The Art of Strings vol. 2

小倉 博和 HIROKAZU OGURA

Profile

桑田佳祐、福山雅治、大貫妙子、槇原敬之、Bank Band、kōkuaをはじめ数多くの作品に関わる。2014年ソロアルバム「GOLDEN TIME」、2016年「Summer Guitars」、2019年「Sketch Song」、「Sketch Song2」をリリース。2021年7月、佐橋佳幸とのギターデュオ山弦の17年振りの6thアルバム「TOKYO MUNCH」をリリース。
高いテクニックと幅広い音楽性に裏付けされた、ギタープレイ&作品はジャンルを越えて多くの支持を受けている。FM COCOLOの番組「FRIDAY, Sound of Strings」ではDJを務める。

「Wood & Sound (木と音)」
「Swallow 燕」

Interview 収録後インタビュー

12/16 2021 at NEIGHBOR
Interviewer: Tak Kurita Gibson Japan
Special Thanks: Jun Sekino

小倉さんといえば、多くのヴィンテージ・ギターを弾かれています。今日はとても珍しいヴィンテージのトリニ・ロペス(1965年製のギブソン・トリニ・ロペス・スタンダード)を持ってきてもらいましたね。
今回(マーフィー・ラボの)トリニ・ロペスを選んだのも、ヴィンテージと比べてどうなんだろう?という興味もあって今日はこうして持ってきてみました。

今日弾いていただいた製品について感じたこと、気付いたことはありましたか?
やっぱりカスタムショップは非常に良くできてるなと。トラスロッドのチューブが無くなったあたりから (2013年、ヴィンテージ同様の仕様へと、トラスロッド自体の直径と設置位置が見直され、それまでトラスロッドを包んでいたビニール・チューブも廃止された)。あと、V.O.S.(ヴィンテージ・ギターを意識したマット気味のフィニッシュで、あわせて艶を落としたハードウェア類を採用)。ちょっとダメージを入れた感じとか。ブリッジの加工なんかも非常にちゃんとできていて。それが音に反映してるような感触を持っています。

ヴィンテージ・ギターと新品のギターの異なる点としては、たいていの場合ヴィンテージには前のオーナーがいますね。
稀にクローゼット・コンディションという全く弾かれていない状態のもあるんですけど、基本的には誰かが使っていたギターですね。

前に使っていた人は「このポジションをよく弾いてたな」とかわかるのですか?
そうですね。フレットの減り具合いとか、バックル跡の位置とか・・・。そういえば 面白い楽器に出会ったことがあるんですけど、バックルの跡が上と下に2つあって。ストラップを短めにギターを上の方に構えるカントリーかJAZZスタイルの人と、ストラップ長めのロックな人、スタイルの違う2人が所有していたんだろうなって。そんな想像も楽しいですね。

前のオーナーに思いを馳せるというか、ギターがどのように使われてきたのかにロマンがあると。
ありますねー。あと面白いんですけど、そういう使われ方をしてきた楽器っていうのは、そういうジャンルに適する音がしますね。弦高調整の仕方であったり、前のオーナーの好みみたいなものが、フレットの幅とか材質とかにも見てとれる。もちろん楽器屋さんに入ってから、(店舗の)ギター・テックの方が直したりはしているんですけど、やっぱり香る音があります。

じゃあ逆を言えば、新品のギターでは自分が初のオーナーになるわけで、自分の色に変わってゆくギターという考え方もできますね。
それはもう新品を持つ楽しみってのは、そういうところにあると思います。何年間か触りながらそのギターが変化していくのを楽しめる。ツアーに出たりして、初日が終わって次の日にネックの感じが少し変わっていたり。「ああ、(ネックが)そっちに動くんだぁ・・」みたいなことも、ひとつの楽しみではあります。

小倉さんが最初に買われたギブソンのエレキ・ギターは ES-335 でしたね?
ES-335 ですね。70年頃の3ピース・マホネックものだったんですけど。大学1年の夏休みに田舎に帰った時に楽器屋でギターを試奏してたら、いきなり髪の長い水商売風の方に声をかけられて、「君ギターうまいね、ちょっと今日から僕のやってる店でギター 弾いてくれない?」って誘われて・・・。大丈夫かなって思ったけど(笑)興味があったので行ってみたんですよ。 そしたらギターじゃなくって、ベースを弾かされたんです。ディスコ・バンドのベーシストの方が逃げた(笑)みたいで、その日からベーシストがいないっていうんで。僕を誘った方はそのバンドのバンマスだったんですけど、焦っていろんな楽器屋に足を運んで、出来そうな人を探していたらしくて。そこで僕がひっかかってしまい(笑)、夏休みの間、 1ヶ月ディスコ・バンドのバイトをやったんです。その時に頂いたお金で、別のお店でギターを弾いてた方が持っていた 335を。彼はもう足を洗って(笑)別の仕事をしたいっていう話があって。「じゃあ、僕にこの 335譲ってくれない?」って、そのバイト代全部を彼に渡して335を手にして東京に帰ったっていう・・・そういう出会いでしたね。

その出会いがレスポールや SG であった可能性もありましたが、335 との出会いに意味があったかもしれませんね。
当時はクロスオーバー・ブームで、ラリー・カールトンだったり、リー・リトナーだったりセミアコが すごくブームになっていた頃で。ちょうどその時期だったので、非常に嬉しかったですね。 でもほんと偶然です。彼がSGを持ってたらSGだっただろうし、レスポールだったらレスポールだろうし、 ストラトだったらストラトだった。私もエレクトリックギターのちゃんとしたものが欲しかった訳なので。でも渡りに船じゃないけど、ラッキーなことに335を手にする事が出来ました。

