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米国内において、テネシー州ナッシュヴィルに拠点のあるギブソンのカスタムショップ以上に、ギター製作における複雑で難解な職人技を完全なかたちで実践している工場は他にはないでしょう。カスタムショップの職人達の努力と奮闘ぶりは、Collector’s Choice™というモデル群やSignatureモデルといったリミテッドラン(限定生産品)の生産に捧げられています。これらのモデルは、伝説的なギタリストや熱心なコレクターの所有する極めて貴重なギターを、そっくりに複製するというコンセプトのギターなのです。これらのプロジェクトに挑む目的はシンプルではっきりしています。それは完璧なギターを創造することです。そうすることで、あらゆるプレイヤー達は、1950年代の後半に生産されていたオリジナルのLes paulを緻密に再現した最高のギターを所有することができるようになるということなのです。

“1950年代後半という時期は、ギター製作史における頂点です” とカスタムショップのヒストリックプログラムをその立ち上げ時点より管理監督してきたEdwin Wilsonは語っています。“ギブソンにとって革新的な時代だったのです。あれだけの短期間で多くのモデルを創造しました。50年代にギブソンが製作したエレクトリックギターは、音楽産業全体にとって画期的な先例となったのです。”

 

Collector’s Choice™ and Signature Guitars: The “Whys” and “Hows” of Replicating Vintage Gibsons

 

ギブソン・カスタムショップで製造されるギターは今も変わらず、そのバインディングは手作業でギターの外周に沿って巻かれ、乾燥用のラックで保管されます。そこで次の製造ステップに移る準備ができるまで一晩待機することになります。

 

1950年代当時は、もちろん誰もこれらのギター達がここまで深い尊敬を集めることになろうとは、想像だにしませんでした。1960年代の中期から後半にかけて英国人ミュージシャンの活躍が定着するにつれ、開拓精神溢れるプレイヤー達はこれらのギターを手にするようになり、特に1959年製のLes Paulを最も信頼する相棒・愛器とするプレイヤーが増えていきました。全世界の意欲的なロックンローラーは気付きだしたのです。“もしジミー・ペイジがLes Paul Juniorをプレイしていたのなら、Les Paul Juniorこそギタープレイヤーがもっとも弾きたがるギターになっていたことでしょう” とWilsonは語っています。“しかし実際には、ジミーはサンバーストのレス・ポールを弾き、レス・ポールとともに、他のどんなアーティストがもたらしたものよりもずっと大きな影響を聴衆にもたらしました”

Wilsonは続けます。“Duane AllmanやEric ClaptonやJeff BeckやMichael Bloomfieldのようなミュージシャン達ももちろん大きな影響力をもたらしました。彼らもSunburst Les Paul使いであり、1959年より数年経過した後に、Sunburst Les Paulを手にしている点で共通しています。当時はまだそのギターは現実的に購入可能な価格で売られ、ギブソン社はもうそのモデルを生産していないという時期だったのです。ギタリスト達はSunburst Les Paulを捜し求めるようなり、現存する個体数も少なかったため、Sunburst Les Paulの価格は高騰し始めました。どのギタリストもジミー・ペイジに憧れたのです。価格が高騰しだすことは自然なことだったのです”

必然的に、ヴィンテージのギブソン・エレクトリックギターの販売提示価格が高騰し、ヴィンテージ市場は多くのコレクター達を惹き付けるようになります。コレクターとは、圧倒的なギター演奏の名手というわけではなく、ギターを購入するための資産・財力を持つひとびとのことです。固定された供給量・本数が増え続ける需要と組み合わさることで、市場原理によるマジックが起こり、価格は益々高騰していったのです。そして今日に至るまでに、’59 Sunburst Les Paulのほとんどや他のヴィンテージ・ギブソンエレクトリック・ギターは、ごく一般的な消費者にはまったく手の届きようがない状況になっていったのです。

 

 

ほとんどのアーティストモデルやコレクターズ・チョイスのモデル群には、2015年に導入されたトゥルーヒストリックモデルでのボディトップの加工法(double carved top)が採用されています。ボディトップの削りこみを2回に分けて実施する加工プロセスにより、より精緻なトップ形状が実現し、1950年代のオリジナル生産されたLes Paulに見られるthe dish carve profile(よりなだらかで自然なトップ上の起伏の状態)を実現しています。

