SGにまつわる疑問 / 一問一答

 

まるで2本の角(つの)を思わせるボディ形状、そして弾きやすさと味わいのあるトーンで、SG使いたちからすれば、「もう他のギターには行けない」と言わしめる唯一無二の存在であるSG

でも、「まわりに使っている人がいない」「実はちゃんと弾いたことがないから正直SGのことはよくわからない」、「初心者が使えるか不安」という声もあるかと思います。そこで今回のRIFFNVOICES OF SG LOVERSでは、SGに関する皆さんの疑問をクリアにしていきます。答えてくれるのは、アメリカン・ギターの専門家でギブソンの歴史に詳しい關野淳さんです。

注)SGが製品の正式名称になるのは、1963年にレス・ポール氏とのエンドースメント契約が切れた後からですが、便宜上、年式を問わずSGシェイプのモデルをすべてSGとします。

 

――SGって「レスポール」なんですか?どう見ても全然違いますけど・・・

1961年の初頭、皆さんの良く知るレスポールがモデルチェンジしました。ざっくり言うと、1960年までのレスポール・ファミリーがモデルチェンジして、後継モデルとして出てきたのが現在SGと呼ばれているモデルたちです。レスポールがレス・ポールさんのシグネチャーモデルだとすると、SGは完全にギブソンの社内デザイン・モデル。なので、本当はリリース時にレス・ポールの名を冠さないでSGでよかったはずですが、1961年はスターのレス・ポールさんとの契約がまだ残っていた。だから本当は今のSGの形になった時からSGの名前でよかったのですが、1963年にレス・ポールさんとの契約が解消されるまで、SGの形のギターはレスポールという名のままでした。

SGにまつわる疑問 / 一問一答

1960年のレスポール

SGにまつわる疑問 / 一問一答

1961年にモデルチェンジしたレスポール(SG)

 

――後継機種といってもネックやパーツ類はともかく、ボディは似ても似つきません。なぜここまで大胆なモデルチェンジがなされたのだと思いますか?

ちょっと話がそれますが、SGの意匠となるダブルカッタウェイ形状とチェリー・カラーって、1958年からのギブソンの仕様なんですよ。その当時のギブソンは、既存のイメージを一新する最新スタイルのギターの開発を行っていました。その時代の唯一の競合相手を相当意識したのでしょう。

SGにまつわる疑問 / 一問一答

1958 レスポール・ジュニア・ダブルカッタウェイ/チェリー

 

――SGって、マホガニー単板、アーチのないフラットトップ、カラーはチェリー単色と、ずいぶんとシンプルな仕様ですが、その頃に合理化や生産性の向上が求められる事情があったのでしょうか?

工場の生産キャパシティーの事情ではないでしょうか。チャック・ベリー、エルヴィス・プレスリーを筆頭としたロックンロールの流行によって、エレキ市場が急拡大したので、ギブソンとしても数か月~数年分に匹敵するバックオーダーを、どうにか消化しなければならなかったのだと思います。レスポールをはじめとする、アーチトップ、セットネック、バインディングに代表されるギブソン製品の製作には、ひじょうに手間と時間がかかるので、もともと量産には向かないのです。ま、それは今もなんですけど・・・。それに対してSGは、当時最先端の仕様で固めた上に作りやすかった。今の感覚ではわからないかもしれませんが、あの時代に先の尖った斬新なボディに真っ赤で木目が透けて見えるギターって、高級感とド派手さを兼ね備えていたのではないでしょうか。SGは、とにかく最先端とカッコよさを追求したけど、高度な木工技術と楽器製作の知見があるギブソンが作ったことで、音はまったく犠牲にならなかった。楽器メーカーの矜持ですよね。

SGにまつわる疑問 / 一問一答

1963 レスポールSGカスタム

 

――SGってソリッドギターの略ですよね?

実はSGの名称は1959年からあって、ジュニアやスペシャルですでに使われていました。エレクトリック・スパニッシュを略してESとしたので、ソリッド・ギターはSG

 

――SGってエレキギターの中ではボディがかなり薄いですよね?

そこは当然、競合メーカーの製品をかなり意識したでしょう。SGを開発する時点ですでにあったレスポール・ファミリーのスペシャル、ジュニアをさらに薄くして、とことん軽量化と弾きやすさを狙ったはずです。SGって薄さもそうですが、形状、構造のいずれも限界まで追い込んだ設計なんです。

 

SGにまつわる疑問 / 一問一答

 

――SGのボディをじっくり眺めてみます。6弦側は上から下まで外周が斜めに面取り加工されていて、1弦側も、くびれの位置より上が同様に加工されています。よく見ると、くびれ部分は左右対称ではなくて、そのピークは6弦側の方が1弦側よりやや上ですが。なぜ左右対称でなくて、こんなに作るのが面倒な形にしたのだと思いますか?