小倉さんのファースト・ギブソンの70s ES-335の印象は?
そのギターがとにかくプレイヤビリティが良くって、特に自分には70年の335は非常に弾きやすくて、手に馴染んだっていうか。あの頃のって(ナット幅が) 40ミリのスリム・ネックで、それからテンション感もちょっと弱いんですよね。そこに .010 のゲージを張って弾いてたんですけど、それまで弾いてきたエレクトリックギターの中でいちばん弾きやすかった。自分の思う通りにチョーキングもできて、やっぱりギブソン凄いなって思いました。

The Art of Strings vol. 2 Hirokazu Ogura Interview

12/16 2021 at NEIGHBOR
Interviewer: Tak Kurita Gibson Japan
Special Thanks: Jun Sekino

小倉さんといえば、多くのヴィンテージ・ギターを弾かれています。今日はとても珍しいヴィンテージのトリニ・ロペス(1965年製のギブソン・トリニ・ロペス・スタンダード)を持ってきてもらいましたね。
今回(マーフィー・ラボの)トリニ・ロペスを選んだのも、ヴィンテージと比べてどうなんだろう?という興味もあって今日はこうして持ってきてみました。

今日弾いていただいた製品について感じたこと、気付いたことはありましたか?
やっぱりカスタムショップは非常に良くできてるなと。トラスロッドのチューブが無くなったあたりから (2013年、ヴィンテージ同様の仕様へと、トラスロッド自体の直径と設置位置が見直され、それまでトラスロッドを包んでいたビニール・チューブも廃止された)。あと、V.O.S.(ヴィンテージ・ギターを意識したマット気味のフィニッシュで、あわせて艶を落としたハードウェア類を採用)。ちょっとダメージを入れた感じとか。ブリッジの加工なんかも非常にちゃんとできていて。それが音に反映してるような感触を持っています。

ヴィンテージ・ギターと新品のギターの異なる点としては、たいていの場合ヴィンテージには前のオーナーがいますね。
稀にクローゼット・コンディションという全く弾かれていない状態のもあるんですけど、基本的には誰かが使っていたギターですね。

前に使っていた人は「このポジションをよく弾いてたな」とかわかるのですか?
そうですね。フレットの減り具合いとか、バックル跡の位置とか・・・。そういえば 面白い楽器に出会ったことがあるんですけど、バックルの跡が上と下に2つあって。ストラップを短めにギターを上の方に構えるカントリーかJAZZスタイルの人と、ストラップ長めのロックな人、スタイルの違う2人が所有していたんだろうなって。そんな想像も楽しいですね。

前のオーナーに思いを馳せるというか、ギターがどのように使われてきたのかにロマンがあると。
ありますねー。あと面白いんですけど、そういう使われ方をしてきた楽器っていうのは、そういうジャンルに適する音がしますね。弦高調整の仕方であったり、前のオーナーの好みみたいなものが、フレットの幅とか材質とかにも見てとれる。もちろん楽器屋さんに入ってから、(店舗の)ギター・テックの方が直したりはしているんですけど、やっぱり香る音があります。

じゃあ逆を言えば、新品のギターでは自分が初のオーナーになるわけで、自分の色に変わってゆくギターという考え方もできますね。
それはもう新品を持つ楽しみってのは、そういうところにあると思います。何年間か触りながらそのギターが変化していくのを楽しめる。ツアーに出たりして、初日が終わって次の日にネックの感じが少し変わっていたり。「ああ、(ネックが)そっちに動くんだぁ・・」みたいなことも、ひとつの楽しみではあります。

小倉さんが最初に買われたギブソンのエレキ・ギターは ES-335 でしたね?
ES-335 ですね。70年頃の3ピース・マホネックものだったんですけど。大学1年の夏休みに田舎に帰った時に楽器屋でギターを試奏してたら、いきなり髪の長い水商売風の方に声をかけられて、「君ギターうまいね、ちょっと今日から僕のやってる店でギター 弾いてくれない?」って誘われて・・・。大丈夫かなって思ったけど(笑)興味があったので行ってみたんですよ。 そしたらギターじゃなくって、ベースを弾かされたんです。ディスコ・バンドのベーシストの方が逃げた(笑)みたいで、その日からベーシストがいないっていうんで。僕を誘った方はそのバンドのバンマスだったんですけど、焦っていろんな楽器屋に足を運んで、出来そうな人を探していたらしくて。そこで僕がひっかかってしまい(笑)、夏休みの間、 1ヶ月ディスコ・バンドのバイトをやったんです。その時に頂いたお金で、別のお店でギターを弾いてた方が持っていた 335を。彼はもう足を洗って(笑)別の仕事をしたいっていう話があって。「じゃあ、僕にこの 335譲ってくれない?」って、そのバイト代全部を彼に渡して335を手にして東京に帰ったっていう・・・そういう出会いでしたね。

