説明不要でカッコいい!ギブソンのギターと『ぼっち・ざ・ろっく!』が見せてくれた、初めての景色

今回は、放送終了後も人気が加速し続けるアニメ作品『ぼっち・ざ・ろっく!』から、主人公の後藤ひとりを演じた声優/歌手の青山吉能と、同作品のオリジナル楽曲を編曲し、THE YOUTH、LOST IN TIME、la la larksといったバンドのギタリストとしても活動する三井律郎の対談が実現。国内外ロックファンの注目も集めた今作が見せてくれた景色の感動を、ギブソンのレスポールに縁のある二人にじっくりと語り合ってもらった。

取材・文:田村十七男
撮影:大石隼人

やがて自分がギターの猛特訓を受けることになるとは(青山)

――お二人が最初に顔を合わせたのはいつですか?

青山 『ぼっち・ざ・ろっく!』の※連動企画のYouTube番組でしたよね。その第10話のゲストで三井さんが出てくれたんです。ギターヒーローが来てくれた!本物の“中の人”だって感動しました。 (※連動企画のYouTube番組=アニメ初回放送2日前の2022年10月6日に公開された「ギターヒーローへの道」。ギター初心者の青山さんが、自ら演じる主人公の後藤ひとりに倣い、番組オープニングテーマを弾けるようになるまでを追ったドキュメンタリー。約半年間に渡り全15話が公開された。番組内で青山さんが使用したのは、Epiphone Inspired by Gibson Les Paul Custom Ebony)。

↑Epiphone Inspired by Gibson Custom Les Paul Custom Ebony    

――中の人?

三井 登場人物を実際に創っている人たちのことです。主人公の後藤ひとりの声を担当した青山さんも、後藤の中の人。劇中で活躍する『結束バンド』で作詞をすることになった後藤のリリックを書き上げた作家さん達も、中の人です。

青山 そして三井さんも、『結束バンド』の演奏を難しいものにした中の人です(笑)。

――三井さんが『ぼっち・ざ・ろっく!』に関するオファーを受けたのはいつでしたか?

三井 アニメオンエアの2年ほど前です。先行して準備を進めていた音楽チームから、下北沢を拠点にするロックバンドの物語をつくりたいというお話をいただき、そこから原作のマンガを読んで編曲の足掛かりをつくっていきました。オリジナル楽曲は次々に生まれていったのですが、当初は劇中でどう使われるか、誰が歌うかもわからないまま突っ走っていましたね。

青山 私がオーディションの機会をいただいたのも2年前でした。当時はコロナ禍でしたから、オーディションは対面ではなく、30秒の自己PR動画を送るという形式だったんです。音楽関連の企画と聞いていたので、仕事先のスタジオに置いてあったギターを手に取って、Cコードを押さえたところを撮ってもらいました。それしかコードを知らずにノリでジャ~ンってやったんですけれど、やがて自分がギターの猛特訓を受けることになるとは……!

↑Gibson Custom Shop Murphy Lab 1957 Les Paul Custom Reissue 3-Pickup Bigsby Ebony Light Aged

     

三井 僕としても、自分で編曲したフレーズを「弾いてみた動画」にアップするとか、ライブで演奏することになるなんて、最初は夢にも思わなかったですよ。

 

テレビで見て凄いと思わせるサウンドにしたかった(三井)

――結束バンドの楽曲の編曲が三井さんに依頼された経緯はどのようなものでしたか?

三井 なぜ僕だったのか、実はよくわかりませんでした。そもそも編曲家じゃないですし。自分のバンドの曲や、たまたま仕事でいただいた曲のアレンジはしたことがあっても、編曲が専門じゃないので、たとえばEDMをつくってほしいと言われても無理なんです。それに、この世界にはスーパーアレンジャーが多すぎるから、僕が編曲家と名乗るなんておこがまし過ぎるし、『ぼっち・ざ・ろっく!』で編曲を担当したからといって今後もできるとは思っていません。

青山 え、信じられないです。あんなにカッコいいアレンジがつくれるのに!

