『Gibson Crossover Live』|奥田民生(MTR&Y)、Hedigan’s、グソクムズによる一夜限りのスペシャル・ライブ

 

近代ポピュラー・ミュージックのサウンド構築に大きく寄与し、今もなお多くのポップス&ロック創造のインスピレーションの基となっているアメリカのギター・ブランド“ギブソン”。各楽器から生み出されるトーンはもとより、ギブソン・ギター&ベースを構えるプレイヤーのビジュアルそのものが、アーティストの音楽の一部になっているとも言える存在だ。

そんな世界的ギター・ブランドの名を冠したライブ・イベント『Gibson Crossover Live』が、去る10月19日(日)にZepp Haneda (TOKYO)で開催された。

 

 

昨年には同社創立130周年を記念した『GIBSON 130th ANNIVERSARY LIVE“Go Beyond”』など、これまでにもギブソンの名を冠したライブがあったが、今回は奥田民生(MTR&Y)、Hedigan’s、グソクムズという世代もバックボーンも異なるラインナップとなった。全バンドの共通点はギブソンを鳴らし、ロックを奏でているということ。本記事では、ギブソンの音を中心点に個性豊かなミュージシャンが交差する対バン・イベント『Gibson Crossover Live』をレポートしていく。

 

 

 

 

 

 

 

オープニングアクト・グソクムズ

 

 

そんなライブのオープニング・アクトを務めたのが、4人組バンドのグソクムズ。ルックスも含め、オールディーズ・スタイルも取り入れたポップ・ロックが逆に新しい彼ら。颯爽と登場した、たなかえいぞを(vo、g)がマエストロ・バイブローラ付きのSG Standard '61を構え、ライブがスタート。1曲目に披露したのは、爽やかなナンバー「それは恋に違いない」だ。たなかのSGは、“ギブソンの似合う男にならなければ”と思い立ち今年購入したばかりという1本で、軽やかなクランチ・トーンで曲の世界観を彩っていく。本人も“ソリッドな音で住み分けもしやすいので、バンド・サウンドに立体感が出ました”と本器の魅力について語ってくれた。

 

 

もうひとりのギタリストの加藤祐樹は、“ギブソンはヘッドがカッコいい。ほかのギターはあまり使ったことがない”というギブソン・フリークでもある。今回も愛用のLes Paul Junior Double Cutにてプレイした。

 

 

そんな加藤の個性は、2曲目「いっつも」で見ることができた。イントロ・パートやソロでスライド・バーを駆使し、粘り腰のフレーズを披露。クランチ気味にオーバードライブさせたP-90特有の少し暴れるサウンドが、ハネ感のある曲をよりグルーヴさせてくれる。普段は4弦・5弦といろいろな機種を使い分けるベーシストの堀部祐介は、Non-Reverse Thunderbirdで低音を奏でる。ハムバッカー特有の丸い音は楽曲にピッタリで、なによりもノンリバースが持つ60sなイメージはバンドとの相性がとても良い。

 

 

中島雄士のドラムから始まり、たなかのダンディな歌声が響く「あぶないルール」でも加藤はスライド・ギターを挟みつつ、ソロではハイ・ポジションでのフレーズもプレイ。

 

 

スタイルは違うが、どことなくスラッシュっぽさも感じられ、ある意味ではギブソンの存在感の大きさも再認識させられるのだった。続く「hand」で加藤はルーカス・ネルソン・モデルのLukas Nelson ’56 Les Paul Juniorにチェンジ。

 

 

歌をサポートするようなバッキングや語りかけるようなソロを聴かせてくれた。そして早くもラストとなったのが、バンドの知名度をグッと上げた「すべからく通り雨」。

 

 

たなかはカスタムカラーのES-335に持ち替え、粒は細かめだがセミ・ホロー・ボディらしい温かみのある音とともに、爽やかなシティ・ポップを歌いあげていった。観客から大きな拍手が起こり、4人はオープニング・アクトとして、会場を大いに盛り上げたのだった。

 

 

 

“人生のハイライトです! これまでは仮免許を一発合格したことがハイライトだったんですけど、それが塗り替えられました(たなか)”、“もう思い残すことはない!(堀部)”などなど、このステージを振り返ってくれた彼ら。すでにギブソンの似合う男になっている4人につき、ぜひ今後も躍進してもらいたい。

