About ES

 

ESシリーズは、ギブソンのコレクションの中で最も人気のあるラインの一つである。中でも「ES-335」は、1958年に「世界初のセミアコースティックギター」として発売されて以来、今も愛され続けている。

 

誕生の背景と現在の形状に至るまでの歴史

 

ES」の文字は、「エレクトリック・スパニッシュ」の略。膝の上に置いて弾くハワイアンスタイルのラップスティールギターと区別するために付けられた名称だ。最初に登場した「ES」モデルはギブソンES-1501936年に発表され、商業的に成功した世界初の(スパニッシュスタイルの)エレクトリックギターとして一般的に認識されている。

ES-150の成功を受け、ギブソンはさまざまなESモデルを開発し、エレクトリックギターの技術とデザインを進化させていく。1950年代に入り、セミホロウやセミアコースティック仕様のギターが登場すると、ES シリーズもそれを導入。エレキとアコギを製造してきたギブソンならではの技術により、両方の特徴を兼ね備えたモデルが次々と生まれた。

エレキとアコギのハイブリットという特徴を持つESは、アンプを通さなくても「鳴り」がいい。しかも、必然的にサウンドの幅が広くなり、ロックやジャズ、ポップスなど多様なジャンルに対応可能なギターとなった。

ES-335Mesa/Boogieアンプの組み合わせは僕が発見した新しいサウンドだったから、とてもエキサイトしたよ。それがパフォーマンスにも功を奏したんだろうね」

ジャズギタリストのラリー・カールトンがそうコメントするように、ピックアップやボリューム/トーンのブレンド具合、弾き方のニュアンスやアンプとの組み合わせによって、さまざまなサウンドを作り出せるES-335。まさに、一生モノとして楽しめるギターといえよう。

 

 

ESギターシリーズの特徴とバリエーション豊かなモデル

 

セミアコースティックギターの代名詞として知られる「ES-335」は、上述のようにホロウ(空洞)ともソリッドとも異なるボディを持っている。中央には「センターブロック」と呼ばれる木製の板が埋め込まれているが、中空となっている両サイドにはバイオリンのようなFホールが設けられた。ハイポジションでのプレイアビリティをより向上させるため、ボディのハイポジションの部分をカットしたダブルカッタウェイを採用しているのもES-335の大きな特徴だ。

前例のないこの画期的な構造により、ES-335を初めとするギブソンのセミアコースティックギターは「ウッディ」と形容される独特のサウンドで、ソリッドギター(空洞のないボディ構造のギター)よりも「鳴り」がよく甘い響きを持つ。しかもサステインのあるサウンドや、センターブロックの導入によるハウリングの少なさなど、ソリッドギターの特色も兼ね備えている。そのためジャズやロックを含む、あらゆるジャンルで活躍するギタリストに愛されてきた。

また、1958年から生産されているES-335は、年代ごとのトレンドにより仕様を変化させたことで「時代の音」となった。例えばGibson Custom Shop 1959 ES-3351959年仕様)は、ドットインレイ、ロングピックガード、太目のネック、マウスイヤーホーン(カッタウェイ先端がやや太いボディシェイプ)といった特徴を持つが、Gibson Custom Shop 1961 ES-3351961年仕様)になると、ドットインレイはそのままに、スリムネック、マウスホーンが特徴となる。

 

Gibson Custom Shop 1961 ES-335

 

以降もT字マーク付きのピックアップやFホールの大型化、メイプルネック、 コイルタップの搭載など随時変更が追加。1981年には現行モデルにつながる「ES-335 Dot」がリリースされる。引き継がれるべきところは変わらず引き継がれ、時代のニーズに合わせて変えるべきところは変えてきたからこそ、ES-355は「ギターの定番」として長く愛され続けてきたのだ。

その後ES-335をベースとして、センターブロックを持たないボディ構造にP-90(ギブソンが開発したシングルコイルピックアップ)を搭載したES-330や、ステレオ仕様のバリトーンスイッチで音質を変えられるES-345TDSV、ビブラートユニットが付いたES-355TDSVなどが発売された。さらに近年は、ES-335をコンパクトにしたES-339など、機能や演奏性をより追求したESシリーズも発売されている。

 

Slim Harpo “Lovell” ES-330(生産終了モデル)

 

 

Marcus King 1962 ES-345 With Sideways Vibrola,(生産終了モデル)

 

 

Chuck Berry 1970s ES-355(生産終了モデル)

 

 

ES-339 Figured

 

 

 

 

それ以外にも、1949年に登場して以来「ジャズギターのクラシック」として知られるフルアコの定番ES-175や、ESと並ぶギブソンの代名詞であるレスポールのデザインと、ESの特徴であるセミホロウボディを組み合わせたES-Les Paulなど多様なモデルが過去にはラインナップされていた。

 

様々なアーティストたちに愛されるE Sギター

 

上記で述べたように、その画期的な構造による独特なサウンドと美しいデザインが特徴のESシリーズは、ジャンルを問わず多くのアーティストに愛されている。ここではその中からほんの一例を紹介していきたい。

まずES-335と言えば、「キング・オブ・ブルース」の異名を持つB.B.キングの名を真っ先に挙げなければならない。彼はES-335をメインギターに据えた最初の著名ギタリストで、ES-335ES-355など愛用してきたギターに、代々「Lucille(ルシール)」と名づけていた。1980年、ギブソンとエンドース契約を交わした際には、黒いES-355をベースとしたシグネチャーモデル「Lucille」をリリースしている。

 

 

一方、ブリティッシュロックの雄ノエル・ギャラガーも、オアシス時代からES-335を使い続けている。バンド初期の彼は同じくギブソンのレスポールを多用していたが、90年代後半にES-355 Vintage Modelを購入し、2000年代前半からライブにおけるメインギターとして登場するようになる。2022年にはギブソン・カスタムショップから、シグネチャー・モデル『Noel Gallagher 1960 ES-355 Aged』がリリースされた。

 

 

他にもジャズシーンではラリー・カールトンやリー・リトナー、ロックシーンではエリック・クラプトンやデイヴ・グロールなどが、ES-335の愛用者として知られている。日本でも横山健や星野源、山口一郎(サカナクション)など、枚挙にいとまがない。

一方ES-355の使い手は、チャック・ベリーやバーナード・バトラー、生形真一などが有名。他にも小沼ようすけがES-275を、奥田民生はES-330(ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスンが愛用していたエピフォンCasinoの基となったモデル)を愛用している。

また2020年に他界するまで精力的な活動を続けたチカーノ・ロックの旗手、トリニ・ロペスはダイヤモンド・ホールやトラピーズ・テイルピースが特徴的なモデルを愛用した。オリジナルの実器を徹底的にスキャニングして現在の技術で制作されたリイシュー・モデルが近年もリリースされており、ウルトラ・ライト・エイジド仕上げのマーフィー・ラボを手にすることもできる。

 

 

1964 Trini Lopez Standard Ebony Ultra Light Aged

 

ES-150の誕生から88年、リリース年から止むことなく、生産、販売が続くモデルでESシリーズはさまざまな改良を経て進化を続けてきた。新しい材料やピックアップ、ブリッジなどの革新的な技術を取り入れながら、伝統的なデザインとサウンドを維持し、より現代的なニーズに応える努力を惜しみなく注いできたからこそ、ESシリーズは今もなお現役のアーティストたちに愛され続けているのだろう。

 

RIFF n' VOICES of ES lovers

発売されて以来、今もなお愛され続けている
ESシリーズの魅力に迫る。