SG Chronicle vol.1
60年代のギブソン・ソリッドを代表するギターとして知られるSG モデルは、1961年初頭にサンバースト・レスポールに入れ替わる形で登場した。
50年代半ばにギブソンで発売されていたソリッド・ギターはレスポール・ファミリー(スタンダード、カスタム、スペシャル、ジュニア、TV)のみだったが、これらは皆伝統的なアーチトップ・ギターを小型化したルックスをしていた。
今までギブソン・ギターを愛用してきたジャズ・ギタリストに加えて、ロックンロール・ブームに伴う新しい世代へ向けたモデルの必要性を感じていたギブソンでは、当時社長だったテッド・マッカーティを筆頭とするプロジェクト・チームを作り、最新鋭ギターの開発に取り組んだ。
その中で、レスポールよりも軽量で、弾きやすく、ヴィブラート・ユニットを備え、機能性に優れたモデルという幾つもの題材が検討された。そして、フライング Vやエクスプローラーが発売された1958年に披露されたのがダブル・カッタウェイ・スタイルへと進化したレスポール・ジュニアである。
更にこの年には、カスタム・オーダーによって製作されるダブル・ネック仕様のダブル 12が発表された。こちらのギターのボディは厚く、ネックも20フレット仕様だったが、ボディのジョイント部分は2本の並べられたネックの両側を切り取るような形のダブル・カッタウェイ・デザインになっていて、この形がSGへと進化してゆくことになる。
今までのレスポール・モデルに替わって1961年に登場したSG シリーズのラインナップは、スタンダード、カスタム、スペシャル、ジュニア、そしてイエロー・カラーのTVを加えた5機種。これらの開発にレス・ポール本人は関わってはいなかったが、レスとの契約が1962年まであったので、スタンダードとカスタム、ジュニアについてはレスポールのモデル名がそのまま継続され、新しいレスポール・スタンダード、カスタム、ジュニアとして販売された。
その一方で、スペシャルとTVに関しては発売当初からソリッド・ギターを意味するSG スペシャル、SG TVのモデル名が使われた。(厳密にいうと、スペシャルとTVに関しては、古いボディ・シェイプ時代にダブルカッタウェイが導入された1959年の途中から、SGのモデル名が使われていた)SG レスポールのニックネームで呼ばれることも多い新型のレスポール・スタンダードとカスタムは、ボディ・スタイルが大きく進化したもののピックアップを含めたハードウェア類の多くがそのまま継承され、そのトーンもまた従来のレスポール・モデルを引き継いだものになっている。その後、レスとの契約が1962年で終了したことを受け、1963年からは全てのSG モデルがSG のシリーズ名に統一された。
SG モデルが発売された60年代初頭はソリッド・ギター市場が大きく成長している時期であり、市場を牽引していたギブソンでは数年分のバックオーダーを抱えるほどだった。伝統的なアーチトップ・デザインを脱却したフラット・ボディのSGは、生産効率面でも大きく進化した。また、1958年からギブソン・ギターに導入されたチェリー・フィニッシュは、塗装工程の短縮に加えて、ES-335を始めとするセミ・アコースティックからES-125等のスィンライン・モデルにも使われたことで、ギブソンを象徴するブランド・カラーとして広く浸透していった。
50年代のギブソンに用意されていたヴィブラート・ユニットはビグスビーのみだったが、それに加えて、SG レスポール・スタンダード/カスタムにはギブソンが独自で開発したヴィブラートが搭載された。アールデコ調のカバーが取り付けられたこのユニットは、アーム・バーを水平方向に動かす構造からサイドウェイ・ヴァイブローラの呼び名がつけられたが短命に終わった。
1962年のSG レスポール・スタンダードに採用されたのが、板バネを使ったマエストロ・ヴァイブローラ(マエストロはギブソンの弟ブランドで、主にエフェクタ等に使われた)で、この時期は大きなエボニー装飾プレートが付いているものが多い。ファイアーバードの発売に合わせて1963年に登場したのが、大型カバーが取り付けられたマエストロ・ロング・ヴァイブローラである。
スタンダード/カスタムにはロング・タイプ、スペシャル等には従来のショート・タイプという2種類が用意されたマエストロ・ヴァイブローラは、シンプルかつ十分な機能性を備えており、ギブソンを代表するヴィブラート・ユニットとなった。
SG シリーズに大きく手が加えられたのは1966年。今までボディの高音弦側にあったピックガードがピックアップ全体を包み込むように大型化されたのである。その背景には、様々なピックアップ・レイアウトに対応したボディを効率よく生産する狙いが含まれていた。
文:關野淳
大手楽器店、リペア・ショップを経て、現在は楽器誌、音楽誌で豊富な知見に基づく執筆を行うヴィンテージ・エキスパート&ライター。