ギブソン・アコースティック・モデルの魅力を最大限にお届けするイベント『Gibson Acoustic Weekend vol.2』|豪華アーティスト4組によるライブ・ショーケース(6月28日)
世界中には個性的なギター・ブランドが数多く存在するが、“エレキ・ギター” & “アコースティック・ギター” の両分野でシーンのアイコンとして長い歴史を紡いでいるのがギブソンだ。アコースティック・ギターにおいては1900年初頭から生産を始め、以降“J-45”、“SJ-200”などさまざまなモデルを発表。今日まで受け継がれる“アコースティック・ギターはこういうもの”という原型を作ったブランドのひとつだと言えるだろう。
そんなギブソンのアコギを使ったプロ・ミュージシャンの演奏を間近で体感できるイベント『Gibson Acoustic Weekend』。その第2回目が、6月28日に開催された。
第1回となった今年3月のイベントは代官山 蔦屋書店 SHARE LOUNGEで行なわれたが、第2回となる今回は東京・南青山にあるバー&ライブ・スペースBAROOMが会場に選ばれた。

ライブ・フロアは円形劇場のような造りで、どの席からも演奏者との距離が近いのがこの会場の最大の魅力だろう。正面はもちろん、左右の座席であっても、ピッキング・ストロークや足下の操作など、普段はなかなか見づらいポイントもチェックすることができるのだ。本記事では、BAROOMで開催された4組のアコースティック・ライブの模様をレポート。ギブソン製アコースティック・ギターと各出演者とのシナジーを振り返っていく。
文: 岡見 高秀
撮影:横山 マサト
柔らかな音色とともに描いた大比良瑞希のステージ

1stステージに登場したのは、シンガー・ソングライターの大比良瑞希。普段はエレキ・ギターをプレイすることも多い彼女だが、今回は[Hummingbird Standard(ハミングバード)]を持って登場。ギブソン初のスクエア・ショルダー型を採用した、今も昔もギブソンを代表するモデルである。


大比良はチューニングを確認すると、そっとフィンガーピッキングでアルペジオを奏で始め、1曲目の「HOWLING LOVE」を披露。ハミングバードはシェリル・クロウやジャニス・ジョプリンといった女性ミュージシャンも愛用していた機種であり、オーガニックなイメージもある大比良との相性は抜群。なによりアンニュイな歌唱とフル・ボディから鳴る、ふくよかなトーンのマッチングがピッタリで、すぐさま彼女の世界観に引き込まれていった。これはすべての出演者に通じることでもあるが、ギター・アンプ&PAスピーカーが小型のためホール内の音量感も良く、歌声もギターも極めて生に近いトーンが聴こえてくるのだ。

続く「焚き火」での伸びやかな開放弦、「Sunday Monday」で見せたパーム奏法での“ドン!”というパーカッシブな響きなどは、ボディの容量が大きく鳴りのいいハミングバードらしさをうまく出したアレンジだと言えるだろう。もちろんギター以外にも聴きどころは多く、ルーパーを活用した「ねねねねね、」では多層的なサウンドで来場者を魅了していった。そして最後は、ハミングバードの丸く太いトーンと叙情的な歌声をうまく混ぜる「アロエの花」で幕を閉じたのだった。

来場者も、静かに聴き入るという感じで、各曲が終わるごとに柔らかい拍手でミュージシャンに気持ちを表するといった具合。きっと大比良も、ハミングバードの包容力のある音に包まれて、優しい気持ちでステージを楽しむことができたのではないだろうか。

Gibson Acoustic Weekendを支えたもう1つの主役
~アコースティック・モデル展示~

本イベントでは、ただライブ・ステージを観せるだけではないのが、この企画の大きな特徴。ホール外周のエントランス・スペースには、現行モデルがズラリと展示され、注目のアコースティック・ギターを見ることができるのだ(一部モデルは試奏をすることも可能)。

