ギブソン・アコースティック・モデルの魅力を発信するイベント
『Gibson Acoustic Weekend』|豪華アーティスト5名によるアコースティック・ライブ(3月29日)

その誕生から絶えることなく革新的な挑戦を続け、世界中のミュージシャン/ギタリストを魅了し続けてきたギブソン・アコースティック・モデル。そのサウンドをリスペクトするアーティストが一堂に介するカルチャー&ライブ・イベント『Gibson Acoustic Weekend』が3月28日・29日の2日間に渡って、代官山蔦屋書店 SHARE LOUNGEで開催された。

本記事では、3月29日に行われた、5名の豪華アーティストによるアコースティック・ライブの様子をレポート。TOKYOカルチャーの発信地である代官山 蔦屋書店 SHARE LOUNGEで、ギブソンのアコースティック・モデルと各アーティストが共鳴した一日を振り返っていく。

文: 金子 厚武
撮影:横山 マサト

心に響く温かさが共存した荒谷翔大とギターのハーモニー

2日目は雨模様の1日となったが、会場に入ると肌寒さを吹き飛ばすほどの熱気が感じられた「ACOUSTIC LIVE SHOWCASE」。アコースティック・ギターがずらりと並ぶ花道から、トップバッターとして登場したのは2024年からソロ活動を開始し、R&B、ソウル、ジャズなど幅広いジャンルを横断した音楽性で人気を博す荒谷翔大。この日はマーフィー・ラボの1942 Banner J-45 Light Agedを使用してのライブとなった。

写真撮影も可能で、SNSには「#アコギブソン」のハッシュタグとともにお気に入りのギターを載せたポストが溢れかえった。またラウンジの奥には実際に試奏もできるコーナーが設けられ、場内にはトータル35本ものギターを常設。音楽をはじめとした様々なカルチャーを紹介する代官山蔦谷書店の雰囲気をよりゴージャスかつ、華やかに彩った。

「試奏させてもらい気に入って、早速購入しました!」と話し、1曲目に演奏されたのは〈紫苑〉。リラックスした雰囲気でありながら、中低域が特徴の歌声には色気があり、ギターの豊かな鳴りとの相性も抜群。

3月にリリースされたEP『ひとりぼっち』から〈らぶ〉を続けると、この日も場内にずらりと並んだギブソンのアコースティック・モデルを見て、「また買いたくなっちゃう」と笑い、もともと初めて買ったのがギブソンのギターだったというエピソードも披露。

次に、「雨に合うかなと思って」と言ってカバーしたのはRadioheadの〈No Surprises〉。もともとUKロック好きのバックグラウンドを垣間見せつつ、トム・ヨークともまた異なる魅力を持った歌声がやはり素晴らしい。

さらに、ソロデビュー曲の〈涙〉に続いて、地元への愛情を歌った〈天神〉ではイントロのコードストロークをしながら思わず「いい音ですねえ」と口にしてニコッとする場面も。

ラストは「ひとりぼっちだからこそ、誰かに寄り添えるかもしれない」と話して、新作のタイトル曲〈ひとりぼっち〉を披露。繊細でありながらも温かな雰囲気の楽曲、歌、ギターの音色が一体となり、まさに名演だった。



アコギ一本ながらロックなマインドを感じさせる牛丸ありさのステージ

2組目には多彩なサウンドと力強いライブでオーディエンスを魅了するロックバンド、yonigeのボーカル/ギター・牛丸ありさヴィンテージ・サンバーストの50s J-45 Originalを携えて登場。〈顔で虫が死ぬ〉からライブがスタートした。

普段のバンドでのライブハウス演奏とはまた違った歌い方で、その芯のある伸びやかな歌声からはロックバンドのボーカリストであることがはっきりと伝わってくる。マキシマム ザ ホルモンを見てゴールドトップのレスポールに憧れ、バンド結成時にローンを組んで購入したという話から、ミュージックビデオでもゴールドトップを使っている曲〈リボルバー〉を披露。アコギ一本ながら、ロックなマインドが強く感じられた。