 

“今日、もし皆様がヴィンテージギターを購入される場合、もっとも軍資金が必要となるヴィンテージギターはというと、1950年代に作られたギターとなります” とWilsonは語っています。“これは間違いがありません。’59 Les Paulの現在の市場価格は6桁の数字の真ん中くらいまで($50万前後)になっています。たとえ、Les Paul Juniorのようなもう少し仕様的に簡素化されたモデルであっても、それでも数万ドルはするでしょう。これは驚くべきことです。もともとそのモデルが市場に登場した時、基本的にはエントリーレベル(初心者)向けのギターと考えられていたのですから”

明らかに、カスタムショップが仮にこれらのヴィンテージの傑作品を手の届く範囲まで値を下げたいと思っても、何も為す術はありません。しかしながら、その次に最良な方策は実行できるのです。’59 Les Paulや他のヴィンテージ・ギブソンエレクトリック・ギターの大半は著名なギタープレイヤーや名声のあるコレクターの手元にあるのです。カスタムショップは定期的にそのどちらのコミュニティとも連絡を取り合い、ある特定のギターがコレクターズ・チョイスやシグネチャー・モデルの候補として適切かどうかを決定するために様々な要素を比較検討することができるのです。

 

 

ギブソン・カスタムショップは今も変わらず、オリジナル生産されたギターがそうであったように、フィニッシュの作業のほとんどを手作業で行っています。ここでは、tv yellowのカラーのステインが手作業により塗布されているところで、この後の工程でニトロセルロース・ラッカーによるトップコートが吹き付けられます。

 

“コレクターの多くは膨大なコレクションを所有しています。Flying V, Les Paul, Les Paul Junior, Explorerや他のモデルなど多岐にわたります” とWilsonは指摘します。“彼らコレクター達がヴィンテージギターのマーケットを形成しているのです。同様に、彼らはカスタムショップが複製し商品化するギターのマーケットをも形成しているのです。あるギターがヴィンテージギターの愛好家達の間で有名になっていくと、そのギターはカスタムショップが将来復刻するギターの一候補となるのです”

Wilsonは更に続けます。“考えなければならないことは多いのです。ボディトップのこと、サウンドのこと、ネックまわりのこと、そしてそのギターの過去の所有者達やそのギターにまつわる逸話や入手先などです”

ある特定のギターを復刻することが決定したら、ヴィンテージギターのコミュニティの助けを借りながら、カスタムショップはそのギターのオーナーを探し出します。重要なことは、ウィルソンやカスタムショップのスタッフは、すべてのヴィンテージ・ギブソンのギターの生産で使用されたマテリアルやエレクトロニクスについて、ギブソン内で保管された詳細の記録・資料へとアクセスできるということです。ほとんど変わることなく、ギターのオーナー達はそのオーナーが所有するギターが復刻されるというアイデアを熱烈に受け入れてくれています。ひとたびカスタムショップが検体となるギターを手にすると、次のプロセスは高精度のスキャニングによるギターの形状のデータの収集となります。

 

 

もっとも繊細な工程のひとつは、バインディング上に塗布されたフィニッシュを取り除く工程です。高い技術と熟練の技が欠かせない工程で、マスキングやガイドなどの工具を使わずに完全に手作業で行われます。

 

“我々は、3-Dのレーザースキャナーを使用しています。特殊な据付けの機具を使い検体となるギターを固定し、ネック、ボディトップそしてヘッドストックについて必要な情報を得ていきます” とWilsonは語っています。“3-Dのイメージ・画像を作成しコンピュータースクリーンに表示します。次にその情報は、一対のそれぞれ異なるプログラムの中に取り込まれていきます。そうすることで、100%正確な寸法を複製することができるのです”

実際には、検体となるギターのあらゆる細部が文書化されます。擦れた部分や色合いや古さびのニュアンスなどの情報も含みます。ネックの複製は多くの場合、もっとも難しい工程ですとWilsonは付け加えています。“オリジナル生産された600本を越える’59 Les Paulの1本1本のネックは、それぞれが僅かに異なるユニークなものなのです” とWilsonは解説しています。“複雑に入り組んだ詳細データをネックの開発に注ぎ込むことは、疑う余地もなくもっともチャレンジングなプロセスなのです。1000分の1インチの精度が求められるのです。完璧に複製し、それぞれのネックが検体としてコピーしているネックとまったく同様となるよう、正確さを追及しているのです”

