PREMIUM INTERVIEW
ELLEGARDEN 細美武士×生形真一
2022-2023 ELLE YEAR終結。未知の絶頂とその先へ。
2008年9月の活動休止からおよそ10年の時を経て再び動き出したELLEGARDEN。2022年12月21日には、16年ぶりとなる6thアルバム『The End of Yesterday』をリリース。そして今夏、アリーナとスタジアム公演を含む大規模ワンマンツアー<Get it Get it Go! SUMMER PARTY 2023>を絶賛敢行中の彼ら。今回ギブソンでは、今年3月から4ヶ月間にわたって開催された<The End of Yesterday Tour 2023>ファイナルを目前に控えたタイミングの細美武士と生形真一を直撃。『The End of Yesterday』を号砲に突き進んできたELLEGARDENの現在地と<Get it Get it Go! SUMMER PARTY 2023>を完走した先に見つめるビジョンについて語ってもらった。
『The End of Yesterday』は、あの頃の俺たちには絶対に作れなかったもの
――まず、16年ぶりの新作となった『The End of Yesterday』について訊かせてください。再始動後に新たなピークとなる作品を出すというのは大変難しいことですが、客観的なリスナーとして今作ではそれが達成されていると感じました。今回ELLEGARDENは、何故そのようなことが達成出来たのでしょうか?
細美武士(以下、細美) 今回の作品は、表面的に見れば16年前とすごく変わっているようにも聴こえると思うんです。でも俺たちは、初期からずっと日本のマーケットとか関係ないところで、世界のミュージシャンたちと張り合って音楽を作ってきたつもりだし、その時に思っていることを正直に自分の言葉で綴ることとか、そのスタイルが俺たちが大事にしてきたことなんですよね。だから今作でもそういう自分達の本質を変えるつもりはなかったし、まあ思い出の再現を一生懸命やるっていうやり方もあったのかも知れないけど、それをやってたら失敗していたんじゃないかなって今でも思ってます。あの頃の曲はあの頃の俺たちにしか書けなかったものだし、このアルバムはあの頃の俺たちには絶対に作れなかったものですからね。
――当然、想像を絶する産みの苦しみがあったかと思いますが、音源からはプレッシャーさえも楽しむかのように、また4人でできることが嬉しいという気持ちも感じられます。
細美 プレッシャーさえも楽しんでいるというよりは、これで最後だから痛みや苦しみも楽しもうっていう感覚でしたね。去年の2月にLAへ飛んだ時は「ここで目いっぱい出し切ったら全部終わりでいいや」っていう気持ちだったんで、全然曲ができなくて壁に頭を叩きつけるような苦痛が続いてもそれが明日なくなると思えば愛おしいっていうか。もちろんツラいのはツラいんですが、最終戦績は勝利にしたいっていう気持ちだけで突き進んでました。
生形真一(以下、生形) ツラいっていうのは当たり前で、それも含めて充実感がありました。最初に、細美さんがLAでつくった曲のデモを聴かせてもらったんですよ。その時点で今までとは作り方から違っていたし、なによりその後メンバー全員でLAにレコーディングに行ったことが一番大きかったですね。日本とはまったく違う環境で、自分たちが本当に好きなものを作ったという感覚です。スタッフも一切なしで4人だけで作業したのって結成当時のレコーディング以来だったので、活動を始めたころの自分たちとリンクする部分があったし、こんなに楽しかったんだって。みんながすごく頼もしいなと思いましたね。この4人だったらどこに行っても怖くないなっていうのは、活動を再開して一番思ったことですかね。
――「The End of Yesterday」って、一度再生を始めたら途中で止めたくない、止められないアルバムで、なぜかなと考えてみたら曲順ひとつとっても相当考え抜かれているのかなと。
細美 音楽業界には「わかりやすいものを作らないと売れない」とか、「リスナーは新しい音楽を面白がらない」とか、くだらないことを考えてる人もいますけど、俺はいいものを作ろうと思うだけなんですよね。プロなんで。だからまったく遠慮せず徹底的にこだわってつくっています。最近は、歯磨きする時なんかに一番ターンテーブルに載せたくなるのは今回の自分たちのレコードです。自分で毎日聴きたくなるレコードを作るって、結構勇気のいることだと思うので、自分のバンドのことを誇りに思ってます。
’89は最初から最後まで俺の相棒としてそばにいてもらいたい
――いつも二人のそばにあるギターについて聞かせてください。細美さんの歴代レスポールは全てスタンダードで、初代が1989年製、その後がヒストリックの1957年リイシュー黒(2006年製)、そして1959年リイシューのサンバースト(2006年製)ですね?
