SGが継承するリスペクトの証と、太く力強いサウンドの魅力
高校生のときに購入した黒のSGを20年間使い続けているKEYTALK/Alaska Jamの小野武正と、小野に憧れて同じく高校生のときに黒のSGを手にしたサバシスター、るみなすの対談が実現。KEYTALKとしてメジャーデビューから10年を経て、次の世代にも大きな影響を与えている小野と、今年メジャーデビューを飾り、新たなバンドシーンのアイコンとなったるみなす。それぞれから見たギブソンの魅力、SGの魅力、ギターという楽器の魅力についてじっくり語り合ってもらった。
取材日:2024年7月5日
取材・文:金子厚武
撮影:大石隼人
撮影場所:Amazon Music Studio Tokyo
お互いのSGを交換して試奏する小野武正(左)、るみなす(右)
「武正に影響を受けてSGを使っている女の子がいるらしい」 というのは聞いていました(小野)
――まずはお二人の出会いについて教えてください。
小野 高円寺HIGHというライブハウスにサルーンさんという店長がいるんですけど、僕はもともとそこでバイトをしていて、サルーンさんがやっているNUDGE’EM ALLのサポートをやったり、プライベートでも飲みに行ったり、すごく仲のいい先輩で。そのサルーンさんが、るみなすちゃんを連れて、仙台のKEYTALKのライブにきてくれたんです。その前からサルーンさんに「武正に影響を受けてSGを使っている女の子がいるらしいぞ」っていうのは聞いていて、それで2年前くらいに仙台の楽屋で会ったのが初めてだった気がする。で、サルーンさんはサバシスターのお手伝いもしていたんだよね。
るみなす そうですね。運転していただいたり、物販を手伝ってもらったりしていたので、そのときによく武正さんの話をしていました。
――るみなすさんは小野さんのことを、いつどのようにして知ったのですか?
るみなす ギターは中学生から弾いているのですが、高校生になって軽音部に入ったときに「一緒にバンドやろうよ」って言ってくれた子が邦楽のバンドがすごく好きで、そのときにKEYTALKを教えてもらったのが始まりです。最初はCDで聴いていただけだったのですが、ライブの映像も拝見して、そこからすごく好きになりました。その後にメジャーデビューシングルの『コースター』を買ったことを今でも覚えています。
――小野さんも「影響を受けている子がいるらしいよ」と聞いて、サバシスターをチェックしてみたわけですよね。
小野 もちろん。すごくいいバンドだなと思ったんですけど、最初は「本当かな?」とも思って(笑)。「昔から聴いていました」とか「あのフレーズが好きです」とか言ってくれる子はいるんですけど、前からライブにも来てくれていて、これからバンドで頑張っていこうとしている子に会うことは多くなくて。しかもガールズ・バンドとなるとなおさら少なかったので。だから最初は半信半疑ではあったんですけど、話を聞いていたら本当なんだと思って、嬉しかったですね。
――最初に会ったのが2年前だと、まだサバシスターが活動を開始してすぐだと思うので、小野さんからすると「あの子たちがどんどん有名になっていった」みたいな感じですよね。
小野 僕はサバシスターがどんどん有名になってくれると勝手に鼻が高いですよ(笑)。実はライブを見たのはこの間が初めてだったんですけど、すごくいいライブで、やっぱりバンドはこうあるべきだなっていうものを体現していて、素敵でしたね。
――お二人は今年の6月18日に下北沢SHELTERのイベントで共演していますよね。対バンではなくて、小野さんは「てんぷらDJアゲまさ」としての出演だったわけですけど、るみなすさんとしては小野さんが見ている中でのライブはかなり緊張もあったのでは?
るみなす 武正さんじゃなくて天ぷらDJアゲまさだって頭の中で言い聞かせてました(笑)。KEYTALKはSHELTERのバンドだと思っているので、そこに自分が立てていることもすごく嬉しかったし、武正さんが見てくれたのもあって、本当に楽しいライブでした。
ギブソンに出会って、ギブソンのギターを弾くことによって、 自分を引き出してもらった(小野)
――お二人の思うギブソンというギター・ブランドに対する印象を教えてください。
小野 僕は中学2年生からギターを始めました。その頃、わりとハムバッカー寄りなサウンドの音楽をよく聴いていたので、ゆくゆくはギブソンのレスポールが欲しいという気持ちがありましたね。ギブソンは、太い音がギュッとまとまっている男気がかっこいいという印象があり、高校1年生のときにレスポールを買おうと思って楽器屋さんに行ったら、レスポールの隣にあったSGが魅力的に見えて、SGを買ってしまったんです。
――SGにした理由はなんだったのでしょうか?
