「少しクランチしているようなロックっぽさ。」

無類のギター好きにして何本ものヴィンテージ・ギターをコレクションしている 耳の肥えた大御所ミュージシャンはマーフィー・ラボの実力をどう評価しているのだろうか?

取材、文/Acoustic Guitar Book編集部
写真/星野俊

ギブソンのアコースティック・ギターという話題で、真っ先に頭に思い浮かぶのは誰だろうか。恐らくその筆頭が斉藤和義だろう。特に彼が所有する黒い1968年製J-45は、それをベースにしたシグネチュア・モデルが作られるほどトレードマークと言える存在だ。ここではそんな彼に、お気に入りの1本を挙げてもらうところから取材を始めたのだが、当然J-45の話になると思いきや、意外なモデルの名前が告げられたのである。

普通に弾ける新しさもありつつ音色は古いギターの感触

——ギブソン・アコースティックの中でいま特に気に入っているモデルという話になると、和義さんはどれを挙げますか?

最近気に入っているのは、マーフィー・ラボの1960年製Hummingbirdの復刻モデルなんですよ。ギブソン・ラウンジに来た際に一度弾かせてもらう機会があって、すごく良いなって思って。まずルックスがパッと見、ヴィンテージかなと思うぐらいで。そしたらね、復刻だっていうんでびっくりしました。

——和義さんというとJ-45のイメージがあるので、少し意外かもしれません。

以前、“Hummingbird”(2006年)って曲のPVを竹中直人さんに監督してもらって、その時に竹中さんのを弾かせてもらったんですよ。1962〜1963年製ぐらいの個体で、状態もめちゃめちゃ良くて、音も素晴らしかったんですよね。それで憧れてました。

PVで手にしていたギターは和義さんのコレクションじゃなかったのですか?

実は違うんですよ。なので、今回手に入れたのが“初”Hummingbirdなんです。Doveは持っているけど、Hummingbirdはなかなか購入するタイミングがなくて。以前、楽器店で良い状態の1963年製と出会って迷ったことがあったんですけどね。直前に別のを買っていたこともあって悩んでたら……。それをずっと後悔してたんですよ。

——マーフィー・ラボ製Hummingbirdの弾き心地はいかがですか?

すごく良いですね。古いけど新しいというか。変なばらつきがなくて、チューニングもピッチも安定してる。古いギブソンはどうしてもばらつきがあって、そこが魅力ではあるんですけど、そういうのがない。すんなり普通に弾ける新しさもありつつ、音色は古いギターの感触という。状態のめちゃめちゃ良いヴィンテージという感じがしますね。

——昨秋に発売された「泣くなグローリームーン」のPVでも手にされていますよね?

でも、“泣くなグローリームーン”のレコーディングの時はまだ持っていなかったんで、あの曲は別のヴィンテージ・ギターで録ったんですよ。録音後、ちょっとしてから手に入れたんで。存在感ある音色で、録音してもそういう感じが出せるので、その後のレコーディングでは使い始めていて重宝しています。

古いギブソン特有のロックっぽい響きがある

——和義さんが「これだ」って感じる音の判断基準ってどこにあるのでしょうか?

自分としては、ずっと弾いてきている1968年製の黒いJ-45があって、それがデビューと同時に買ったようなギターで、初めて買ったギブソンのアコースティック・ギターなんですよ。曲を作るのも、レコーディングするのも、ずっとそれでやってきたので、自分にとって“アコースティック・ギターの正解はあれ”っていう感じがまずあるんですね。自分の中で一番しっくりくるギターっていうのか。色々と浮気はするんですけど、1つの基準になっているのは、あの音なんです。それと比べて、“似てる”とか“遠い”とか“近い”とかって感じですね。

——それに対して、マーフィー・ラボ製のHummingbirdは?