三井 その上で編曲を任された理由を考えてみると、僕にはバンド知識しかないけれど、自分自身が『結束バンド』と同じように下北沢を拠点に活動してきて、いわゆる下北ロックに精通していると思ってくれた方がいたからだと思うんです。『ぼっち・ざ・ろっく!』がそこまで原作のリアルを追求するなら、僕のようなギタリストには声がかけやすかったのかなって。

青山 作品に寄せるスタッフの熱量と物量は飛び抜けていましたよね。絵コンテ一つ取っても、隅々までしっかり意図が込められていましたから。

三井 全員で『結束バンド』を作り上げた感じでしたね。作詞でも、後藤ならこう言うよねって何度も確認し合っているのを見てきたし。あれは素敵な作業でした。

――そのこだわりが、女子高生に弾けるのかと思わせるほど『結束バンド』の演奏を高難度にしたところはありますか?

三井 テレビで見て凄いと思わせるサウンドにしたかったんです。ただSNSを見ていると、メチャクチャ弾ける小学生が次々に現れるじゃないですか。そうであれば今の若い世代にとって『結束バンド』は必ずしも難しくないかもしれないし、とにかく、カッコいいバンドサウンドのアレンジを聴いてほしいと思ったんです。

青山 三井さんのおっしゃるように、『結束バンド』の音はカッコいいんです。だけど、弾くとなると超絶難しい。だからYouTube番組で三井さんがさりげなくイントロのフレーズを弾いてくれたときは、本当にギターヒーローが現れたって思ったんです。

三井 ギターヒーローは勘弁してください。

   

レスポールはギターのデフォルトになっている(三井)

――三井さんが初めてギターに触れたのはいつですか?

三井 12歳です。僕が生まれた家は、祖父も両親もギターが弾ける音楽一家でした。祖父の家には防音室まで備わっていたし。ギターを始めるまではピアノを習っていました。今日は、そんな少年時代のとっておきのエピソードを持ってきたんです。ギター好きだった父は、僕が生まれた記念でギブソンのES-335を買って、常に食事をする居間に置いていました。そのES-335を借りて弾き始めた3日後に、僕がネックを折ってしまうんです。

青山 ギターって折れるんですか?

三井 折れるんですよ、ネックがバキッと。それを目の当たりにした母は慌てて父の会社に電話したんです。僕も泣きながら謝るしかなかった。そうしたら父はこう言ったんです。「ギターを続けるなら許してやる」って。

青山 うわ、素敵すぎる!

三井 それですぐに修理して、高校卒業後に正式に譲り受けました。今日持ってきたES-335は、その実物です。今では家で一番弾くギターになりました。これをギブソンの対談企画で披露できるのが誇らしいです。

↑三井さん愛用ギター/ Gibson ES -335

     

――となると三井さんは、生まれたときから宿命的にギブソンと縁があったことになりますね。

三井 ギブソンは今年で創立130周年ですけれど、マンドリンからピックギター、アコギからエレキに至るまで、様々な楽器づくりの経験が伝統となって生きているブランドなんですよね。圧倒的な音の強さもある。僕のメインはいつでもギブソンです。ちなみに、持参したヒストリックコレクションのレスポールも、結束バンドの楽曲を弾きまくったギターです。

↑三井さん愛用ギター/ Gibson Custom Historic Collection 1960 Les Paul Standard Reissue

       

――宿命的と言えば、『ぼっち・ざ・ろっく!』の主人公が最初に手にしたギターが父親のレスポール・カスタムだったのも、三井さんにとって奇妙な縁ではありませんでしたか?

三井 そこは最大のシンパシーですよね。僕がもっともギターを弾いた若いときに使っていたのもレスポールでしたから、レスポールがギターのデフォルトになっているんです。だから後藤がレスポールでよかった。編曲でも救われたところが大きいです。

ギターの音で自分のテンションが変わるのがおもしろかったんですよね(青山)

――青山さんの音楽歴を聞かせていただけますか。

青山 母がピアノの先生で、三井さんと同じように家に防音室があったので、12歳まで習っていました。その練習がとにかく厳しくて、中学生になると部活に力を入れたくなって、ピアノは小学生まででしたね。