細美 今回のステージでは’59をメインで使っているんですけど、’59と’57がいつも自分の中でワンツー争いをしています。’59は、とにかく「いいギターに巡り合ったなあ」と思える一本で、’57と比べるとちょっといい子ちゃんです。とにかくコード感が強いし、歪ませても6本の弦が全部見えるほどバランスがいい。LAレコーディング中にメンテナンスに出したんですけど、「すごいギターがきた!」ってショップが騒ぎになってたみたいです(笑)。反対に‘57はちょっと聞かん坊。荒々しくてカッコいい音がするけど、ときどきレコードの中で屋台骨をやってもらうのが大変だったりします。どっちも非常に愛おしい楽器ですけど、ELLEGARDENでエッジィな音を出す必要があるのはウブ(生形)のほうなんで、今回のツアー(The End of Yesterday Tour 2023)ではバランスがいい’59を使ってる感じです。
細美さん使用機材
Gibson Custom Shop 1959 Les Paul Reissue Aged Sunrise Tea Burst
今回のツアーのメインギター。2006年製のヒストリックコレクションで、当時の日本の輸入代理店によるカスタムオーダーモデル。
テイルピースは、やや上げたセッティング。
Gibson Custom Shop 1957 Les Paul Reissue Ebony
サブで用意されていた2006年製のヒストリックコレクション。通常はゴールドトップの年式だが、本器はレアなオール・エボニー・フィニッシュ。
どちらのギターも激しいストロークによって、ハイフレットのネック・バインディングと指板部分が削られて波打った状態になっている。
――細美さんのブログを読ませていただくと、ギターを道具以上のものとして捉えている印象を受けます。初代のレスポール1989年製は、折れたネックを4回修理しているとか。持ち替えるのにも長い時間をかけて真剣に悩んでしまうそうですね。
細美 ギターは何本も持ってますけど、本来俺は一本でいい派なんですよね。取っ替え引っ替えせずに、ずっと同じものを使っていきたいタイプなんで。そういう意味では’89は最初から最後まで俺の相棒としてそばにいてもらいたい。自分の分身みたいな感じですかね、あのレスポールは。自分を自由にしてくれるものに対しては、相棒みたいな感覚がすごくあります。
――生形さんは、エルレ初期のほぼブリッジ側ピックアップが中心、ギターのコントロール類もフルで固定、とにかく大きい音を鳴らすという音作りの頃と今を比べると、弾き方、機材ともにいろいろ試行錯誤しながら、より多彩な音色や繊細な音作りに取り組むなど、職人的に機材の使い方を極めているように見えます。
生形 昔はボリュームなんて一個あればいいじゃん!と思っていたんですけど、過去のレコーディングで「アンプで歪みを落とすのもいいけど、ギターのボリュームを絞ってみて」って当時のエンジニアが教えてくれたことがあって、実際やってみたらすごくいい感じだったんです。当時は歪みやボリュームの調節を足でしか操作してなかったからすごく新鮮だったし、武器が増えた感じがして。そういうのも極めてみたいなとその時から思いました。
生形さん使用機材
Gibson Memphis Shinichi Ubukata ES-355
2018年にリリースされたシグネチャーモデルの1本目となるシリアル001/150で、今や活動に欠かせないメイン器。(限定モデルのため生産、販売とも終了)ギブソン・ブランズのファミリーであるエピフォンから、本モデルのDNAを継いだShinichi Ubukata ES-355 ver.02が発売中。
製品ページ:
https://www.epiphone.com/ja-JP/page/shinichi-ubukata-es-355-ver02
誇り高い人間になる。夏のツアーは、その準備をする最後の舞台
――アルバムリリースに全国ツアー、そしてこれから大きなステージも控えていますが、一連の活動はELLEGARDENというバンドの存在を抜けない楔(くさび)として世の中に打ち込んでいるようにも見えます。「最後のチャンス」「最後の勝負」という言葉が繰り返されていますが、私も含めてバンドの今後に不安を感じている人もいると思うんです。
細美 もともと俺は『あしたのジョー』の矢吹丈みたいな生き方が理想なんで、時間をかけて降下してソフトランディングするみたいな人生はイヤだなと思ってたんです。だけど、そうなりかけている自分にも気づいていて。どうしようかなあっていう状態から、俺たちが「ELLE YEAR」って呼んでいるこの2年間を動かすスイッチが入ったんですよね。ちょうど自分は、『The End of Yesterday』の作曲をしている前後がミドルエイジクライシスのど真ん中で。ある程度人生のチェックボックスにチェックが入っちゃって、次の目標を見失ってしまう時期。でも、ある時ミドルエイジクライシスは、いよいよ「本当になりたかった自分になる挑戦」の準備が整った証拠なんだ、っていうTEDスピーチを観たんです。自己顕示欲とか承認欲求とか、自分の思想に反した欲望に振り回される第一期がようやく終わりを告げて、ようやく本当の意味で自分の完成度を高める戦いが始まるっていう話を聴いて、頭の中がクリアになったんですよね。
――この「エルレ・イヤー」は、細美さん自身にとっても人生を第二期に進めるために必要な2年間だと?
