#3 菰口雄矢「ロック寄りなアプローチをしたい人にES-355はすごくおすすめです」
1958年に「世界初のセミ・アコースティックギター」として発売されたギブソンのESシリーズは、セミホロウ・ボディやダブル・カッタウェイのデザインといった独自の仕様により、ロックやブルース、ジャズなど様々なジャンルのギタリストに愛されてきた。本記事ではESギターを愛用する魅力的なプレイヤーたちにフォーカスしていく。第3回目は、幅広いミュージシャンから支持を集めるギタリスト、菰口雄矢さんが登場。20代のころはバンドTRIXやソロで主にフュージョンのシーンで活躍し、近年はT.M.Revolution、河村隆一からずっと真夜中でいいのに。まで、数多くのアーティストのサポートを担当している菰口さんが、自身の理想とする仕様でカスタムオーダーしたマーフィーラボのES-355が完成した。主にレスポールを使っていた彼が、なぜこのタイミングでESに興味を持ち、どのように魅力を感じているのか。これまでのキャリアと照らし合わせ、ギタリストとしての現在地に迫った。
――最初に菰口さんがギターを手にした経緯を教えてください。
父がクラシックギターやフォークギターを趣味で弾いていたので、家にギターがある環境で育ったんです。小学4年生くらいまでは習い事でエレクトーンを習っていたんですけど、途中でやめちゃって。その頃、ビートルズや父親の好きな音楽を一緒に聴くようになったことで、自分で弾き語りをしたいと思うようになり、アコースティックギターを始めた感じですね。
――最初はアコギだったんですね。
そのときのヒーローが山崎まさよしさんで、まさよしさんがサザン・ジャンボ、J-45、L-0などを弾いている姿を見て、「いつかギブソンのアコギを持ちたい」と父とも話をしていて。そうしたら、小学校高学年のときにはわりと上手くなっていて、それで父親も面白がって、「ちょっといいギター買ってみるか」って、J-45を買って、2人でシェアして弾いていました。それがギブソンとの最初の出会いです。
――そこからエレキに行ったのは?
やはり、父親が聴いていた60年代・70年代の音楽の影響は大きくて、多分アンプラグドをきっかけにエリック・クラプトンを聴くようになったんですけど、テレビでクラプトンの来日公演を見たときに、エレキも楽しそうだしかっこいいなと思って。あとはジェフ・ベックの1999年の来日公演の再放送を見て、それもすごく刺さって、中1くらいのときに初めてエレキを買いました。最初はまさよしさんみたいに歌の伴奏がやりたいと思っていたんですけど、単音のソロを聴いて、「ギターってこんなに歌心があって、歌っぽく聴かせられるんだ」みたいなところにエレキの魅力を感じたのを覚えています。
――最近のギタリストで言うと、特に影響を受けた人はいますか?
僕の世代だとやはりジョン・メイヤーは大きくて、あとはデレク・トラックスですね。僕はデレク・トラックスが本当に大好きで、あのトーンの感じは未だにすごく感動するし、去年の来日公演も見に行ったんですけど、素晴らしかったです。最近だとインスタを中心に活動しているような人たちの演奏もこまめにチェックしていますし、自分が古くならないように、常にアップデートすることを意識しています。でも強く心を揺さぶられるのは昔から好きな人たちで、デレク・トラックスとかを見ると、自分もこんなふうに弾きたいなと思いますね。
――現在はいろんなアーティストにサポートとして関わられていて、もちろんアーティストごとに大事にするポイントは変わってくると思うのですが、サポート全体において心がけていることがあれば教えてください。
シンガーの声質も違えば、アレンジの密度もアーティストごとに違いますよね。たくさん音を重ねる音楽なのか、ビルボードでライブをするようなアーティストの、隙間がある音楽なのか。それによってギターに求められる音の面積も違ったりするので、自分が担うべきギターの帯域や、ポイントは現場ごとに全然違い、そこに対して自分の好きな音色の中でアジャストするようにしています。わりとシンプルな編成・アレンジのときはギブソンのギターを使いたくなりますね。レンジが広くて、ふくよかだから、ちゃんと歌と他の楽器の間を埋めてくれる。西川貴教さんのサポートをしたときは歪み系が多かったので、ずっとレスポールをメインにしていました。
――今回カスタム・オーダー・モデルのES-355を購入するに至った経緯を教えてください。