SGって美しさと弾きやすさが両立した奇跡的なデザインですよね。弾きやすさを追求すると、ボディの6弦側には体にフィットするように角をおとしたコンター加工のようなものが有用だった。で1弦側にはピックガードやコントロールがある。おそらくは斜めの角度からギターを見た時にも視覚的にボディ左右のバランスが維持されるように工夫したのでしょう。ちなみに競合メーカーは、すでにオフセットデザインのパテントを持っていました。

 

SGにまつわる疑問 / 一問一答

ボディ裏の身体に当たる部分にはコンター加工がある

 

 

SGにまつわる疑問 / 一問一答

一弦側のコントロール部にコンター加工はない

 

――ボディの尖った角(つの)も、よく見ると左右非対称ですね。

これもよく考えられていて、手がどこにも当たらずに22フレットまで弾けます。でも当時そんなハイフレットまで弾くプレイは、あまり一般的ではなかったはずなので、楽器のスペックが演奏より先行していましたよね。SG1960年代以降のハイフレットを多用したギターソロの登場に貢献したと思います。

 

SGにまつわる疑問 / 一問一答

僅かにアシンメトリーなボディ形状

 

――ボディ裏のネックとボディの接合部(ネックヒール)も独特の形状ですね。

ハイフレットでの演奏時の妨げになるネックヒール部をできるだけ小さくするために、限られた接着面積で強度を確保しなければならないので、ここはとても苦労したはず。結果ネックピックアップを後方(ブリッジ側)に動かさなくてはならなくなった。フライングVやレスポール・スペシャルを開発した時の知見をうまく活かしています。

 

 

――SGってストップテイルピースではなくて、もともとはヴィブラート付きが標準仕様なんですか?

1960年代のエレキギターにはヴィブラート・ユニットがお約束です。あの時代にそこまでその需要があったのかはわかりませんが、時代の最先端を狙いたかったし、競合メーカーに対抗する必須要素だったはず。これもスペックが演奏の先をいっていたと言えるかもしれません。ストップテイルピースのSGって1973年からの仕様です。実はSG1971に一度生産終了してます。その後にSGデラックス、プロなどの後継モデルが出たのですが、これらは非常に短命に終わりまして・・・。1973年にSGスタンダードが復活しました。

 

 

 

 

SGにまつわる疑問 / 一問一答

1964 SGスタンダード w/マエストロ・ロング・バイブローラー   

 

SGにまつわる疑問 / 一問一答

SG w/ストップバー

 

――SGはヘッドが下がるのでバランスが悪さが弱点という声を聞きますね。

ヴィブラート・ユニットが付いていた時代のSGは、ヘッド下がりって、そこまで言われていなかったはず。ヴィブラートがなくなったり、ペグを質量のあるものに変えたり、さらにはロックギタリストたちがギターを下の方にかまえて弾くようになってきたころから言われだしたかもしれないですね。これについては裏地がすべりにくい素材のストラップを使うとかなり緩和されるはず。本当は少しだけネックとボディのジョイント位置をずらせば改善されるとは思うのですが・・・。そこは、その当時限界に挑んだSGの開発コンセプトの結果なので、どうか受け入れてください!

 

――SGって、1961年のデビューから1960年代を通じてけっこう売れてたんですよね。ところが1968年になると1950年代のスタイルのレスポールが再生産となり、次第にそちらの方が注目を集めるようになりました。なぜですか?

SGはセールス的にも大成功したんです。売り上げはレスポールの数倍上がったはず。ギブソンとしては理想的なモデルチェンジだった。1970年くらいまではぶっちぎりでギブソンの人気モデルでした。当時人気だったポピュラー音楽や伝説のコンサートとなったウッドストックで多くのギタリストが使うなど、とにかくSGは大人気でした。

そんな中、1968年にレスポールが返ってきた。おそらくはピーター・グリーンやヤードバーズに影響されたのかな。1965年にローリングストーンズのキースがサティスファクションでレスポールを使ったのがエポックでした。ギターの音が歪み始めたのですが、そのブリティッシュ・ムーブメントがイギリスから海を渡ってアメリカにやってきた。決定打がレッドツェッペリンのジミー・ペイジでしょう。

エレキギターの音は、歪ませるとクリーントーンと比べて音色の差が狭まります。歪ませて使うのに使いやすいのが、レンジが広くてサスティーンが稼げるES-335とレスポールだったのだと思います。世の中で歪の音が主流になってくると、レスポールのサウンドに主流が移ってきた。でも、アコースティック感があり、サスティーンもあってハイフレットが弾きやすいSGは、デュアン・オールマン、ミック・テイラー、デレク・トラックスなどのスライドプレイヤーによって活路が見いだされた。

デレク・トラックス

 

――SGってロックしかできないのですか?

それはトニー・アイオミとAC/DCのイメージが強いかも。SGって実はアコースティックな音がするギターなんです。フロントとリアのミックストーンの時は特に。だからバンドで歌う人にも合うはずです。レスポールほど広いサウンドレンジではないけれど、サスティーンは豊か。SGは言うならばレスポールのメイプルトップをとっぱらったモデルで、マホガニーのトーンウッドとしての特性が余すところなく活かされていると思います。コスト面ではコリーナ、アルダー、アッシュを使う選択肢もあったはず。でもマホガニーで単板ボディって、楽器メーカーのギブソンならではのプライドだと思います。

 

SGにまつわる疑問 / 一問一答

小野武正(KEYTALK

 

――単刀直入に、SGって初心者でも使えますか? 

ギブソンのミディアムスケールは、一般的なエレキギターよりも短いので弾きやすいと思います。さらにSGならネックも薄いものが多いし。そしてボディが薄くて軽いから持つのが楽。サウンド的にはロックをやりたい方はもちろん、アコースティックを弾いている方のエレキギターとしてもおすすめです。SGって1961年から今まで、これだけ長く多くの人から愛されている親しみやすいギターなので、百聞は一弾きにしかず、イメージや先入観にとらわれずに、見た目が気になった方は選択肢の一つにいれてみてほしいですね。

 

SGにまつわる疑問 / 一問一答

小倉博和

RIFF n' VOICES of SG lovers

ソリッド・ギターの代名詞、
ギブソンSGの魅力を紐解くプロジェクト。