その出会いがレスポールや SG であった可能性もありましたが、335 との出会いに意味があったかもしれませんね。
当時はクロスオーバー・ブームで、ラリー・カールトンだったり、リー・リトナーだったりセミアコが すごくブームになっていた頃で。ちょうどその時期だったので、非常に嬉しかったですね。 でもほんと偶然です。彼がSGを持ってたらSGだっただろうし、レスポールだったらレスポールだろうし、 ストラトだったらストラトだった。私もエレクトリックギターのちゃんとしたものが欲しかった訳なので。でも渡りに船じゃないけど、ラッキーなことに335を手にする事が出来ました。

小倉さんのファースト・ギブソンの70s ES-335の印象は?
そのギターがとにかくプレイヤビリティが良くって、特に自分には70年の335は非常に弾きやすくて、手に馴染んだっていうか。あの頃のって(ナット幅が) 40ミリのスリム・ネックで、それからテンション感もちょっと弱いんですよね。そこに .010 のゲージを張って弾いてたんですけど、それまで弾いてきたエレクトリックギターの中でいちばん弾きやすかった。自分の思う通りにチョーキングもできて、やっぱりギブソン凄いなって思いました。

インタビューで言われていますが、「迷ったら 335 を持ってく」ということが当時の現場ではあったのですか?
今みたいにスタジオに行く前にデモテープがあるという時代ではないので、どんな曲が出てくるかわからない時代だったんです。行ったら譜面があって、「せーので録音を始めて。そこから音色をちょっと整えるって時に、335って、ほんとに便利で。セミ・アコースティック・ギターって、ギブソンの歴史の中で“最後に出てきた楽器”だと思うんですよ。その前にレスポール(ソリッド・ギター)があって、その前にフル・アコースティック・ギターがある。フル・アコースティック・ギターからソリッド・ギターにいって、最後1958 年に作られたものが、ボディのセンターにウッド・ブロックが通ったソリッドなんだけど、周りがホロウ・ボディっていう。335のソリッド・ボディを ホロウ・ボディで挟むっていうのがギブソンとしては最後のオリジナル構造であり発明だと思うんです。

僕が感じるに、セミアコっていうのは、“こういう風に”とイメージして作った以上の威力を持ってるっていうか、アタックがソリッド・ギターに比べるとエアー感があって太いんです。でもリリースは(ボディの中に)センター・ブロックが通っているので、ちゃんと延びてくれる。なのでカッティングでバッキングする時は、ローを絞ってあげてミッド・ハイ(中高域)を立ててあげたら、アタックも出つつパーカッシヴな部分もソリッドな部分も録れる。ナチュラルな音でも歪ませてでもこの構造の特徴としてサウンドメイクがすごく楽で、強く歪んだ音も潰れずにバランスよく録れる。当時はカッティングからソロまでクランチ・サウンドも含めて、“迷ったら 335で奏でておけば、どんなアレンジでも正解の音に持っていける”っていう。あとはエフェクターとかプリアンプで調節してやると、「もう一回録り直そうか」っていう話にはならなかったんですね。これが他のギターだと、「ああこれ、やっぱこの曲には向いてないね」ってこともありました。

最近は SG の使用頻度も高いようですね。
もう“マイ・ブーム”なんですよ(笑)今回もう一本のギターに選んだのも、だからなんです。今ちょうど(福山雅治氏の)ツアーに参加しているところなんですが、エレキはSG をメインで使ってます。61 年のものと、62 年のものと、それから 2013 年にできたホワイトなんですけど。とにかくSGって本当に深いっていうか、触ってみてわかることがいっぱいありましたね。

SG を使う人って、まあ例えばアンガス・ヤングとか、デレク・トラックスとか、SG がメイン・アイコンとなっていて、他のギターのイメージは全く無いよっていうプレイヤーが多々いますね。
SG好きは多いですよね。

特別な何かがあるのですか? SG 弾いたらもう他のに行けなくなっちゃうという。
そうですね、他へ行けなくなっちゃう人は多いでしょう。思うに SG は、ギブソンがフェンダーのストラト キャスターに対抗して送り出したモデルなので、まずは弾きやすさを重視したと思うんですよ。 レスポールはシングル・カッタウェイで、ストラトのあのカッタウェイの深さに負けないようにハイ・フレットまで指が簡単に届くようにしないといけないっていう意識で1958年に335 が生まれたと思うんです。あとレスポール・スペシャルも59年にダブル・カッタウェイになる。最後に出たのが SG。SG はもうほんとに最後 のフレットまでボディの外に出ていて、しかも右手の腕の当たるところにコンターがついているっていう 。 それから軽いですよね。61 年からラインナップに加わるんですけど、ネックもワイド・ネックながら薄くて弾きやすい。とにかく弾きやすいってのが先ずひとつあると思いますね。

それからサウンドも面白い。SGは楽器によってまるで違うサウンドがする。出会いみたいなもので、ぴったりはまっちゃうと、”このギターが無いともう弾けない”ってとこに行きやすいんじゃないですかね。僕が持ってる SG の中でも、セミアコ寄りのちょっと膨らんでくれるのもあれば、レスポール寄りの、レスポールにも色々ありますけど、タイトなレスポールのようなサステインを持った楽器(SG)もあります。オール・マホガニーのシンプルな構造ですから木の個体差がハッキリと出るんでしょうね。