小野 理由は特になくて、完全に見た目ですね。とにかく「かっこいい!」ってなって、SGに切り替えたんですよ。一回帰って考えようとかもなく、確かその場で決めて。完全に引き寄せられましたね。
――ギター選びは、そういうインスピレーションも大事だったりしますよね。
小野 そこからギブソンのギターを20年使っていますからね。費用対効果最高です(笑)。最初にギブソンに抱いた、ギュッとした塊みたいなサウンドのイメージは核の部分としてずっとあるというか、ギブソンにしか出せないニュアンスや質感が僕の中ではすごくあって、それを自分でも体現したいなと思ったんですよね。つまりギブソンに対してそういう印象を抱いたのは、自分もそうなりたいという憧れでもあって。ギブソンに出会って、ギブソンのギターを弾くことによって、自分を引き出してもらったみたいな感じですよね。
SGが届いたのがちょうどライブの日で、 そのギターでKEYTALKのコピバンをやりました(るみなす)
――るみなすさんのギブソンに対する印象はいかがですか?
るみなす 私も中学2年生でエレキギターを始めたんですけど、ギブソンは中学生からしたら夢のギターで。それから高校生になって、KEYTALKとかいろんなバンドを知り、ギブソンを使っているアーティストはすごくかっこいいなと思っていました。試奏はしていたんですけど、買うまでが一歩届かなかったり、それまで使っていたギターを手放すのもちょっと怖いなと思っちゃったところもあって。でもやっぱり行動しないと、ギブソンは夢のままだと思って。それで高校生のときに、武正さんと同じラージピックガードのSGが欲しくて探したんですけど、仙台の楽器屋さんにはなかなかなくて、取り寄せで購入を決意しました。
小野 かっこいい!俺のとモデルは違うんだよね?何年製のギターなの?
るみなす これはギブソン120周年の記念モデルです。
↑るみなすさん愛用ギター/Gibson USA SG Standard 120
ヘッドの裏には、KEYTALKのステッカーを貼っている。
――二人とも高校生のときにギブソンのSGを手にしているわけですね。
小野 やっぱりギブソンのSGを持つと変わるよね。
るみなす 変わりますね。取り寄せだったので、宅急便でギターが送られてきたんですけど、届いたその日がちょうど自分のライブの日で、そのギターを使ってKEYTALKのコピバンをやったんです。
小野 届いたその日に?何の曲やったの?
るみなす 「トラベリング」と「sympathy」と「太陽系リフレイン」を演奏しました。
小野 すごい。インディーズのときの曲たちだ。トラベリングのキーはCDの音源通り?
るみなす はい、現キーの方です。
小野 Cマイナーだ。でもライブに行くとBマイナーで「半音下がってるやないか!」ってなることでおなじみの「トラベリング」ですね(笑)。
――KEYTALKファンにはおなじみの(笑)。でもさすがに当日届いた初めてのギターをいきなりライブで使うのはドキドキしませんでした?
るみなす ドキドキはしましたけど、多分家に置いておく方がドキドキしちゃったと思います。使いたくてしょうがなかったんです。
レンジが広いと他の同期や楽器の音をマスキングしてしまうから、 KEYTALKでは黒のSGが一番収まりがいいんです(小野)
――それぞれの愛用ギターの魅力について教えてください。
るみなす SGを持つことによって、自分の憧れのプレイヤーだったり、今まで好きで聴いてきた曲だったり、私もその一部になれてるんだって感じることができるんです。特にライブでSGを弾いてるときが、それを強く感じられて、自分が武正さんに憧れたように、私も誰かに憧れてもらえたら、めちゃくちゃ嬉しいなと思いながら弾いてます。
小野 20年使い続けている黒いSGに関して言うと、コンデンサーを変えたり、コイルを巻き直したり、ネックも2回折れているので修理したり、いろんなことを経ているんですけど、自分がどういう音を鳴らしてきたのかを木が記憶しているんですよね。この20年間どういう想いでやってきたのか、自分がどういうものが好きで、どういうサウンドを出したくて、どういうライブをしてきたかが全部このギターに詰まっているので、そこはもう唯一無二ですよね。このギターは自分がアンプから出している音を直接浴びたり、いろんな人と演奏してきた音も、お客さんのエネルギーも感じとってきているから、多分、音はすごく変わったんです。それもやっぱり20年使い続けてきたからわかることであって、もう自分の体の一部ですね。
↑小野武正さん愛用ギター/SG Standard
――今日もう一本持ってきていただいた白いヴィンテージのSGは4~5年前に購入されたそうですね。
小野 白のヴィンテージの方は音の分離がめちゃくちゃ良くて、解像度がすごく高いので、雑味がないのと、ピックアップもオリジナルパフ3基搭載ということで、どのピックアップを使っても、ある意味レコードを聴いているみたいにオーセンティックな音がします。ベースとドラムとギターだけとか、ミニマムなアンサンブルだとかなり力を発揮するギターです。Alaska Jamの活動でこのギターをメインとして使っていますね。
↑小野武正さん愛用ギター/1961 Les Paul Custom
――SGに共通する魅力についてはどう感じていますか?