三井 やっぱりそうだったんだ。青山さんと初めて会ったとき、ギターという楽器がどういうものかそれとなく理解できているように感じられて、この人は音楽的にも身体能力的にも只者じゃないと思ったんですよね。

青山 タダ者です……。

三井 YouTube番組に呼ばれた時点で、ほぼ課題曲を弾けていたじゃないですか。レスポールも似合っていたし。他の仕事もありながらここまでできるなら、僕なんか不要と思いましたよ。

青山 いえいえ。本当に難しくて、いつも心折れるすれすれのラインを行き来していたんですけど、ギターってボディに付いているボタンを回したり、エフェクターを通すといろんな音が出るじゃないですか。そのグランドピアノにはない楽器の特長にかなり助けられました。音で自分のテンションが変わるのがおもしろかったんですよね。

 

お互いのギターを交換して試奏する三井律郎(左)、青山吉能(右)

 

放送から2年後に実現したZeppツアー

――劇中で活躍した『結束バンド』のアルバム発売や、リアルなバンドライブの披露。加えて2024年の夏には、前後編の劇場総集編も公開されました。オンエア終了後でも加速し続ける『ぼっち・ざ・ろっく!』のムーブメントを、お二人はどのように受け止めていますか?

三井 編曲に携わらせてもらったところから始まり、あまり表に出ることのなかった自分が「弾いてみた動画」で『結束バンド』の曲を弾き、それを「見ました」なんて言ってもらえる未来が訪れるなんて、まるで予想できませんでした。幸せなことですね。カッコよさにこだわって音楽をつくれたことも、それを好きになってくれる人がいてくれることも。『ぼっち・ざ・ろっく!』は、プロとして20年のキャリアがありながら、これまで見たことのない景色を僕に見せてくれました。

青山 私も同感です。

三井 そう言えば、ちょっと前に楽器屋へ行ったとき、男子高校生が『結束バンド』の『星座になれたら』を試奏している場面に遭遇したんですよ。何かうれしくなっちゃって、弾き方を教えたい衝動を抑えるのが大変でしたね。

青山 やっぱり三井さんのフレーズはカッコいいから弾きたくなっちゃうんですよ。

三井 そんなふうに感じてもらえたらうれしいですね。特にこれからギターを弾く人たちには。コピーしたくなるフレーズをたくさん散りばめましたから。

――声優として数多くの作品に参加している青山さんは、『ぼっち・ざ・ろっく!』の現在をどう感じていますか?

青山 三井さんがおっしゃった幸福を、私もずっと感じ続けています。エネルギーに満ちた現場はアフレコのときから妥協がなく、役者としても大きく成長させてもらいました。その恩返しをしたくて、放送終了後の『ぼっち・ざ・ろっく!』企画には全力で参加させてもらってきましたが、今はこの幸せが終わるのが怖いです。

――9月からは全国5カ所の『結束バンド』Zeppツアーが始まるそうですね。

青山 これも放送から2年後のツアーなんですよね。超絶完売らしいです。

三井 それにしてもアニメが走ってないのにZeppでツアーができたり、新曲が出せるなんて、素晴らしいですよね。キャストさんも中の人もスタッフも、全員この人たちでよかった。今では原作のマンガを読むと、後藤のセリフは青山さんの声で聞こえてきますよ。

青山 ありがとうございます。私もギターを経験したことで、音楽を聴くと自然とギターの音が耳に届くようになりました。これはうれしい発見でしたね。

――改めて三井さんにうかがいます。初めての景色を見せてくれたギターの魅力とは?