細美 なに生意気なこと言ってんだと思われるかもしれないですけど、世界では「誇り高い自分になりたい」みたいな意識をもっと文化的に共有しているように思うんです。俺はちゃんと自分のなりたかった自分になりたいんですよね。クズの俺が本当の意味で変われるのか、その覚悟を決める舞台として、今回の<Get it Get it Go! SUMMER PARTY 2023>はうってつけなんじゃないかと思ってます。そのあとは、クレイジーで面白いことばっかりやりたいですね。だから今後のことは心配なさらずに、ここから先もワクワクしていてほしいです。
――過去のコメントでは、「エルレは会場の規模に重きを置いていない」ということでしたが、数百人のライブハウスでも数万人のスタジアムでも同じメンタリティーとスタンスで臨むということですか?
細美 ELLEGARDENがやりたいことっていうのは、ポップアーティストの中央値とはちょっと違うんじゃないかと思うんですよね。芸術性よりもプリミティブな側面に重きを置いているっていうのかな。たとえば、田植えをする時にみんなで歌うことでモチベーションを絞り出すとか、雨乞いで火を囲んで踊るとか、そういう人間の原始的なもののなかに組み込まれているメロディやリズムに強くシンパシーを感じます。その「プリミティブな音楽」の要素を使って、人と人との理解が急激に深まるような、心の奥底にずっとあった孤独みたいなものが一瞬で埋まるような、そういうことがやりたいんだと思います。そういう意味でやりたいことは、規模が何万人だろうが何十万人だろうが、例えば5人だろうが変わらない。俺はそこがELLEGARDENのライブのいいところだと思うし、今回5つ大きな会場がありますけど、どの会場でもその瞬間が訪れてほしいなと思っています。
――エルレのライブって、どの会場で観てもエネルギーの放出量が半端ないですね。
細美 逆に言えば、大会場の方がそういうシーンを迎えづらい、ってことでもないんだと思います。まあ、やることは本当に変わらないですね。歌って人の心の扉を不躾にこじ開けて入っていける特殊な楽器だなと思っているので、マジックを起こせるような気分でいたいなっていうのは、常にどの会場でも思っています。
――生形さんは会場によってメンタリティーに変化はありますか?
生形 細美さんが今言ったことがバンドの中核でもあって。200人のライブハウスと3万5千人のスタジアムとでは絶対違うんだけど、ただ俺らが届けたいこととか、やりたいことは一緒っていう感覚です。俺は他にもバンドをやってるんですけど、ELLEGARDENでやるライブって不思議なんですよね。必死で演奏して、ふとした時に客席を見て、本当に楽しそうにしてたり感極まってる子達がいて、こっちもグッときてしまう瞬間がよくあったりして。ずっとライブハウスでやってきたこの感じをスタジアムでやったらどんなことになっちゃうんだろう?っていう気持ちが強いし、それが楽しみですね。
この2年間4人でやってきたことの締めくくりにワクワクしている自分がいる
――ツアーの合間の7月29日には、<FUJI ROCK FESTIVAL(以下、フジロック)>への出演も決定しています。2019年以来、4年ぶりの出演となる今回、意気込みはいかがですか?