小野 それこそレンジが広すぎない良さがありますね。ミドルにギュッとまとまる節があるので、リアピックアップでコードでも単音でもローミッド感と一緒に粒立ちよく聴こえますよね。僕がよく使うフロントピックアップだと、ボディーの軽さがあるが故に、ある程度のイコライジングポイントを作れば、太さを担保しながら抜けるサウンド作りがしやすい。そこが魅力なんじゃないかなと思います。
るみなす 私もローミッドが大好きで、ずっと使ってきた黒いSGは武正さんになぞらえてフロントしか使ってなくて。武正さんのブリッジミュートがすごく好きなんです。
小野 リアにはない音だよね。
るみなす はい。そういう太い力強い音がすごくかっこいいなと思っているんですけど、でもそれだけじゃダメだと思って、アンプを変えたり、エフェクターを使ったり、試行錯誤をしていたんです。だけど、もうちょっと抜けが欲しいなと思ったときに、最近手にいれた緑のSGをリアで弾くようになって、そこから使い分けができるようになりました。自分の使ってきたSGの魅力ももっと広がったし、一つのギターで一つの音しか出せないわけではないんだなっていうのもすごくわかりました。
――最近はライブだと緑のSGをメインで使うことが多いそうですね。
るみなす そうですね。元気な曲が増えてきたので、派手な音の方が伝わりやすいかなっていうときに使うことが多くなりました。
↑るみなすさん愛用ギター/Gibson USA SG Standard ‘61
ギターは言葉の代わりに音がある
日本に限らず世界とも繋がっていきたい(るみなす)
――今後はどんな表現をしていきたいと考えていますか?
小野 昨今はギターが弾けなくてもパソコンで曲が作れるようになって、ある意味ギターに触れなくても音楽を始められる環境になっていると思うんです。それはそれでいいことでもあると思っているのですが、ギターを20年弾いてきた身としては、やっぱり若い子にもギターを始めてもらいたい気持ちがあります。1回ギターを始めるとその楽しさがわかるし、ギターのサウンドの良さがわかると、そこを生かした曲作りもできると思うんです。なので、ギターの魅力をより広めたくて、今は教育的なところにも力を入れています。一番の目的は、より多くの人にギターの楽しさを伝えていくことです。
――ギターという楽器の可能性についてはどのようにお考えでしょうか?
小野 弦楽器ならではの絶妙なニュアンスがすごくあるので、アーティキュレーションや表現力に特化していくと、同じ音階でも全然違ったような表情を見せるので、そこも楽しむポイントだと思います。今はパソコンで曲を作るにしても、アンサンブルの正解というよりは、パソコン上での正解があって、グリッドに合わせてフレーズを1個乗せてループしていきましょうとか、そういう作り方になりがちだと思うんです。でもギターのおもしろさは同じフレーズのリフレインだとしても、一緒に合わせていくとちょっとしたズレがグルーヴになり、それがおもしろさにも繋がっていく。そういう意味で言うと、結局「バンドやろうぜ!」みたいな話になってくるかもしれない(笑)。ギターには色々なおもしろさがあるんですけど、僕はその中でも誰かとアンサンブルするのがすごく好きなので、そこは自分でもさらに追求していきたいポイントですね。
るみなす 武正さんも言っていたように、デジタルな音楽が発達している中で、似たようなギターの音は作れるかもしれないけど、ニュアンスをすぐに表現できるのは人じゃないとできないと思うし、思ったことがよりダイレクトに表現できるのは人の手だと思うので、そこはDTMがどれだけ発達しても絶対になくならない部分だと思います。なので、自分のプレイでもそういう良さを出せていけたらいいなと思います。ギターは言葉の代わりに音で世界中のいろんな人に伝える力があると思うので、日本に限らず世界とも繋がっていけたら、もっとギターの可能性を高めていけるだろうし、魅力がいろんな人に伝わるんじゃないかなと思います。すごく大きいことを言うようですけど、一度ギターを持って人前で弾いたら、自分もギタリストの一員だと思うので、表現を言葉じゃなくて音で伝えられるように頑張りたいなと思います。
PROFILE
KEYTALK
東京・下北沢発4人組ロックバンド。
2009年7月に小野武正(Gt)、首藤義勝(Ba,Vo)、寺中友将(Gt,Vo)、八木優樹(Dr)で結成。
2013年メジャーデビュー。
2015年には初の武道館単独公演、2017年には横浜アリーナ、さらに2018年には幕張メッセ(360°センターステージ)でのワンマンライブを敢行。
昨年、メジャーデビュー10周年を迎え、約8年ぶりとなる、2度目の日本武道館ワンマンライブを敢行。
同年10/28には、自身初となる日比谷野外大音楽堂でのワンマンライブを敢行。コロナ禍以降、年間100本以上のライブを行い、名実ともにライブバンドとしての勢いを加速している。
サバシスター
Vo./Gt. なち Dr./Cho. GK Gt./Cho. るみなす
2022年3月結成
心の中にあるトキメキやモヤモヤ、大切な人の大事なもの、そしてたくさんの感謝などを音楽に詰め込んだ歌詞と、 どこか懐かしさを思わせるメロディーでライブハウスを中心に活動中。Dr.ごうけがネット掲示板(ジモティー)でバンドメンバーを募集。 当時上京したてのVo.なちと出会い、その場でバンド結成。 その後、ごうけと同郷のGt.るみなすに声をかけ、3人組ガールズバンドとして2022年3月よりバンド活動開始。