もともとレスポールが好きで、アニソンやロック、メタルっぽい音楽のレコーディングやサポートも多かったので、ガッツのあるゲインが欲しいときはレスポールを弾いて、そうじゃないときは別のギターを使うというように、わりと明確に分けていたんです。ただ、最近は「リフもソロもすごく歪ませる」みたいなシーンが少なくなってきて、クリーン・クランチでハムバッカーだと、ちょっとタイトすぎるなと思っていて。そのタイトさがレスポールを歪ませたときのパキッとした感じに繋がっているんですけど、クリーン・クランチで弾いたときにもうちょっとミッドの倍音感に複雑さが欲しくて、歪ませなくても中域をふくよかにしたいと思うと、やはりES-335がいいのかなと最初は漠然と思っていたんです。そんな中で、ギブソンのラウンジに遊びに行かせてもらって、マーフィーラボのES-355を弾かせてもらったときに「これだ!」と思って。
ES-355(菰口雄矢さんカスタム・オーダー・モデル)
――ノエル・ギャラガーのシグネチャー・モデルを試奏したそうですね。
そうなんです。「アコースティックにエレキを演奏したい」っていうのが昨今の自分のテーマだったんですよ。仕事でアコギもよく弾くんですけど、アコギで表現できていることがエレキで表現できてないなと思うこともあったりして。ES-355はエボニー指板で、自分が普段使っているアコギの音に近いんです。音の立ち上がりが速くて、もたつかない感じ。ES-335はローズ指板だったので、すごくセクシーな音がするんですけど、僕にとってはエボニー指板の方がコントロールしやすくて、それでES-335よりES-355かなと思ったのもありました。
――実際に購入して、1~2か月演奏してみての感想はいかがですか?
ローゲインにしたときでも中域がふくよかで、情報量が多い感じがするので、手元で絞っていっても、音が細くならないんですよね。それが今の自分のスタイル的にはすごく合っているし、なおかつ、がっつり歪ませたときもビグスビーがついている分、ちゃんと下も出るので、ハイゲインでハードロックなことをやろうと思っても十分対応ができる印象です。やはりES-335よりも腰高にならないところが一番気に入っていますね。ビグスビーがつくことによってテンションがゆるくなるじゃないですか。その分ラウドになるというか、半音下げしたぐらいの弦の揺れ方をするので、ロックトーンを目指したときも、いい結果が得られる。あのテンションのゆるさがグランジっぽさも醸し出しているなと思ったりして。
――確かに、演奏動画の中でも軽快にカッティングをするというより、チョーキングをしたり、ヘビーなプレイもされていて、それはある意味ES-355ならではの弾き方でしょうか。
そうですね。ロック寄りなアプローチをしたい人にES-355はすごくおすすめです。
――動画ではボリュームとトーンのコントロールで歪みも調節されていましたが、実際のレコーディングやライブでも同じようなアプローチをしているのでしょうか?
4つを一気には動かせないので、ライブだとある程度は基準値になっちゃいますけど、レコーディングではとにかくコントロールでいいポイントを探していくようにしています。足元(のペダル)でいじるよりも、フィルターじゃない感じがする。みんな大体10で音を作っているけど、10の音だとちょっともったいない気がするんです。だってエフェクターを買って、全部10では鳴らさないし、アンプを買って、全部10にはしないですよね。ギターにも10じゃないところに自分の好きな音のポイントがあるはずだから、それを探せばいいと思います。ケーブルが繋がったらもうロスしているわけだし、ある意味では自然なロスがある方が耳心地がよかったりもする。そういうのも探してほしいですね。
――本体のコントロールは10で固定して、ペダルで調整したり、レコーディングだと録音後のミックスで調節したりすることが多い気がしますが、ES-355はコントロールが4つあるわけで、それを生かせばギター本体で十分いろんな音色が作り出せると。
ライブでもレコーディングでも、EQされたくないっていうのがエゴとしてあるかもしれない(笑)。「このままの音がいいでしょ」っていう。だからもしローがどうとかハイがどうとかエンジニアさんに言われて、あとからプラグインで直して欲しくないっていうのもあって、できればその場で調整したいですね。そういう仕事を重ねていく中で、やはり2ボリューム2トーンを有効活用した方が、結果的に太いトーンが得られるなと思いました。
――現在ESの購入を予定している人に向けて、改めておすすめのポイントを教えてもらえますか?