 

Hedigan’s・ライブステージ

 

 

グソクムズのステージを観たファンたちは、この日のコンセプト――ギブソン・ギターを軸に展開する、いつもとはちょっと違った趣向のライブ――に、興味津々となったことだろう。そして次のHedigan’sでも、ほかでは見られないギブソン・ギターの“トリプル・プレイ”を目撃することになる。

Hedigan’sは、Suchmosのフロントマンでもある河西“YONCE”洋介を中心に、音楽仲間たちとともに2023年に結成。メンバーの栗田将治(g)、栗田祐輔(k)、本村拓磨(b)、大内岳(d)らもそれぞれに活動をする、ミュージシャンシップあふれるバンドだ。

 

 

YONCEの“ハロー”というひと声からスタートすると、レイドバックした雰囲気を持つ「再生」を披露する。黒いジャケットを羽織るギターの栗田将治は、お馴染みのビグスビー・ユニットを搭載したLes Paul Standardを使用。

 

 

本器は自身の祖父から譲り受けたというストーリーを持つ1本だ。心地よいクランチ・サウンドだが、同時にエッジが立ちすぎていないのは、やはりボディに充分な質量を持つLes Paulならでは。ギター・ソロでは“紹介しましょう……ギブソン・Les Paul!”とコールされ、ステージ前方でアーム・バーを大きく揺らし、愛器のサウンドを存分にアピールしたのだった。

 

 

 

「doyes」は三拍子主体のスロー・ブルースで、薄くショート・ディレイをかけたギターは、歌ものナンバーにさり気なく寄り添っていく。曲によって表情を変えるアプローチも、楽器ファンの聴きどころとなったことだろう。

そして本曲後半では、さらに大きな見せ場が待っていた。

 

 

フロントマンのYONCEが1958 Les Paul Junior Double Cut Reissueを構え、そこにキーボードを弾いていた栗田祐輔がFlying Vを手に加わり、ギブソン・ギターが壇上に3本そろったのだ。

 

 

 

 

そして三重奏となったギター・リフが重厚さを演出しながら「説教くさいおっさんのルンバ」がスタート。しかも今度は本村がベースではなくトランペットへと持ち替えるが、ギターがしっかりと厚みを出しているので低音が抜けているような印象はない。真っ赤な照明の効果もあり、混沌としたサイケデリックなサウンドスケープが会場を飲み込んで行ったシーンだった。

 

 

 

トリプル・ギター+ベースでの「BtbB」を挟み、ラストはパワーのあるロックンロール・チューン「O’share」へ。オーディエンスは冒頭から手を上げ、バンドもその熱に応えていく。栗田もすべてを出し切るというプレイで、ラストはギターを頭上へと掲げて、フィードバックを起こして大団円となった。幅広い曲調のバンドであり、ときに3本のギターが登場することもあったが、栗田はLes Paulだけですべての楽曲のトーンを作っていったことになる。

 

 

“ギターを始めた頃から使っているお宝のようなLes Paulを持って、自分の大好きなギブソンのイベントに出ることができて本当にご褒美のような1日でした”と語ってくれた彼の、そして彼らのギター・ロック愛がたっぷりと堪能できた40分間だった。

 

 

奥田民生(MTR&Y)・ライブステージ

 

 

時計は午後7時40分、『Gibson Crossover Live』はメイン・アクトの時間となり、奥田民生率いるMTR&Yがついに登場。古今東西ギブソンを愛用する演奏者は多いが、ここ日本において奥田はギブソンを象徴するアーティストのひとりと言えるだろう。シチュエーションによってさまざまなギターを使い分けるが、“サンバーストの1959 Les Paul”が代名詞の彼には、やはりギブソン・ギターが良く似合う。

 

 

メンバーは奥田、ベースに小原礼、ドラムに湊雅史、キーボードに斎藤有太という、これまで何本ものショウで共演しているスペシャル・バンド編成だ。4人はゆっくりと登壇し、奥田の“よろしくお願いします、ギブソンです!”のセリフを合図に、自己紹介と言わんばかりに「MTRY」で開幕。

奥田は日頃から使っているギブソン・ギター群をスタンバイさせていたが、まず手に取ったのはカスタムショップ製の1957 Les Paul Standard Goldtop Reissue。 “ベストマッチ”とも語っていたお気に入りの1本で、軽やかでありつつ密度もあるビンテージライクなトーンが、奥田の演奏スタイル。ひいては歌声にも本当にベストマッチだ。