三井 ギブソンのギターは説明不要でカッコいいじゃないですか。それに気づいた子供のときの感覚が大人になってもまったく変わらないところがいちばんの魅力ですよね。けれど、今も上手になれたと安心させてくれない。だから上手く弾けるようになりたいって思い続けるんですよね、ギターって。

   

PROFILE

青山吉能

5月15日生まれ。熊本県出身。主な出演作は『ポケットモンスター』(ぐるみん役)、『劇場版 オーバーロード 聖王国編』(梵ネイア・バラハ役)、『僕の妻は感情がない』(小杉あかり役)など。

三井律郎(ミツイリツオ)ギタリスト

2002年ロックバンド、THE YOUTHのメンバーとしてメジャーデビュー。2007年、LOST IN TIMEへの加入をきっかけに様々なアーティストのレコーディングを開始。並行してla la larksとしての活動も行う。2022年より、アニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」結束バンドの殆どの楽曲でアレンジとギターを担当。Aimer、中村一義、須田景凪などライブサポートやレコーディング多数。

INFORMATION

ミニアルバム「Re:結束バンド」

▼商品紹介
アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』の劇中バンド「結束バンド」による『劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく! Re:/Re:Re:』のOP・EDやカップリングを含めた全6曲のミニアルバム。

▼商品情報
「劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく! Re:/Re:Re:」ミニアルバム『Re:結束バンド』
・品番:SVWC-70668
・発売日:2024年8月14日(水)
・価格:2,750円(税抜価格 2,500円)
・仕様:CD1枚 初回仕様限定盤
・収録曲:全6曲
01.月並みに輝け(前編オープニングテーマ)
02.今、僕、アンダーグラウンドから(前編エンディングテーマ)
03.ドッペルゲンガー(後編オープニングテーマ)
04.僕と三原色(「い・ろ・は・す」タイアップ楽曲)
05.秒針少女
06.Re:Re:(後編エンディングテーマ)

・初回仕様限定特典
キャラクターデザイン・総作画監督けろりら描き下ろしジャケットイラスト
クラッパーボード風ステッカー封入

※収録内容や特典は予告なく変更となる場合がございます。予めご了承ください。

▼商品ページ
https://bocchi.rocks/kessokuband/discography/?article_id=re_kessoku

▼リンクファイア
https://anxmusic.lnk.to/eVTqk3

EP「We will」

▼商品紹介
少し未来の結束バンドのメンバーがそれぞれデモを持ち寄り作りあげたコンセプトEP

▼商品情報
「結束バンド」EP『We will』
・品番:SVWC-70677
・発売日:2024年11月6日(水)
・価格:¥2,200(税抜価格 ¥2,000)
・仕様:CD1枚 初回仕様限定盤
・収録曲:全4曲
01.milky way 【作詞・作曲】石原慎也(Saucy Dog)【編曲】三井律郎
02.惑う星 【作詞・作曲】大木伸夫(ACIDMAN)【編曲】三井律郎
03.UNITE 【作詞】GEN【作曲】04 Limited Sazabys【編曲】akkin
04.夢を束ねて 【作詞・作曲】佐藤千亜妃【編曲】三井律郎

・初回仕様限定特典
キャラクターデザイン・総作画監督けろりら描き下ろしジャケットイラスト
ポラロイド風フォトカード封入

※収録内容や特典は予告なく変更となる場合がございます。予めご了承ください。

▼商品ページ
https://bocchi.rocks/kessokuband/discography/?article_id=wewill

▼リンクファイア
https://anxmusic.lnk.to/97u6US

ツアー「We will」札幌以降の公演概要&イベントサイトURL

▼開催概要
・出演:青山吉能、鈴代紗弓、水野朔、長谷川育美
・バンド:三井律郎(Gt)・比田井修(Dr)・高間有一(Ba)・akkin(Gt)
[東京公演のみ]比田井修(Dr)・akkin(Gt)・山崎英明(Ba)・高慶“CO-K”卓史(Gt)

・札幌公演
DATE:2024年10月19日(土) 開場 17:00 開演 18:00
PLACE:Zepp Sapporo

・東京公演
DATE:2024年11月3日(日) 開場 16:30 開演 17:30
PLACE:Zepp Haneda(TOKYO)
LIVE VIEWING:結束バンド ZEPP TOUR 2024 “We will” ライブ・ビューイング

・名古屋公演
DATE:2024年11月24日(日) 開場 16:30 開演 17:30
PLACE:Zepp Nagoya

・福岡公演
DATE:2024年12月22日(日) 開場 16:30 開演 17:30
PLACE:Zepp Fukuoka

▼イベントサイトURL
https://bocchi.rocks/kessokuband/schedule/zepptour2024/