振り幅があるのですね。
そうですね。いろんな楽器があります。SG は登場してから1回もラインナップが途切れたことがない楽器だし、作られた数も多い。振り幅がそれだけあって、いろいろと弾いてみると、どれも全く違う。また改造されたものも沢山ある。SGはストラトキャスターに対抗して作ったものだから、当初は基本アームが付いてるんですけど、61年にはプル・サイドウェイでしたっけ?、62 年にはエボニー・ブロックだったり(エボニー・ブロックのついた初期型マエストロ・ヴァイブローラ)、そのアーム自体が特徴のひとつになるんですけど。

SG のイメージって、みんなストップ・テイルピースだったりしません? 改造も楽なんでストップに変更されている物も多いんですね。知らないうちは僕もオリジナル・ストップ・テイルを探してたんですが(笑)、よくよく SG のことを知っていくうちに (60 年代の) ヴィンテージにはストップ・テイルの SGって本当に少ない。いちばん近いのでビグスビー。これもとても少ないです。プル・サイドウェイだったり、板バネの使いづらさってあるんじゃないかって最初は思ってました。まあ確かにそうなんですが(笑)、逆に慣れてくると、その響き、ゆらぎが面白かったりするんですが・・・。 今はストップ・テイルとアームが付いているものと両方使っています。 曲によって持ち替えたり。アームが付いてるっていうのも大きな特徴で、僕にとって最初はマイナス・イメージだったんですけど、今となってはそれがサウンド的にも非常に面白い。仕様も様々ですしブリッジの形状もいくつもある。そういうことも含めて、SG にハマるとけっこう深い沼ですね(笑)。

小倉さんといえば、50 年代のゴールデン・エラと呼ばれる時代のギブソンを幾つか所有されています。 そこに搭載されているのがハムバッカーの元祖である PAF と呼ばれるピックアップですが、ギターによっても違うから一概には比べられないとは思うのですが、PAF には個体差がかなりあるって言われてますけど・・・。
ありますねー(笑)。でも僕のPAFの印象って、それぞれ特徴はあるけど、やはりどれもレンジが広い。ソリッド・ギターの ピックアップっていうと、やっぱりテレキャスターの初期のものとかすごく良い音がするんですけど、ノイズの問題が・・・。PAF はハムをしっかりとキャンセルしてくれるのがとてもありがたかったと思うんです。シングルコイルの良さをちゃんと残したサウンドがしてくれる唯一の一番扱いやすいピックアップだったんだと思います。

ギブソンが、「これからタイプ別で新たな PAF の復刻モデルを作りますと言うとしたら、何バージョン、何パターンくらいあればよいのですか?
マグネットのバリエーションが 2、3、4、5 とあるじゃないですか。(57-63 年に作られた PAF ハムバッカーは個体差が大きく、マグネットもアルニコ 2、3、4、5 の各種類が確認されている) 57 年のアルニコ 3のものはちょっと出力が弱いんだけど、僕のゴールド・トップはそうですけど、思いっきりいった時に パーンと出てくるんです。一番シングル(P-90)のイメージが残っていると思う。それがひとつ。 それからその後に58年からアルニコ4ってのに替わって、ここからPAF が搭載された楽器が増えていくんですが、ES-345 の場合はバリトーン・スイッチが付いてたりして、普通のピックアップの出力だと、あれ (バリトーン・サーキット)を通すと(音が)細くなってしまうので、ターン数の多いピックアップが作られて。 楽器がバラエティになるのに伴って、PAF の個体差が出てくるんです。ターン数が多いアルニコ 4を使ったものはすごく良くて。僕の 345 の場合はバリトーン・スイッチを外して使っているのですが、 そうすると本当にどんなオケの中でも存在感がある。逆にちょっとあり過ぎるんで使えない曲もあるっていうくらい(笑)。例えば3ピース(バンド)とかでギターで埋めてゆくっていう時なんかには、必ずそのギターを使います。だからアルニコ4のピックアップ。

それから最後に60 年以降のアルニコ5。アルニコ5のピックアップになってからは、出力がちょっと変わってきます。アルニコ3は一番アコースティックな感じで、アルニコ4になるとちょっとミッド寄りになって、ハムバッキング的な味わいが出てくる。 60年になるとアルニコ5になって、その色合いがより強くなるんですけど、その3パターン。それから 61 年 からのショート・マグネット。これもなかなか面白くって。今持っている楽器の中で僕が PAF に感じる違いっていうのはその3つ。どれを使うかは、その時に合ったものを使うっていうことになるのかな。セッションの時に自然に、「あれ、やっぱこのギター使ってるんだ」みたいな(笑)。

今日弾いていただいたのはどちらもアルニコ3です。じゃあこれから全パターン作るように言っておきます(笑) 。
いやいやいや(笑)。でも本当にアルニコ4のターン数が多いものっていうのはなかなか使い勝手が良いと思います。

少なくともそれはやりましょう! もう少しヴィンテージ・ギターの話に入っていきますけど、ツアーでも使われてるじゃないですか?
普通に使っています。

ヴィンテージ・ギターをツアー、特に野外で使うのって注意しなくちゃいけないと思います。コンディション管理とか、運搬とか・・・。
ツアーに持って行くのなら“プレイヤーズ・コンディション”のものがよいと思います。弾き込まれたヴィンテージは良い音で鳴ってくれるし弾きやすい。程度の良い(あまり弾かれていない)クローゼット・コンディションの物ではなくても、例えばピックアップが替えられていても、ちゃんと鳴ってくれる楽器はあるので。あと野外で使うのは本当に気をつけたほうがいいと思います。特にナチュラル系のトップを持っている楽器なんかは、汗一発で塗装が溶けて見た目が大変なことになったこともあります。良い音がするのでどこででも使いたくなりますが、夏フェスにヴィンテージは、注意が必要かと(笑)。後は、旅に一緒に持っていく時、ケースに入れる際は必ず弦を緩める。弦を張ったままで輸送中に衝撃を受けると、ギブソンはハードケースに入っていてもネックが逝っちゃうことがあります。