ギブソンも古いのを何本か持っていて、1960年代のオールドが中心なんですけど、それにすごく似てると思いました。すでに古い感じがするっていうのと、古いギブソン特有の、エレキ・ギターでいうところの少しクランチしているような、ロックっぽい響きがあるというか。“ギブソンの音だ”っていう感じが最初からするなって思って。見かけだけじゃなくて、音もすでに枯れている感じがするので、すごく不思議に感じましたね。

——詳しい理由はわかりませんが、マーフィー・ラボによるエイジド処理が施されると音色もだいぶ変わるような気がします。

うん。そんな気がします。意外と加工が音にも作用してますよね。良い意味で雑味が出てくるっていうか。カチッとした綺麗な鳴りだけじゃなくて、やさぐれた味があるというか。あと、少しでもクラックが入ってると、きっと古い個体なんだろうな?って心構えで弾きますから。それで“あ、確かに”って感じちゃうっていうのもあるかもしれません。

——和義さんの言う“雑味”みたいな感触は、本物のヴィンテージ・ギターにも共通する要素なんですか。それともやっぱりヴィンテージとは若干違う響きなんでしょうか?

若干違うとすれば、ヴィンテージはやっぱもう全部がヴィンテージですよね。ネックもバックもサイドも全体でヴィンテージ・ギターって感じだけど、これは鳴ってる音がヴィンテージっていう感じがしますね。そうは言っても、じゃあ目隠しして利きギターをやったら、たぶん俺は聞き分けられないぐらいの違いですね。レコーディングしちゃったりすると、よりわかんないですよ。

▼他モデル試奏コメント

今回の取材はギブソン・ラウンジで行なったこともあり、取材後は試奏タイム。タイミングよくマーフィー・ラボの個体も何本かあったので、斉藤が所有する1960 Hummingbirdとの比較も兼ねてカスタム・ショップ製品を味わってもらった。どのモデルも驚くほどヴィンテージぽさが際立っていて、斉藤もギブソンのスタッフにあれやこれやと質問していた。

1942 Banner J-45

音だけ聴いたら本当にヴィンテージですよね。 音色はやっぱり枯れているし、パワーコードみたいなのを弾くと、本当にクランチかかっているような感じ。自分が思い描くザ・ギブソンって音がします。

1942 Banner Southern Jumbo Light Aged

音が明るいですよね。J-45みたいなズドンとした感じはあまりない、明るいギブソンって感じですね。このギターも良い感じに枯れてる音がします。

1933 L-00 Light Aged

L-00の30年代のモデルを持っていますが、弾き心地は似てますね。実際のヴィンテージよりは小さめ、軽めな音の感じがしますけど、これも枯れてるなって感じます。エボニーの色もしっくりきますね。スモールタイプのギターは何本か持っていますが、小さくて扱いやすいので、家でちょこっと弾いたりしています。ギター弾くぞ!って気負わない感じがいいですよね。

1957 SJ-200 Light Aged

J-200は64年製のを持っています。それはカランとしたメイプルって感じの音がするので、このギターとは少しキャラが違うかな。知り合いの持っている50年代のJ-200がめちゃめちゃ良い音してるんですが、これはそれに近いですね。 古いJ-200って一番個体差があるように感じていて、ボディの割に意外と音が小さいなって思う個体もあるのですが、これはちゃんとジャンボサイズな感じの音がしますね。 ピックガードもちゃんと当時の感じがして、凄く良くできていますね。

Kazuyoshi Saito’s Gibson Acoustic

Murphy Lab Collection 1960 Hummingbird Heritage Cherry Sunburst Light Aged

↑斉藤和義が惚れ込んで入手した個体は、サーマリー・エイジド・トップを始めとするヴィンテージを追求したカスタム・ショップならではのスペックに、マフィー・ラボ特製のフィニッシュ・ワークを施した1本。入手した当初からエイジド処理によるクラックが浮かぶ貫禄を持った外観だったというが、音色の方もヴィンテージに肉薄。ブラインド・テストでは判別できなさそうなほどヴィンテージっぽいという。早速レコーディングでも大活躍している。

↑ヘッドの表面には細かいウェザー・チェックがびっしりと入っている。これは傷を描いたりしたものではなく、本当に塗装が割れて入ったものだ。それだけに非常にリアル。

↑ボディにもクラックが走っている。入手当初よりも増えてい る印象があるそうだ。このクラックは経年で育つのである。