「ロックンロールを弾くならギブソンですね。これはもう間違いない。」
一口にアコースティック・ギターと言っても、そこには多種多様な個性を備えたモデルが無数に存在している。 では、ロック・バンドでヴォーカル&ギターを担当するミュージシャンにとって理想的なモデルとはどんなものなのだろうか?
取材、文/Acoustic Guitar Book編集部
写真/河本悠貴(ライヴ)
川上洋平にとって、ギブソンのHP 665 SBとはどんな存在なのだろうか。このギターを彼が抱える姿を見つけるのは容易い。自身がフロントマンを務める[Alexandros]のステージで、バンドのPVやライヴ映像で、そして昨年末に開催されたソロ・アコースティック・ライヴでも、この小ぶりなボディを持つモダンなアコースティック・ギターが大事な役割を果たしていた。川上がこのギターを手に入れたのは2017年のことだという。つまり入手以来、7年以上も彼の音楽活動を変わらず支え続けていることになる。果たして、そこまでの寵愛を集める理由はどこにあるのか。それを本人に尋ねてみた。
ヴォーカル&ギターにとって心強い存在と言える
――様々なアコースティック・ギターが存在する中で、ギブソンのHP 665 SBというモデルを選んだポイントはどこにあったのでしょうか?
小回りが利くという部分ですね。ネックを初めて握った瞬間に感じました。僕は移動車の中とかで弾いたりすることもあるんですが、これだとサイズ感的に邪魔にならない。あらゆる場面で制作に瞬発性があるという意味でも、とても万能です。プレイ的にはもちろん弾きやすいので、結局7年以上メインで掻き鳴らしてます。
――アドバンス・レスポンス・ネックが弾きやすさを感じる理由かもしれませんね。
主観でしかないですが、最高に持ちやすいです。ここまでフレットを意識しないでも移動できる感触はあまり他にありません。僕はヴォーカル&ギターで尚且つパーカッシヴに弾くので、これがちょうど良いんですね。
――タイトでパーカッシヴなリズムを刻む川上さんのプレイに対して、どんなサウンドで鳴ってくれるイメージですか?
小ぶりだからこそ力強くストロークしても変な胴鳴りがしないところが好きです。自宅で優しく弾いたりする際は物足りない時もあるのですが、その分ライヴで掻き鳴らす時にこそ、その力を発揮します。なので僕のプレイ的には合っているのだと思います。経年もありますが、サウンド的には今ちょうど良い所にあるんでしょうね。手にした時から新品とは思えないほどの枯れ具合でしたが、さらに渋くなりました。
――“小回りが利く”のが利点とおっしゃっていました。実際持った際の抱え心地はどんな感触なのでしょうか?
抱き心地的に言うと愛犬を抱えるような。恋人というよりは(笑)。メロディを生み出そうとする時にギターを抱えていることを忘れさせてくれる、つまり歌に集中させてくれるんですね。そのあたりはヴォーカル&ギターとかには心強いと思います。あとは狭いスペースでも少々ラフに扱えるし、どこにでも連れて行けるところがありがたいです。まさに愛犬ですね。
――長く愛用する上では、ルックス面も重要なポイントだと思います。見た目に関してはどんな印象でしょう?
僕はよく竿を片手で掲げるパフォーマンスをするんですが、そういう時にも持ちやすい。あとは持った時にプレイヤーの邪魔をしないのが良い(笑)。デカいとやっぱり迫力が出る分、主人公の取り合いになるので。あくまでプレイヤー・ファーストを示してくれる相棒みたいなサイズ感が好きですね。
どんなステージでも同じ感覚で弾ける
――何年も愛用しているということで、このギターに触発されてアイデアが湧いた楽曲もありそうですね?
HP 665 SBでは激しい曲を作ることが多いですね。ここ10年の曲は、ほぼこのギターで作ってます。ライヴもそうですが、こと制作という面でも本当に使いやすいです。
――HP 665 SBは[Alexandros]のステージでも見かけます。主にどの曲をプレイするときに登場するのか教えてください。
“Waitress, Waitress!”はこれがメインですね。ジャカジャカ掻き鳴らすだけの曲と思われがちですが、結構細かいことを随所に入れているアレンジの曲で。途中で一瞬アルペジオを弾くのですが、これ以外で弾くと失敗する確率が上がるんですよ。
――[Alexandros]は日本国内だけでなく海外でもライヴをするなど、様々な環境で演奏しますよね。国内のステージで鳴らす時と海外のステージで弾く場合で、鳴り方が変わるような感触はありますか?
いや、特にはないです。むしろどこにいっても同じ感覚で弾けるので、落ち着けるアイテムとしても君臨してます。
――川上さんは近年、毎年クリスマスにソロ・ライヴを開催していて、HP 665 SBはそこでも欠かせない存在になっていますよね。バンド・アンサンブルの中で鳴らす際とソロのステージで弾く時では、自身のプレイも変わってくるものでしょうか?
んーあまり意識はしないですかね。アコースティック・ギタ一1本なので、より一層リズムの役割が必要になってはきますが……。一応担当としては“リズム”ギターですから(笑)、バンドだろうがソロだろうがそこ命でやっています。
――HP 665 SBを愛用し続けて、改めて今感じている「ギブソンのアコースティック・ギターが持っている魅力」があったら教えてください。
ロックンロールを弾くならギブソンですね。これはもう間違いない。

↑Hummingbird Standard Ebony
昨年末のソロ・ライヴではHP 665 SBと併せて、精悍なブラック・カラーで仕上げられたHummingbirdも使用された。漆黒のボディに同モデルならではのアーティスティックなピックガードが映える美しい1本だ。
Yoohei Kawakami’s Gibson Acoustic
High Performance Series HP 665 SB

↑[Alexandros]の“TOUR 2016〜2017 〜We Come In Peace〜”のステージで初披露されたギターで、川上のソロ・ライヴ“Yoohei Kawakami's #room665”のネーミングにも本器を連想させる数字が刻まれている。HP 665 SBは演奏性の向上を狙って開発されたハイ・パフォーマンス・シリーズの1本(2017年に登場)。J-165の系譜とも言える小型ボディの胴厚をさらに約0.5インチ(約12ミリ)ほど縮めるなど、取り回しを良くするための工夫が随所に施されたモダンな作りが特徴だ。

↑ペグはグローヴァー・タイプを採用。ナット幅は43ミリで、指板のアールはよりフラットな形状に仕上げられている。

↑サイド&バックはローズウッド。ネックはアドバンスト・レスポンス・ネックという操作性の高い形状が採用されている。