また、昨年リリースされたアルバム『Empire』からは、〈Club Night〉や、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文がプロデュースした〈健全な朝〉を披露。

続けて、ギターにまつわるエピソードも紹介された。1〜2年前にMegadethのデイヴ・ムステインのシグネチャーモデルである緑色のフライングVを衝動買いし、アルバムに収録された〈DRIVE〉は、そのフライングVで演奏するために書かれた楽曲だという。

最近の曲も、まずギターありきで制作しているそうで、やはり、いいギターというのはミュージシャンにとって最大のインスピレーション源なのである。

ラストも『Empire』から、アルバムでは1曲目を飾っている〈Super Express〉を披露。内省的な感情を熱量のある音楽へと昇華する牛丸らしさを存分に発揮したステージとなった。


魂に響く下津光史とアコースティック・ギターの渾身のパフォーマンス

3組目には孤高のサイケデリックロックバンド、踊ってばかりの国のフロントマンである下津光史がDove Originalを手にして、〈光の中に〉からライブがスタート。

ボーカルに深いリヴァーブとディレイをかけて生み出されるダブ的な音響と、Dove Originalのクリアな音の響きが抜群の相性で、ここが土曜日の代官山であることを忘れさせるような、下津のディープな音世界に一気に引き込まれる。「このギターを1ヶ月くらい貸してもらって検証した結果、ノーカポでのローコードのEが一番気持ちいい!」と話し、カントリー/ブルース調の〈Super sun goes down〉を披露。実に下津らしく、ギターをかき鳴らして「むちゃくちゃいい音!」と思わず口にした場面も印象的だった。

アウターを脱いでTシャツ一枚になり、足で大きくリズムをとりながら歌った〈デジャヴ〉に続き、「鳩は平和の象徴なので、そういう歌を」と話して演奏された〈Notorious〉は「今更何も言えないけど 止まない雨なんてないのよ」、「人は一人じゃ生きていけないの だから僕はあなたと踊るのよ」という歌詞を歌い上げる下津の熱唱が胸に迫る。

「普段は代官山に来ることがないので緊張しています」と笑顔を見せつつ、その場の雰囲気に合わせて「大好きなギターに囲まれて幸せ」と即興でワンフレーズ口ずさみ、そのまま〈orion〉へと続いた。そのひとときの多幸感に満ち、「気持ちよくなってきて、あと何時間も歌ってしまいそうなので、次の曲で終わりにします」と言って最後に届けられたのは〈愛のバラード〉。30分のステージながらワンマンライブを観た後のような充実感があり、どんな場所・どんな時間であろうとその空間を楽しみ、全力でやり切る、下津光史の歌うたいとしての矜持を見せつけられたような思いだった。


オンリー・ワンの存在感と共に
アコースティック弾き語りを披露した奇妙礼太郎

夕方18時を過ぎて日も暮れてきた中、4番手には年間200本以上のライブ出演やCM歌唱、写真展など、多岐にわたる活動で注目を集め続けるミュージシャン、奇妙礼太郎が登場。この日は、マーフィー・ラボの1960 Hummingbird Light Aged Heritage Cherry Sunburstを使用したパフォーマンスとなった。セットリストは決めず、その場の空気感で演奏する楽曲を選ぶというスタイルも見どころだ。

ステージに上がるとおもむろにギターをつま弾き、「2週間くらいこのギターをお借りしていて、家で弾いたりして、やっぱり素晴らしくて。(ギターを返すのは)寂しいんですよね」と呟くと、〈竜の落とし子〉からライブがスタート。