小倉さんのギターに対する接し方は、偏愛と言うか、愛でると言うか、我が子を慈しむようですが、その源泉はどこから?
基本的にギタリストはプレイヤーとギターとでひとつだっていう風に思ってます。またどう考えてもギターの方が次の時代まで長生きするので、だからっていうわけではないんですけど、楽器に対してのリスペクトはありますね。楽器との出会いで音楽をやらせてもらったっていう思いもあるので。できるだけ良いコンディションで使い続けて、次の持ち主、次のプレイヤーに渡ってくれたらいいなと思っています。

そうは言っても、レコーディングでもライブでもガンガン使っていますし、やっぱりメンテナンスや調整が必要だと思います。“ここまではあり、だけどこれ以上はだめ”っていう線はあるのですか? 例えば、ナット、フレットとか消耗品は変えてもいいけど、ロックピンはだめとか。
ロックピンは付けたことはないですけど、必要ならばやればいいと思うんですよ。でも僕の場合は変えるというより、60年の楽器だったら出来るだけ60年当時の部品に戻すようにしています。消耗品は替えられているものが多いので、オリジナルに戻していくことの方が、その時代の良さが出てくるんじゃないかなって。実際ペグを替えるだけでも音が変わりますから。当時の製作者の意図や全体のバランスもあるので、チューニングがやりにくいとかあるかもしれないですけど、それよりも“サウンドが ハマったな!”っていう、ぴったりいったっていうか、そういう時に“こういう音がするんだ、この楽器”っていう喜びのほうが大きいので、ちょっとチューニグしづらくてもそっちを選んじゃうっていうか・・・

機能性よりもサウンド優先なのですね。
そうですね。機能面は慣れることが出来るんですけど、サウンドはやっぱり良いものを聴いちゃうとそっちに体が馴染んじゃう。それにギターを取り巻く環境も変わって機材もいろんなものが出てきて。アンプの代わりになるようなものとかも。デジタルがおこした変化は大きくて、その中でヴィンテージ・ギターの本質がよりはっきり感じられることもあります。

先ほども(リハ中)話題になりましたが、これだけアンプもエフェクターもデジタルによる進化がありますが、ギターは未だに 50年代 、60年代のものが基本になっているようですが。
面白いんですけど、デジタル・システムの分解度が上がると、よりヴィンテージの楽器の良さがどんどん出てくる。もともとはアンプとギターでひとつの楽器だった訳で、アコースティック・ギターのボディの部分がアンプのエンクロージャー、アンプが変わるとまったく音が変わる。でもデジタルは音が入ってから出るまで、どんどんエフェクターで変えていっても芯が変わらない。この感じはデジタルのアンプ・ シミュレーターが出てきた後に開いたドアだと思うんです。もちろんアナログ・アンプってほんとに素晴らしいものなんだけど、それとまったく別のものとして考えて、ヴィンテージ楽器も、デジタル時代になって「ひとつ新しい世界が開けちゃったな」みたいなことを感じたことはあります。

例えば桑田佳祐さんの「真夜中のダンディー」、JUJU さんの「やさしさで溢れるように」、スガシカオさんがボーカルのバンド kokua の「Progress」など、小倉さん録音の名曲を改めて聴いてみますと、ギターに対する愛情と音へのこだわりを感じます。曲の中でのギターの存在感がものすごいんです。イントロが始まると、“それで世界が開ける”というか、“もっていかれる”って感じです。小倉さんのこだわりがリスナーに知覚できるというか。現代の楽曲にヴィンテージ・ギターのサウンドが融合することで、小倉さんが参加した作品にはケミストリーが起きているように感じます。
それはうれしいですね。桑田さんの「真夜中のダンディー」(1994 年)は、アナログ・テープで録音されています。アンプはプリンストン・リヴァーブかな?、そこに直でぶっこんでマイクを立てて。 kokua の「Progress」(w/スガシカオ、2006 年)は、デジタル・アンプで作った音をバグ・エンド(スピーカー・キャビネット)で鳴らしたのとライン録音したものをミックスした音です。どちらもヴィンテージの楽器で、「真夜中のダンディー」は、70 年の 335 。「Progress」は 55 年のホワイト・ファルコン。あとJUJU さんの「やさしさで溢れるように」は59年の355ですね。出口はどうであれ、ヴィンテージ楽器のサウンドには密度があるって思います。普通に新しい楽器もずいぶん使うんですけど、そういう“顔が見えるようなサウンド”っていうか、ギター1本で何か表現しなきゃいけない、特に裸でギター1本っていう時は、自然とヴィンテージを使っていますね。今回のマーフィー・ラボのエイジドされたものは最初からそれに近い感覚がありますね。でも、これから 10 年、20 年で変わっていくと思うし、そういう楽しみがありますし、面白いですよね。