当日ラインナップされたのは、ギブソン製モデルが12本、その姉妹ブランドであるエピフォン製モデルが6本の計18本。なかでも特にギター・ファンの視線を集めていたのが、カスタムショップ製のハイエンド・クラスとなる“MURPHY LAB ACOUSTIC COLLECTION”のモデル群だろう。使い込まれたオールド・ギターを彷彿させる“エイジド加工(エイジング処理)”を施したシリーズで、そのとおり、ヴィンテージ・モデルかのような重厚な佇まいを持ったギターたちだ。誕生年が盛り込まれた[1942 Banner J-45 Heavy Aged]を筆頭に、[1957 SJ-200 Light Aged]、[1960 Hummingbird Light Aged ]と、“ギブソンのアコギと言えばコレ!”という機種が並ぶ光景は壮観だ。

ほかにも[L-00 Special]などの現行ラインナップ、奥田民生モデル、エピフォンからは同ブランドのオリジナル・シェイプとなる[Masterbilt Excellente]など、幅広いアコースティック・ギターが来場者を迎えてくれていた。

繊細な音と柔らかな言葉で紡いだ崎山蒼志のステージ

大比良に続いて、崎山蒼志による2ndステージだ。高校生時代から様々な大型フェスに出演し、近年は人気アニメの主題歌も担当。ほかにも執筆活動や書籍を上梓するなど、音楽/歌詞の両面で才能を見せるシンガー・ソングライターである。
今回彼が選んだギターは[Parlor Rosewood EC]。ギブソン・アコースティック最大級のボディ・サイズとなるSJ-200をコンパクト化したようなシェイプで、さらにカッタウェイの入った非常に取り回しのいい一本だ。今回の彼のように立ちながらの演奏であったとしても、きっと負担なく使うことができるだろう。


1曲目「舟を漕ぐ」の冒頭では小刻みなストロークを見せるが、音の立ち上がりもスマートでスッキリしており、このあたりもParlor Rosewood ECらしい出音と言えそう。なによりも崎山自身のソフトで高域に寄った歌声との相性が良く、ぜひ普段使いの一本として選んでもいいのではと感じられた。
「Samidare」ではさらにアップテンポにカッティングをプレイ。アタックがとてもリズミカルだ。崎山もステージ上にて“歯切れが良く、乾いた音がいい。ブルースやロックなフレーズが弾きたくなる”と語っていた。ボディ・サイズと合わせてネックも細めなため、握りこむようなフォームでの素早いコード・ワークもしやすそうだ。

セット後半戦では、次ステージの出演者となる三船雅也がひと足先にゲストとして登場。SJ-200 Standard Rosewoodを手に、一緒に「燈」を披露する。楽曲の1番では崎山の歌に三船はハイ・ポジションでのオブリを合わせ、続く2番ではメイン・シンガーとして声を伸ばしていく。ギター演奏はもとより、ふたりの歌は声質からして波長が合う。加えて言えば、いい意味でフワッとしたトークの掛け合いもまったく違和感がなかった。


ラストは、新曲となる「eden pt.2」。やはり繊細なストロークが柔らかな印象を作り上げる曲だが、途中ではボトムを特化して鳴らすこともあり、そこではしっかりと低音を聴かせる。実に崎山らしいナンバーで、会場に集まったファンも、弾き語りアレンジが堪能でき大満足となったことだろう。

マジックアワーに響く三船雅也の歌声とアコースティック・ギターのハーモニー

夏至から数日というこの日は、3番目のアーティスト三船雅也(ROTH BART BARON)が登場する18時でも、外はまだまだ明るく昼間の熱もほどよく残る。マジック・アワー手前……という感じだろうか。こんな時間と気候に、三船の音楽はピタッとはまる。彼の蠱惑的な歌は、マジックに近い怪しげな魅力を持っている。 そんな彼が手にするのは、先程と同様[SJ-200 Standard Rosewood]。一般的な本機種はサイド&バックがメイプル材なのに対し、本器は最初期モデルに倣ってローズウッド材を採用したタイプである。