息遣いまで伝わるような、伸びやかでいて親密な歌声が素晴らしく、自由に体を揺らす姿からは、歌とギターが一体となっているような印象を受ける。そして、「誰でも知っていると思っていたけど、最近の若い人は知らない曲」として「笑っていいとも!」のテーマ曲を歌ったり、「このギターと同じタイトルの曲があるので」と披露された〈humming bird〉のときだけメガネをかけて歌ったりと、エンターテイナーとしての側面も流石の一言だ。

曲間でも常にポロポロとギターを爪弾いていて、「この辺の音がいいなぁと思って」とカッティングを続けたり、「あと、ギターの匂いもいい」とフェティッシュな楽しみについて話したりと、この人はいつもギターと一緒なんだろうなということが客席まで伝わってくる。昨年公開された映画『夜のまにまに』の主題歌として書き下ろされた〈朝までのブルース〉も、夜も朝もともにあるであろう、奇妙とギターの距離の近さや信頼関係が伝わってくるような名曲だ。

最後は4月23日にリリースされるニューアルバム『オールウェイズ』から新曲の〈ヤンキー BE MY BABY〉や〈スケベなSONG〉を一節歌うサービス精神も見せつつ、タイトル曲の〈オールウェイズ〉を力強いコードストロークとともに歌い上げ、素晴らしいステージを締め括った。


吉澤嘉代子が織り成すストーリー性豊かな楽曲により
ギブソン・アコースティックが魔法にかかる

「Gibson Acoustic Weekend」2日目のトリを飾るのは、昨年デビュー10周年を迎えたシンガーソングライターの吉澤嘉代子。吉澤のライブではこの日唯一ゲストが迎えられ、ピアニスト・梅井美咲とのデュオ編成となった。1曲目の〈東京絶景〉は吉澤の弾き語りから始まり、途中から梅井のピアノが入ってきて、ドラマチックに楽曲を彩っていく。「自分のプレイに自信はないけど、ギブソンが好きだからオファーを受けた」と話した吉澤が使用するギターはマーフィー・ラボの1933 L-00 Light Aged Ebony。

L-00を選んだ理由として「かわいいから」と「小型だけど音がザクザクしていていい」と話し、「ギブソンの担当の方がこの曲を好きだと言ってくれたので、セットリストに捩じ込んだ」と、映画主題歌としても知られる〈氷菓子〉を披露。アルペジオを奏でながら、美しいメロディーを歌い上げた。

梅井のクラシカルなピアノが素晴らしい〈涙の国〉に続き、5年前のデビュー5周年のときに、ギブソンのL-1を購入したエピソードを披露。「そのときめきに今も導かれている。この世で一番好き」と話し、〈一角獣〉を演奏した。ここで梅井が退場して、吉澤が一人ステージに残ると、「自分の歌とこの世で一番が息ぴったりなのは自分のギター。10年目でやっと気づいた」と笑い、「ギターを弾くのは楽しい」と実感たっぷりに話したのがとても印象的だった。

本編最後に吉澤のみの弾き語りで披露された〈ミューズ〉はその歌声もギターのストロークも実にエモーショナル。柔らかい印象もある吉澤が、常に自分自身と戦いながら活動を続け、だからこそ魅力的なのだということが弾き語りという形式でより露わになっていたように思う。

鳴り止まない拍手に応えてのアンコールでは〈青春なんて〉が演奏され、場内の手拍子とともに、大盛り上がりの中で『Gibson Acoustic Weekend」は大団円。

それぞれのアーティストのライブからはギブソン・アコースティック・モデルの魅力が存分に感じられ、「新年度からはアコースティック・ギターに挑戦しようかな」と思ったオーディエンスも少なくなかったのではないだろうか。

3月28日、29日の2日間で行われた『Gibson Acoustic Weekend』は、多くのギターファン、音楽ファンにとって、とても貴重な時間になったように思う。ぜひこれからギターに触れていく皆さんにも、ギブソンのアコースティック・ギターの音色を体感することで、さらに魅力的な音楽ライフを過ごしてもらいたい。

3月28日トーク・セッション&アコースティック・ライブレポート記事も見る。