自らのギター愛にとどまらず、ヴィンテージ・ギターの存在や音を皆にも知ってもらいたいといった意図も感じます。小倉さんのアルバムにはギター・クレジットが付いていますね。ソロアルバム「SOUND OF STRINGS SKETCH SONG 2」収録の「Winter Wonderland」などは特に、「1959年製のレスポールは、こんな凄い音が出るんだよ」ということを世に伝えるための演奏なのではないかと考えてしまいます。
うれしいですね。伝わればよいですねー。ギターの音の気持ち良さと弾き心地に自然とインスパイアされるっていうか、その気持ちのよさが伝わるように。テクニックみたいなものも、その中にある。ギターの機能の中で作曲するので、ギターとの出会いによって新しい曲が浮かんできたりもしますし。まさにギター有りきですね(笑)。

自身のルーツをお伺いします。どういう音楽を聞いて、こういうスタイルになったとか、物心ついた時に、こういう音楽にはまっちゃったとか。
小学生の頃よく聴いたのは映画音楽などのインストミュージック、メロディやハーモニーが好きで詩のないものをよく聴いてました。ギターと出会ったのは中1の時。私の実家は家具屋をやっていて、木の匂いがいつも家の中に香っていて、あと職人さんがカンナを使ったりとか釘を打ったりっていう技を見て、そういうのに憧れていました。職人さんたちが作業をしているのを見ていると自然で美しいんですよね。家具を作っている職人さんと、ギターを弾く友人がちょっとかぶったりしたんですね。木と技?(笑)。

それで、中学1年からギターにのめり込んだっていう。その頃は、フォーク・ブームだったかな、あとロック・・・。僕らの 頃はクリームだったり、レッド・ツェッペリンだったり、CSNY だったり、ジェームス・テイラーだったり、日本で言えば拓郎さん(吉田拓郎)だったり、はっぴいえんど、ティン・パン・アレイだったり、その後、クロスオーバーが出てきてラリー・カールトンだったり、ケニーバレル・・・。どれが一番だということもなく聴いてきたと思います。なので弾きたいフレーズやコードもいろいろとジャンル問わずいっぱいあるわけで、そういうのが混ざって今の自分のスタイルが出来ているのかな。

そうやって60年代以降のロック、ポップ、フォーク、ジャズを主に聴いてギターを学んでいく訳ですが、そこで使われていた楽器はやはり50年〜60年代の今で言うところのヴィンテージ・ギター。当時はニューモデルだった訳ですが(笑)、今に続くロックミュージックのギター・スタイルが生まれたのも、当時最先端だったエレキギターとアンプの組み合わせからです。自分がヴィンテージ・ギターのサウンドに惹かれるのも、単純に言えば当時好きで聴いていたレコードに入っていたサウンドがするからです(笑)。クランチやディストーション・サウンドが生まれて、そのサウンドが世界に広がってギターを使った新しい音楽が次々と生み出され、今につながっている訳で。今、普通に暮らしていてエレキギターのサウンドを耳にしない日は無いと思う。テレビやラジオ、YouTubeやいろんなお店で流れているBGMの中にも必ずギターが入っている訳で。

少し話はそれますが、エレクトリックギターに繋がる座史は1833年にさかのぼります。ドイツからアメリカに渡ったマーティン1世がニューヨークでギターショップを始めた年、マーティンのロゴにはEST1833と記されています。当時ギターは女子がたしなむもので音楽のメインストリームはクラシック・ミュージック、その中心はバイオリン。ヨーロッパのギター製作者は夢をもってアメリカに渡ったんだと思います。それから1世紀、アメリカでギターは進化します。1930年代にはギブソンがES-150エレクトリックギターをリリース。1950年以降、続々といろんなメーカーの量産が始まり、エレキギターのクランチ・サウンドはチャック・ベリーによってロックンロールと言う革命的なスタイルを生み出すことになります。移民としてアメリカに渡ったギター製作者達の夢が、長い年月を経てアメリカの文化としてのロックンロールを生み、逆に海を越えヨーロッパに響いたそのサウンドは、ビートルズやローリングストーンズ、エリック・クラプトン等を育て、それまでの音楽を取り入れた結果、クラシックをしのぐ大衆の音楽になっていく。その誕生のエネルギーが今の音楽にも脈々と流れていると思うんですよね。エレキギターをアンプに繋いでガーンと(笑)。その大音量にクランチ・サウンドの倍音感、そこにエレキベースとドラムセットが加われば3人でオーケストラにも負けないサウンドが鳴る。それはすごい事だったんじゃないかなぁ。音楽教育を受けてない人でも、音楽のメインストリームにアクセスできるツールを手に入れた訳ですから。その喜びはとんでもなかったんじゃないかと(笑)。その喜びの延長線上に、現在のロックやポップミュージックもあるのだと思います。ギターはこれからもしばらく大衆のメイン楽器であり続けるんじゃないかな。

最後の質問は小倉さんが、“こんなギブソンのギターがあったらいいのに、即買いなのに”っていうものは?
そうですねー。ちょっと個人的な話をさせてもらうと、僕は身長170㎝位なんですが、やっぱりギブソンってアメリカ生まれなんで身長180㎝ぐらいの人が楽に弾くように出来ていると思うんですよねー。だから17/18でレスポールを作ってほしいな(笑)。木材は作って貰う人と選んで・・・。そうしたら新しい世界がそこに開けるんじゃないかと思います。もう夢の話ですけど、そういうレスポールやSGがあったら即買いですね(笑)