もちろん、Collector’s Choice™やSignatureモデルを製作するということは、プレイヤビリティとルックスだけに留まらない考察が不可欠です。比類ないレベルの献身さと情熱が、複製されているギターのトーンの追及に注がれています。例えば、1950年代後半当時は、PAFのピックアップのコイルは機械で巻かれていましたが、しばしばターン数が僅かずつに変えられていました。ゆえに、オリジナルのPAFは、個体によってよりハイエンドが強かったり、逆にベース側が強かったりしたのです。

 

 

コレクターズ・チョイスのLes Paulモデル群はファイナルセットアップ時に2種の別個の段階を経ます。ギターを工程と工程の間で休ませ、次ぎの段階で工場の定める仕様に沿って試奏が行われます。

 

“我々はトーンを重視しています” とWilsonは語っています。“ギブソンはいくつもの種類のピックアップを製造しています。検体となるギターがカスタムショップに持ち込まれると、ピックアップの出力を計測し、もちろん試奏してみてどんなサウンドの傾向なのかをチェックします。先ず、検体のピックアップとストックしているピックアップの出力レベルを合わせようとトライしてみます。たいていのケースでは、既存のストックしているピックアップを調整して検体の特徴に寄せていきます。しかしながら、検体となるピックアップがときにユニークなものである場合、我々カスタムショップはピックアップを0から製作することになります”

プロトタイプが完成すると、次にアーティストやコレクターのもとへプロトタイプが送られ、場合によって更なる手直しのリクエストがはいったりはいらなかったりします。つい最近では、Cheap TrickのRick Nielsenと彼の’59 Les Paulを検体としたレプリカの作製を共同で行ったところです。適切な配慮をしながら、カスタムショップはその検体のクロームメッキされたリプレースメントパーツのブリッジの複製を行いました。しかしながら、結局は、Nielsenはそのシグネチャーモデルにはオリジナルのニッケルメッキのブリッジが搭載されることのほうを好みました。もちろんカスタムショップは本モデルの仕様の変更を行いました。またNielsenは、彼の適度に使い込まれたオリジナルの’59 Les Paulの “Lifton” ケースの複製を希望しました。この件についても、カスタムショップはNielsenの望みに応じました。

 

 

ギブソン・カスタムショップで製作されるギターは、製作時のほとんどの工程は今も変わらず手作業で行われています。上の写真は、1959 Les Paulの復刻モデルで多くの手作業が含まれる工程のひとつを撮影したものです。

 

“カスタムショップのルシアー達は最高の仕事をしましたね。素晴らしいです” とNielsenは語っています。“私の’59 Les Paulは素晴らしいタイガー・ストライプの杢をしたカーリー・メイプル材が使われていて、木目はとてもタイトな感じなのですが、カスタムショップのルシアー達はそれを忠実に再現しました。またウェイトに関しても私のオリジナルとまったくいっしょです。1950年代後半に作られたLes Paulは1本1本サウンドが異なるのですが、カスタムショップのルシアー達は、明らかにその点を突き詰めていますね。私には詳細は分からないけれども、ワイヤリングやピックアップの出力の強さなどその他の技術的なことを突き詰めていることが感じられます。最高のサウンドです”

こういった製作プロセスの中でもっとも満足感をもたらしてくれる側面について訊かれるとき、Wilsonには率直な答えがあります。“最も興味深い瞬間は一番最後にやってくるのです” と彼は応えます。“ギターにカラーの塗装を施し、クリアラッカーのフィニッシュを施し、そしてフィニッシュにエイジングの処理を施します。その瞬間、すべてがひとつになって完成した感じになりますね。ギターを抱え、ネックの感触を確かめ、検体とした1959年製のLes Paulとまったく同じように感じられるのです。色合いもルックスも完璧です。これらのことがすべて合わさって、最高の瞬間を実感できるのです”

 

 

ひとたび最終検品のセクションを通過すると、すべてのカスタムショップのギターはラックに載せられ、ケースにしまわれる前にもう一度検品され、箱に収められてから出荷されます。