネックの次はブリッジの高さを調整します。多くの場合、弦高が高くなったと感じるとブリッジを下げてしまいがちですが、順番としては先ずはネックの調整です。ブリッジによる弦高調整は、12フレットの頂点と弦の底面の間隔で行います。この間隔を1弦側で約1.2mm、6弦側で約2㎜に調整します。
調整作業は弾きながら
以上は、弾きながら確認することが重要です。多用するポジションだけではなく、全ての弦ごとに各フレット、ポジションを押さえて1音ごとに確認するとコンディションの変化にすぐ気付くことができます。
オクターブ調整
皆さんも経験があるかもしれませんが、友人から借りたギターを演奏した時に、自分はチューニングがおかしい気がするが、所有者が弾くと問題ないといったことがあります。このようにオクターブ調整は、演奏者の弦の押さえ方、弦高、フレットの間の押さえる位置、プレイスタイルに合わせて調整する必要がありますので、演奏者自身で調整してください。エレクトリック・ギターの場合は、できればストロボチューナーなどの高性能なチューナーで合わせることをお勧めします。オクターブ調整で重要なのは0フレット(開放弦)と12フレットを押さえた時の音程の差をできるかぎり少なくする事です。
収録時のセットアップについて
ここで今回の本題ですが、誰でも楽しく運転できる市販車の乗り出しの状態と、ある特定のドライバーがレースで高いパフォーマンスを発揮するためのセッティングが異なるように、ギターも出荷基準と特定の演奏者がレコーディングで高いパフォーマンスを発揮するセッティングは異なります。THE ART OF STRINGSにおいては、あらかじめ出演者の動画や音源を聴きこんで、弾き方や音の傾向を把握した上で、事前に頂いている調整リクエストに近づけるために「必要なことは何か、そのためには何をすべきか」を考えます。特定の演奏者に特化した調整については別の機会として、今回はベーシックに行う作業を項目ごとに説明します。
ネックと弦高
収録の際には、ネックをストレートにというリクエストが多いので、その場合はよりシビアな調整となります。弦高が低くてもビビりや音詰まりが極力出ないように調整します。弦高を高くするのは現場でブリッジを調整することで対応できますが、低くする場合は他箇所と干渉して不具合が生じる可能性があるためです。必ず行うことは、フレットを丁寧に磨き、滑らかなチョーキングができるようにする、指板も同様に念入りに磨き、レモンオイルで仕上げて滑らかにスライドできるようにします。
ブリッジ・サドル(駒)
指板には12インチR(約305R)のカーブがついていますが、多様なプレイが求められる現代の音楽では、ハイポジションのカーブをやや緩くすることで、ハイポジションでチョーキングする際の音詰まりを軽減させます。このためブリッジ・サドル(駒)の溝切りは、12インチのRよりやや緩やかなカーブとなるようにゲージで計測しながら調整します。
オクターブ
THE ART OF STRINGSを細かいところまで視ている方であれば気付くかもしれませんが、ABR-1ブリッジの駒が全体的にネック側に前寄りになっています。弦高を低くして弦とフレットが近くなると弦を押さえた時の音程の変化が少なくなるためです。
テイルピース
諸説ありますが、THE ART OF STRINGSでは、指定がない限りはテイルピースをやや上げた状態でセッティングします。これには理由があり、テンション感を変えて滑らかなチョーキング、サステインを得る、またチューニングの狂いを軽減させるためです。レスポールやESをお持ちの方は、是非試してみてください。ただしテイルピースを上げすぎるとブリッジ・サドル(駒)とナットに掛かるテンションがなくなり、弦が溝から外れることがあるので注意が必要です。チョーキングの時に指の引っ掛かりが気になる方はベタ付け(最も下げた状態)でもかまいません。
ピックアップ
ハムバッキング・ピックアップには、各弦の音量をマイナス・ドライバーで簡単に調整できるポールピースが付いています。収録用ギターで意識していることは、できる限りプレーン弦でのソロの際に音が細くなったり、すぐに減衰したりしないようにすることです。逆に巻き弦の音が強く出すぎている場合は、ピックアップの吊りビス側で下げてから、さらにポールピースでも下げるようにします。ポイントは各弦の音量を揃える事です。これはコードを弾いた際にバランスの良いサウンドが得られるという効果をもたらしてくれます。この調整は、カスタムバッカーの様なエナメル・コーティング・コイルのピックアップで特に効果を得やすいようです。