とにかくジャンルレスに使えますよね。ロックもブルースもジャズもソウルもファンクもR&Bもこれ1本で演奏できちゃう。ES系はギブソンのエレキの中でも一番万能だと僕は思っています。レンジが広くて、手元でアジャストしやすいから。試奏で10で演奏してみて、ジャジーなトーンだなと思っても、ちょっと下げたらミッドがすっきりして、思っているよりローとハイが出たりすると思うので、そうやっていろいろ試してほしいですね。10で弾くと中域がファットな分、そこに歌をはめようと思うと、ギターのレベルを下げざるを得ないんですけど、ギターのレベルを下げるのではなく、ボリュームやトーンでミッドを少しスクープさせてあげると、もともとシングルコイルのギターよりも音が温かいし、レンジが広いから、はまる音楽はいっぱいあるだろうなと思う。なので、トーン5ボリューム5とかで音作りを試してみてほしいですね。そうすることでES-355に限らず、ギブソンのハムバッカーの良さだったり、ギブソンのギターの良さを新たに再発見できるような気がします。僕もマーフィーラボと出会ってから、まさにそんな気持ちになりました。僕の演奏を見てちょっとでもポテンシャルを感じてもらえたら、ぜひ楽器屋さんに試奏をしに行ってほしいです。
――今年の今後の活動について教えてください。
サポートで言えば、ずっと真夜中でいいのに。のツアーに全部参加するので、それが10月から来年の1月まであります。あと今KMHYというユニットをやっていまして、インストなのですが、ジャンルに偏らずに面白いものを作ろうと思って、ピアノの葉山拓亮さんと2人で活動しています。もうアルバム曲は全部録音しているので、それが出たらリリースライブをやろうかなと思っています。ライブではアコギとエレキが半分くらいで、エレキは今までレスポールを使っていたんですけど、ES-355を登場させてみようかなと思っています。
――ギタリストとして、表現者として、今後はどんな活動をしていきたいですか?
やりきったわけではないですが、20代のときはインストを中心に弾いてきた。難しいなと思ったのは、ギターミュージックは見に来てくれる人たちの分母が、どうしてもギターをやっている人が多くなってしまう傾向があり、自分の中でちょっと挫折があったりしたんですよね。なので、今はそれがメインではないですけど、いろんなアーティストのサポートをする中で、時間を見つけては自分のギターミュージックもやるようにはしていて。いろんな出会いがあって、この何年かで見ても自分のギターはすごく変化していて、そういうのをいずれちゃんとアウトプットしたいなと思っています。
――今年で『picture』からちょうど10年で、また菰口さんのソロを聴きたいという人もたくさんいるのではないかと思います。
ありがたいことに海外のファンの方も「いつ次が出るんだ?」みたいなメッセージを送ってくれるんですよね。日本語で歌っている音楽じゃなくインストな分、ワールドワイドでアピールできるんだなって。そういうメッセージを見て再確認してもいるので、日本だけの規模で考えずに、世界で聴いてもらえることを意識して、もっと自分から動いていきたいなと思っています。
Text:金子厚武
Photo:大石隼土
撮影場所:Amazon Music Studio Tokyo
◎PROFILE
菰口雄矢
兵庫県出身
10代の頃より卓越した演奏と楽曲で注目を集め、プロとしてのキャリアをスタート。
2008年TRI-Offensiveでメジャーデビュー。
2011年にTRIXに加入、6枚のアルバムを発表。(2016年12月TRIXを脱退)
2014年には自身初のソロアルバム『picture』をリリース。
監修した教則本ではその革新的なアイデアがギター界に衝撃を与えた。
河村隆一、西川貴教をはじめ、近年ではずっと真夜中でいいのに。など、
ジャンルを問わず数多くのアーティストとレコーディング・ライヴを重ね、厚い信頼を得ている。
WebSite:http://www.yuya-komoguchi.jp/
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