
ダブルカッタウェイ、アーチトップ。そしてホロウボディ
創立から150年以上の歴史を持つエピフォンがカジノを発売したのは1961年。このギターを文字で表すと、ネック接合部の左右が内側に切れ込むダブルカッタウェイを有した、いにしえのジャズギターを受け継ぐ伝統的なスタイル。表板が中央に向かって緩やかに盛り上がるアーチトップも、ジャズギターの流れを汲んでいる。
注目すべきは、内部が完全空洞のホロウボディ構造だ。同系統の薄型ギターでは、ボディ内部にセンターブロックと呼ばれる芯材を置くのが一般的だが、カジノはそれを排している。
理由は、カジノだけの響きを生み出すため。芯材がない空洞ボディは、アコースティックギターを彷彿とさせる、ふくよかで太めの音色を醸し出す。ごく単純に言えば、アンプを通さずとも手元の鳴りが楽しめる構造だ。
一方、ステージ上で大音量を発するバンド演奏では、空洞ボディゆえハウリングやフィードバックを起こしやすい特性を持っている。カジノはこれを回避するため、ボディに数枚の板を重ね合わせた合板を用いて、鳴りの適度な抑制を実現。加えて、2基備えるドッグイヤーP-90ピックアップを金属製のカバーで覆うことで、マイルドなトーンを目指した。
そんなカジノならではの特徴は、すぐに名だたるアーティストたちに発見されていく。
文: 田村 十七男

ブリティッシュ・ロックに愛されたカジノ
1960年代に世界を席巻したブリティッシュ・ロック。カジノは、その中心で活躍したバンドのギタリストに愛された。ザ・ローリングストーンズのキース・リチャーズ。ザ・キンクスのデイヴ・デイヴィス等、枚挙にいとまがない状況となった。
英国の音楽シーンで興味深いのは、ギターの志向性が後の世代にも受け継がれるところだろう。1970年代にデビューしたU2のジ・エッジや、後にソロ活動を始めるポール・ウェラーも、カジノを弾くミュージシャンだった。

そうしたブリティッシュ・ロックとカジノの親和性を最初に見出したのは、ザ・ビートルズのポール・マッカートニーだった、というのが定説。人生で1本のギターを選ぶとしたら、自身が所有する1962年製と答えるくらい、ポールはカジノに惚れこんでいるらしい。
そしてまた、ポールの勧めでバンドメンバーのジョン・レノンやジョージ・ハリスンがカジノを弾き始めたという経緯も、今なおファンの間で様々な推察を楽しむトピックになっている。
ジョンとカジノには、こんなエピソードがある。最初のカジノのボディカラーは、中央から外側に向かって色目が暗くなっていくサンバースト仕上げ。あるとき、塗装を剥がすと音がよくなると聞きつけたジョンは、手持ちの別のギターで実験。確証を得た後、カジノのサンバースト・フィニッシュを剥がしてカスタマイズした。それが、現在では定番カラーとされているナチュラルに発展したという。
ジョンはこのカジノを気に入っていたようで、ザ・ビートルズ最後のパフォーマンスとして有名なルーフトップコンサートで弾く姿が映像に残っている。
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新たな歴史を刻み続ける誇り
ここまでは、カジノの出自にまつわる過去の話。より重要なのは、幾多の細部変更を行いながら、このギターが現在も新たな歴史を刻み続けていることだ。
ギター好きが相棒たる1本を選ぶきっかけになるのは、先述の素晴らしいアーティストたちが華々しく演奏する姿への憧れがあるだろう。一方、出自や歴史、または伝説的なカジノ使用アーティストを知らなくても、ルックスに惹かれてしまうことがある。
エレキギターと言えば、単板または合板で成形し、内部に空洞がないレスポールを代表とするソリッドボディを王道とするのかもしれない。しかし、往年のジャズギターのスタイルを保ち、バイオリンなどクラシックの弦楽器に見られるf字のサウンドホールを持ったギターは、過去にとらわれない世代には新鮮に映るのではないだろうか。実際に、エレキギター=バンドの概念に縛られることなく、カジノで弾き語りする若手が増えてきているという。

アーティストが新しいサウンドを求めるとき。あるいは、初めてギターを弾く者が未知の経験に期待を抱くとき。
そうしたそれぞれの出会いの場面に、今もってここにしかない音を奏でるカジノという選択肢があること。それは、ブランドネームの頭文字を象ったピックガード上のマークとともに、エピフォンの誇りと言っていい。

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