 

 

「KYAISUIYOKUMASTER」では、SGシェイプのMelody Makerが登場。

 

 

 

ヴァイブローラの付いた1967年製モデルで、冒頭でもアーム・バーを揺らし、ミッド・ブースターを効かせた乾いたサウンドをくり出す。彼の体の動きも大きくなり、自身でもギターの音を楽しんでいるのがよくわかる。続く「イナビカリ」ではビグスビーを搭載させたLes Paul Specialをセレクトし、パワフルなドライブ・サウンドを響かせる。フロアのファンも、きっと各ギターそれぞれの音の違いを全身で感じられたことだろう。

 

 

その後も「マシマロ」、「さすらい」などお馴染みのナンバーがプレイされ、オリジナル59の“民生バージョン”と言えるLes Paul(プロトタイプ)を始め、さまざまなギターを手に多様かつ豪華なギブソン・サウンドを届けてくれた。

 

 

これだけ多くのモデルを奥田の演奏で聴き比べられるなんて、それだけでも貴重なステージになったと言える。しかも演奏されるのはヒット・ナンバーばかりでこの日集まったギター・ファンは大満足だったに違いない。本人はMCで“これでギブソンのギターが10本くらい売れたんじゃない(笑)?”と話していたが、本当にギターが欲しくなるステージとなった。

ライブもクライマックスとなり、Limited Run Tamio Okuda 1959 ES-330を携え「イージュー★ライダー」をプレイ。ブリッとしたドライブ・サウンドでありつつ、まったりゆったりな曲調に合う柔らかい出音になるのは、フルアコ仕様の330だからこそ。2ndコーラスではオーディエンスとともに歌うなど、会場中が一体となり、奥田も観客も非常に楽しそうな表情だったのが印象的だった。

 

 

奥田は“ありがとう!”と深くお辞儀をし、バックドロップのギブソン・ロゴを指さし、メンバーとともにステージをあとにした。

 

 

公演後、奥田は“やっぱりギブソンって形がカッコいい。ロゴの字もいいですよね、中学生時代にはノートに書いていましたもん(笑)”と語ってくれた。またボーカル&ギターというパートならではの意見として“本当のことを言うと、ダイナミクス的なところとか低音が多いところとか、歌うにはちょっとジャマだったりすることもあるんです。でもそれに負けないように歌うからいいのかなって。逆にスッキリしたギターだと、やる気があんまり出ないのかも(笑)。だからそれくらい存在感があったほうがいいんだと思います”と教えてくれた。選んだギターについては“今日はリイシュー・モデルも使いましたけど、最近のモデルはいろんな意味で本物よりもいいかもしれない。なので、皆さん何千万もするギターは買わなくていいです(笑)”とのこと。

3バンド、トータルで14本のギブソン・ギター&ベースが登場した今回のイベント。大型フェスでも、これだけ一気にいろいろな音色を聴く機会はないだろう。日本にはまだまだたくさんのギブソン・プレイヤーがいるので、ぜひ次回公演にも期待したいところである。

 

 

 

文: 岡見 高秀
撮影:横山 マサト

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ギブソンについて

ギターブランドとして世界でアイコン的な存在であるギブソン・ブランズは、創業から120年以上にわたり、ジャンルを越え、何世代にもわたるミュージシャン達や音楽愛好家のサウンドを形作ってきました。1894年に設立され、テネシー州ナッシュヴィルに本社を置き、モンタナ州ボーズマンにアコースティックギターの工場を持つギブソン・ブランズは、ワールドクラスのクラフツマンシップ、伝説的な音楽パートナーシップ、楽器業界の中でもこれまで他の追随を許さない先進的な製品を生み出してきました。ギブソン・ブランズのポートフォリオには、ナンバーワンギターブランドであるギブソンをはじめ、エピフォン、クレイマー、スタインバーガー、ギブソン・プロオーディオのKRK システムなど、最も愛され、有名な音楽ブランドの多くが含まれています。ギブソン・ブランズは、何世代にもわたって音楽愛好家がギブソン・ブランズによって形作られた音楽を体験し続けることができるように、品質、革新、卓越したサウンドを実現していきます。

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