生形 俺、アラニス・モリセットが大好きなんですよ。だから単純にそれが楽しみだなと。俺らが準備している時だから観られないけど、たぶん裏で聴こえてくると思うんで。不思議な感じですよね。20歳ぐらいの時に何気なく姉の部屋にあったCDを勝手に聴いたらめちゃくちゃ良くて好きになって。大好きになったアーティストと同じステージに立てるっていうのは、すごいことだなと。ただ俺らは俺らでいいライブをしたいなと思っています。
細美 2019年のフジロックでケミカルブラザーズの前でサブヘッドライナーとして出た時もそうですし、今回アラニス・モリセットとフー・ファイターズの間に出演することは、俺たちが世界と張って音楽を作りたいっていう気持ちで進んできた道が間違いじゃなかったんだって確認できる場なので、相手が誰だろうが見劣りしないようなライブをしたいなって思っています。今年は、フジロックと韓国の<Incheon Pentaport Rock Festival 2023>でもヘッドライナーを務めるので、フェスでもELLEGARDENが出来るすべてを出し切りたいと思ってますね。ライブの瞬間は、謙遜とか遠慮とかしててもしょうがないので、俺たちにできることがあるからこの場にいられるはずだっていうのを信じて全力でやってみようと思います。
――フジロック、そして<Get it Get it Go! SUMMER PARTY 2023>がどんなライブになるのか。そしてなによりELLEGARDENの全力を体感できることが楽しみで仕方ありません。
生形 俺の中でアルバム制作から始まったこの2年はずっと地続きになっていて、それが一旦終わるのが<Get it Get it Go! SUMMER PARTY 2023>だし、その途中にあるフジロックもバンドにとってすごくデカいイベント。楽しみだって言っちゃうとカンタンなんですけど、どうなるんだろうっていう感覚がすごく強いですね。ELLEGARDENのライブは自分たちでもどうなるか予想がつかないというか。今はもちろん、準備することも山のようにあるし大変だけど、それ以上にこの2年間4人でやってきたことの締めくくりにワクワクしている自分がいます。
細美 今後はいかに反逆児みたいなことをやれんのかにシフトしていきそうな可能性が高いので、規模感でいうピークは今年じゃないですかね。だからこそ次はないっていうか。どこか不満を残すライブをしても俺たちにそれを取り返すチャンスはもう無い。なので、みんなが今年の夏見てくれる俺たちが、俺たちのマックスになるように、言い訳もできない、その上もないぐらいの気合でいきます。楽しみにしていてください。
Text:野中ミサキ(NaNo.works)
Photo:横山マサト
Live Photo : ガッテン
PROFILE
ELLEGARDEN(エルレガーデン)
1998年結成。細美武士(Vo&Gt)、生形真一(Gt)、高田雄一(Ba)、高橋宏貴(Dr)の4人組ロックバンド。2001年に1st EP 『ELLEGARDEN』でインディーズデビュー。インディーズバンドとして史上4組目のオリコンチャート1位を獲得するなど、人気絶頂の中2008年に活動休止を発表。それぞれ10年間の音楽活動を経て、2018年に活動を再開した。2022年12月には16年ぶりの6thフルアルバム”The End of Yesterday”をリリースし、今年3月からは全国36公演の"The End of Yesterday Tour 2023"、夏にはZOZOマリンスタジアムを含む全国5公演の大規模ツアー”Get it Get it Go! SUMMER PARTY 2023”を開催する。
ギブソンについて
ギターブランドとして世界でアイコン的な存在であるギブソン・ブランズは、創業から120年以上にわたり、ジャンルを越え、何世代にもわたるミュージシャン達や音楽愛好家のサウンドを形作ってきました。1894年に設立され、テネシー州ナッシュヴィルに本社を置き、モンタナ州ボーズマンにアコースティックギターの工場を持つギブソン・ブランズは、ワールドクラスのクラフツマンシップ、伝説的な音楽パートナーシップ、楽器業界の中でもこれまで他の追随を許さない先進的な製品を生み出してきました。ギブソン・ブランズのポートフォリオには、ナンバーワンギターブランドであるギブソンをはじめ、エピフォン、クレイマー、スタインバーガー、ギブソン・プロオーディオのKRK システムなど、最も愛され、有名な音楽ブランドの多くが含まれています。ギブソン・ブランズは、何世代にもわたって音楽愛好家がギブソン・ブランズによって形作られた音楽を体験し続けることができるように、品質、革新、卓越したサウンドを実現していきます。