収録を終えて

栗田隆志 Gibson Japan

ギターを愛でるように弾き、我が子を慈しむように扱う小倉さんのギターの接し方と考察は、一般的なギタリストの域を超えていました。今回のインタビューは、“小倉さんのギター偏愛の源泉とは”というテーマがありましたが、冒頭から途切れることなく続くギター談義が楽しくて、時間を忘れて聞き入ってしまいました。取材を終えてから考えたことですが、それは“渇望では?”と思いました。本人が口にはしなかった、「プロとして弾きたいギターを弾く」という目標を実現するまでの間、けっして短くはなかったはずの苦労を重ねた時代に抱き続けた、今でも頭の中で鳴っているという、「あの音を出したい」という飢えのようなものです。その強さ故に、数々の素晴らしい楽器との出会いと、それらを弾けることに今はただ感謝し、その想いを音として人に伝えたいのではないかと。

インタビューで取り上げた音源ですが、ソロ作品「SOUND OF STRINGS SKETCH SONG1&2」は、シンプルながら味わいあるアレンジと演奏で、どなたでも楽しめる内容になっていますが、さらにヴィンテージ・マーチンや、ギブソンの名器の音を知る、サウンドファイルとしての聴き方もできます。また、スガシカオさんがボーカルを務め、日本を代表するプロデューサーとミュージシャンによるオールスター・バンド”kokua”のアルバムは、人気TV番組の「プロフェッショナルとは?」というクロージング部分で毎回オンエアされるタイトル曲 「Progress」をはじめ、バンド・アレンジの高密度なギター・サウンドに包まれることができます。

  • SOUND OF STRINGS SKETCH SONG 1

    SOUND OF STRINGS SKETCH SONG 1

    使用されたギブソン・ヴィンテージ・ギター

    • 2. "Cavatania" - ES-345 (1959)
    • 7. "Unchained Melody" - Les Paul (1959)
  • SOUND OF STRINGS SKETCH SONG 2

    SOUND OF STRINGS SKETCH SONG 2

    使用されたギブソン・ヴィンテージ・ギター

    • 2. "The Christmas Song" - Les Paul (1959)
    • 7. "Winter Wonderland" - Les Paul (1959)
  • KOKUA "PROGRESS"

    Kokua - Progress

    使用されたギブソン・ヴィンテージ・ギター

    ES-345 (1959) / Les Paul (1957) / Les Paul (1959) / SG Ebony block (1962) / Les Paul SPECIAL TV Yellow (1959)

Product 使用ギターの仕様と特徴

1964 SG Standard With Maestro Vibrola Pelham Blue Ultra Light Aged

1964 SG StandardWith Maestro Vibrola Pelham Blue Ultra Light Aged

SG スタンダードは、50年代のレスポールがモデル・チェンジする形で1961年初頭に登場した。当初はレスポールのモデル名が使われていたが、本人との契約が終了したことを受けて、63年中頃からSG(ソリッド・ギター)スタンダードとなった。15/16インチ厚(約34ミリ)の薄いボディは1ピースのジェヌイン・マホガニー製で、最終22フレットまでがボディから突き出た深く鋭いカッタウェイ、外周全体に施された大胆なベベル加工(面取り)を備えたエクストリーム・シェイプが大きな特徴となる。レスポールを引き継いだエレクトロニクスが組み込まれているものの、個性的なボディ構造によって滑らかさとアコースティックさを兼ね備えた独自のトーンを備えている。SGは60年代のギブソン・ソリッド・ギターの中で最も成功したモデルであると同時に、現在でも主要モデルのひとつとして生産が続けられている。

64年のSG スタンダードを再現したこのモデルは、発売当初のごく薄いグリップから、再びミディアム・サイズのラウンド・グリップへと戻ってきた時期に相当し、マーフィー・ラボならではの手作業でエッジを丸めるエキストラ・ロールド・バインディング加工によって、使い込まれたギターさながらの滑らかな弾き心地が生み出される。ファイアーバードに合わせて63年に登場したマエストロ・ロング・ヴァイブローラは、ギブソンで最も多用されたヴィブラートであり、その動作はナロウでクラシック・スタイルながらも抜群の安定感を備えている。ピックアップは、ヴィンテージ・トーンを再現するためにアルニコ3・マグネットを使い、あえて2つのボビンのターン数を僅かにずらし、ノン・ポッティングで仕上げたカスタムバッカーである。

淡いブルー・メタリック・フィニッシュは、60年代にカスタム・カラーとして用意されていたペルハム・ブルー。マーフィー・ラボのウルトラ・ライト・エイジド加工によって、表面にはウェザー・チェックと呼ばれる塗装の微細なヒビが施されている。

1964 Trini Lopez Standard Ebony Ultra Light Aged

1964 Trini Lopez StandardEbony Ultra Light Aged

テキサス生まれのトリニ・ロペス(1937-2020)は、彼のルーツであるメキシコ系のギタリスト/シンガー/俳優として60年代を中心に活躍した。1964-71年に発売されたシグネチャー・モデルにはセミ・アコースティックのスタンダードに加えて、フル・アコースティック・タイプのデラックスも少量生産された。トリニ・ロペス・スタンダードは、当時まだ20代だったロペスがギブソンで人気の高いES-335を元にして、ファイアーバード・スタイルのヘッドストック、スプリット・ダイヤモンド・インレイ、そしてバウンド加工されたひし形サウンドホールという仕様を加えて、その名を冠したモデル。