メインの活動がバンド ROTH BART BARONということもあり、足下にも多様なエフェクターを置いている三船。1曲目「HOWL」から、ディレイを用いたフレージングで自身の音楽へと一気に引き込んでいく。音数の少ないバッキングではあるのだが、前述したようにギブソン最大級のボディ・サイズを持ったアコースティック・ギターだけに、余韻の大きな低音には大きな説得力がある。トップの音もハッキリしていて、ロー感だけに特化しているわけではないところが、SJ-200が誕生から90年近く愛され続けている所以でもあるのだろう。

同日はROTH BART BARONファンが多く集まっていることもあり、三船はせっかくだからと、普段はあまりやらないという「ONI」を2曲目にプレイ。ここではピックを使った硬めの音を響かせる。それと対照的だったのが続く「Goodnight」で、フィンガーピッキングのソフトなアタックで楽曲を彩っていく。親指の腹でストロークをするため、SJ-200の個性とも相まって、丸みのあるふくよかな音色を響かせる。そこにトレモロなどのエフェクト効果も加えることで、三船ならではのサウンドが生まれるのだ。

「極彩」では、先程のゲスト出演のお返しとばかりに崎山が再登場。1番は崎山がベーシック、三船がオブリというアンサンブルで、ここでは崎山がしっかりと三船の音楽観に入って演奏しているという印象だ。ギターはサイズこそ違うもののシェイプは近くもあり、その混ざり具合の妙が新しかった。

普段からSJ-200を使っているということで、その個体差なども語ってくれた三船。最後はHANAとの共演曲である「けもののなまえ」だ。フォーク調とも言え、そこにルーパーでフレーズを加えながら空間系エフェクトも交えるなど、ROTH BART BARONの楽曲を、独特の弾き語りに仕上げていた。きっと三船はこれからもSJ-200を愛用していくことだろう。

長塚健斗×井上幹(WONK)、呼吸を合わせた甘く深いアコースティック・グルーヴ

多様なギブソン・アコースティック・トーンを聴くことができた《Gibson Acoustic Weekend Vol.02》も、4組目となる長塚健斗×井上幹(WONK)が最後のアーティストとなる。ここではWONKのヴォーカリストとベーシストが、両名アコースティック・ギターを携えてデュオとしてパフォーマンスを見せてくれた。
1曲目は長塚が[Hummingbird Standard EC]にて、ソロ楽曲「Promise」をプレイ。フィンガーピッキングでの角の立たないトーンで、夜のライブ・スペースにマッチした甘い弾き語りを披露してくれた。


そこに井上が[J-45 Custom]を持って加わり、始まったのが「Feelin You」。井上のスタッカートの効いたコードと長塚のポロンという親指ストロークのコンビネーションが良く、バンド・メンバーならではの呼吸も感じられた。


「Euphoria」で長塚はルーパーにボイス・パーカッションを乗せ、会場からはそのリズムに合わせて手拍子が起こる。アッパーなノリとチルした雰囲気の混ざったこのグルーヴ、本来ならばぜひともバーボンと一緒に楽しみたいもの!そう思ったファンも多かったことだろう。

後半には彼らと縁の深いギタリスト小川翔が、本日初めてのエレキ・ギターとなるES-335を携えて参加。3人での「Migratory bird」は、エレキならではのパキッとした音が加わることで、新鮮なサウンドとなった。その音に押された長塚の歌も、先程よりも力強く感じられたのだった。「Small blue fool」と続き、ラストはボイパからの「Sweeter more bitter」。J-45を弾く井上のアプローチは、ボトムを丁寧に慣らしつつリズミカルな動きも見せ、このあたりはベーシストならではのアコギ奏法と言えるのかもしれない。3人の演奏はアウトロまでスウィングし、満席の会場からは大きな拍手が轟くのだった。長塚の“サンキュー、ギブソン!”という言葉で幕を閉じた《Gibson Acoustic Weekend Vol.02》。

企画タイトルどおり、最初から最後まで、同社アコースティック・ギターの魅力を堪能することができるイベントだった。もちろんモダンな音にせよ、オールド・スタイルな音にせよ、アコースティック・ギターが持つ、柔らかく温かい音はいつも心地よく響くもので、それがミュージシャンの個性と交わることで、唯一無二の音楽が生まれていく。Vol.3の開催にも是非期待してほしい。