発売年である1964年トリニ・ロペス・スタンダードのリイシューとなるこのギターは、象徴的なヘッドストックからサウンドホール、そしてモデル名が刻まれたテイルピースまでが当時そのままの姿で再現されてている。ベースとなっているのは左右のボディ・ホーンがややスリムになった64年型のカスタムショップ製 ES-335。オリジナル同様に縦向きにシリアル・ナンバーが打刻された6個のチューナーが並ぶファイアーバード・タイプのヘッドストック、60年代のギターからスキャニングされたやや肉厚のあるミディアム・C グリップ。専用のスプリット・ダイヤモンド・インレイが施されたネックはローズウッド/マホガニー製で、ボディ深くまでネック・エンドが差し込まれたロング・テノン・ジョイントがハイド・グルー(ニカワ)を使って行われている。ボディは、厚みの異なるメイプルとポプラを組み合わせた約5ミリ厚の専用プライウッド材をアーチ状へとホット・プレス加工したもので、内部センター位置にはソリッドのメイプル・ブロックがセットされている。カスタムショップ専用となるカスタムバッカー・ピックアップは、アンバランス・コイル、アルニコ3・マグネットを組み合わせたヴィンテージ・スタイル。当時カスタム・カラーとして用意されていたエボニー・フィニッシュにはマーフィー・ラボ専用に配合されたラッカーが塗布され、年月を重ねることで生まれる細かなヒビまでもが再現されている。

テキサス出身のトリニダード・ロペスは、メキシコ系のギタリスト/シンガーで、60年代を中心に幾つものヒット曲を生み出した。モデル発売時期は1964-71年と長くはなかったが、ジョニー・スミス、バードランド、バーニー・ケッセルといった他のミュージシャン・モデルよりも人気があった。ヴィンテージ市場では長年マニア好みのモデルとして知られてきたが、90年代からデイヴ・グローブが愛用し、彼のモデルとして再び発売されたことで大きく注目された。2020年にトリニが亡くなった時、デイヴは追悼の言葉とともに、1967年製のトリニ・ロペス・モデルをフー・ファイターズの全アルバムで使用し、それがバンドのサウンドになっていると語った。

文:關野淳
大手楽器店、リペア・ショップを経て、現在は楽器誌、音楽誌で豊富な知見に基づく執筆を行うヴィンテージ・エキスパート&ライター。


プロダクト・テクニシャンによるコメント

福嶋優太 Gibson Japan

ネックの調整
小倉さんのリクエストにより、弦は0.009-0.042を使用、弦高も低い方が好みとの事でしたので、音が細くならないように意識してセッティングを行いました。普段はヴィンテージ・ギターを弾かれているとの事ですので、ヴィンテージと持ち替えた際に違和感が出ないように、長く使い込まれたギターのフィーリングが得られるように工夫しています。SGやES系のギターで0.009-0.042弦を使用したセッティングは少々不安でしたが、収録された小倉さんの演奏を聴くとタッチやニュアンスが非常によく出ておりサステインもある事に驚きました。

ピックアップ
意識したのはヴィンテージ・ギターのように、まとまりのある出音にセッティングする事です。0.009-0.042の弦のゲージも考慮し、ピックアップよりの音になりすぎないようにセッティングしました。SGを弾く際には、タッピングなども多用するとの事でしたので、ブリッジ側のピックアップがピックアップ・リング上面と面一(段差がない状態)になるように、ご自身でセッティングされていました。

試奏器セットアップデータ

1964 SG STANDARD WITH MAESTRO VIBROLA MURPHY LAB ULTRA LIGHT AGED
ネックリリーフ(ネックの反り具合) 0.0120mm
12フレット上の弦高 6弦 1.5mm
12フレット上の弦高 1弦 1.0mm
テイルピース高(ボディトップ⇔テイルピース下部) N/A
ピックアップのセッティング リズム トレブル
ピックアップカバー面から弦までの距離*22フレットを押さえた状態で計測 6弦 2.8mm 6弦 4.8mm
1弦 1.8mm 1弦 4.0mm
各弦ポールピースから弦までの距離*22フレットを押さえた状態で計測 6弦 2.7mm 6弦 4.5mm
5弦 2.6mm 5弦 4.0mm
4弦 1.6mm 4弦 3.5mm
3弦 1.8mm 3弦 5.0mm
2弦 1.3mm 2弦 3.8mm
1弦 1.3mm 1弦 4.0mm
1964 TRINI LOPEZ STANDARD MURPHY LAB ULTRA LIGHT AGED
ネックリリーフ(ネックの反り具合) 0.0120mm
12フレット上の弦高 6弦 1.5mm
12フレット上の弦高 1弦 1.0mm
テイルピース高(ボディトップ⇔テイルピース下部) N/A
ピックアップのセッティング リズム トレブル
ピックアップカバー面から弦までの距離*22フレットを押さえた状態で計測 6弦 3.3mm 6弦 3.3mm
1弦 2.3mm 1弦 2.8mm
各弦ポールピースから弦までの距離*22フレットを押さえた状態で計測 6弦 2.8mm 6弦 3.3mm
5弦 2.9mm 5弦 3.0mm
4弦 2.1mm 4弦 2.3mm
3弦 3.0mm 3弦 3.3mm
2弦 1.5mm 2弦 1.8mm
1弦 1.3mm 1弦 1.2mm