2024年に創立130周年を迎えたギブソンが、COEDO BREWERYで毎年開催される麦ノ秋(むぎのとき)音楽祭で『Gibson Lager Stage(ギブソン・ラガー・ステージ)』をプロデュース。COEDOクラフトビール醸造所を会場とする、ユニークかつ手づくり感あふれる和やかなフェスでギブソン・ギターに触れてもらう試奏ブース『ギブソン・ステーション』から、ギブソン・プレイヤーが最高のサウンドを響かせたステージまで、2日間の模様をお届けする。

文: 田村 十七男
撮影:Ryoma Kawakami

「こんな素敵なご縁に巡り合えるのかと驚いています」
ギブソンとCOEDOの限定コラボビールも登場。

ビール日和というべきか、フェス日和とするべきか。夏日となった初日は、飲み口爽やかなビールと耳に優しい音楽を楽しむには最高のコンディションだった。2022年11月に始まった『麦ノ秋音楽祭』は、ジャパニーズ・クラフトビールの雄であるCOEDOが、埼玉県東松山市に持つCOEDOクラフトビール醸造所の敷地内で開催する、音楽を中心としたキャンプ・フェス。2023年からはビール主原料の麦を刈り取る5月と、種蒔きをする秋の2回の開催となった。

今回で4回目の開催となる収穫を祝う5月の音楽祭で、2024年に創立130周年を迎えたギブソンは、オリジナル・ステージ『Gibson Lager Stage』をプロデュース。ギブソン・プレイヤー4組によるライブはもちろん、ギブソンのギターに触れてもらう機会を提供する試奏ブースを展開した。

なぜギブソンが、ビールブランドが主催するイベントとのコラボに至ったのか? それはこの音楽祭が育んだ、出演アーティストと観客がともに盛り上げていく手づくり感に惹かれたのが一つ。さらに、そんな心温まるコミュニティの場を提供したCOEDOの丁寧なものづくりを心掛けるクラフトマンシップにシンパシーを感じたからだ。

では、COEDOはギブソンとのコラボにどんな意義を感じているのだろう。ビールとギターの共鳴について、コエドブルワリーの代表取締役にしてビール伝道士を標榜する朝霧重治さんにたずねた。

――まず、自社醸造所でフェスを開催した理由を教えてください。

朝霧:「大きなところからお話すると、オーガニック農業をより多くの人に知ってもらうのが根本の目的でした。COEDOの母体である協同商事という会社は、70年代から有機農業に取り組み、農家の方々と共に新しい農業の未来を模索してきました。しかし、オーガニックという単語は知れ渡っても、日本の有機農業普及率は約0.3%と低いまま。COEDOは2006年からビールを販売していますが、オーガニックのあまりのニッチさはずっと反省材料でした。

どうすれば身近になるのかを考えたら、この醸造所にすべてがあったんです。元から相応の広場があり、6年前には実際のビールづくりにも使う麦の実験農場もつくりました。そして私自身、音楽が好きなんです。しかも11月の種蒔きと5月の刈り取りのタイミングで開催すれば、フェスとともに麦栽培にも関心を持ってもらえると思いました(注:次回は10月開催)」

音楽祭一日目には収穫をお祈りする収穫祈願祭も実施され、朝霧社長も参加した。

――ギブソンとのコラボはどのように受け止めましたか?

朝霧:「こんなことがあるのかってしびれました。バンドブームを経た世代ですから、自分ではギターを弾かなくてもギブソンは憧れの的ですからね。今回は、我々が音楽祭のためにつくったスペシャル・エールで、ギブソンとのコラボビールまで実現させていただきました。参加していただく皆さんと共にイベントをつくってきましたが、続けていればこんな素敵なご縁に巡り合えるのかと驚いています」

レスポールを構え、嬉しそうに微笑む朝霧社長。

今回ギブソンの音楽祭への参加を記念して販売されたスペシャル・エール「Gibson✕麦ノ秋音楽祭“音ト鳴(おととなり)brewed by COEDO BREWERY”」は、限定ラベルで提供された。そのラベルを描いたのは、ライブ・ペインティング・パフォーマーの近藤康平さんだ。

第1回目の開催時にはステージ脇で子供たちとライブ・ペインティングを実施し、今回のGibson Lager Stageの背景画も手掛けてくれた。

限定販売されていた「Gibson✕麦ノ秋音楽祭“音ト鳴(おととなり)brewed by COEDO BREWERY”」。

近藤康平さんが手がけたGibson Lager Stageの背景画。

近藤康平さんが昨年、子供たちと共に行ったライブ・ペインティング作品。

このイベントのもう一人の生き字引的存在でもある近藤さんにも、お話をうかがった。

――COEDOとギブソンのコラボビールのラベルを描いた感想を聞かせてください。

近藤:「僕はお酒と音楽と旅が好きなので、何よりこの音楽祭が好きなんですね。ロケーションがいいし、コンテンツも豊富で、ビールのイベントでも小さな子供連れの家族も楽しめる。その上で、中学時代にガンズが大好きだった僕にギブソンと関われる人生があるなんて、夢にも思っていませんでした。ラベルの絵、自分でもすごく気に入っています」

Gibson Lager Stage開演! 最初に登場のMichael Kanekoが麦畑を渡る風のようなサウンドを響かせる

いくらか日差しが傾いたものの、まだまだCOEDOが喉に麗しい午後3時45分。Gibson Lager Stage最初のギブソン・プレイヤーとして、Michael Kaneko (マイケル・カネコ)が登場。ともにステージに上がったのはL-00 Standardと、2023年に結成したバンドbrkfstblend (ブレクファストブレンド)のステージでも活躍するSG。まずはL-00 Standardを手に取り、麦畑を渡る風のような柔らかなアコースティックサウンドを響かせた。

特に興味深かったのは、最後の曲だった。5月末にリリースされるアルバム内の楽曲『Lovers』で、最初にL-00 Standardの音をルーパーに収め、それに合わせてSGを演奏。アコギ×エレキの組み合わせについて、バックステージで話を聞いた。

Michael:「今回L-00 Standardを選んだのは、普段からフィジカル的にスモール・ボディのほうが動きやすいのと、見た目の可愛らしさが “映える”と思ったからです。SGは今年に入ってから弾き始めたのですが、ハムバッカーの抜けのいいトーンが気に入って、今やメインギターとして使用しています。この2本を使って『Lovers』を演奏したのは、特徴的で気に入っているアウトロのソロを弾きたかったからです。こういう感じ、遊びの中で見つかっていくんですよね」

オーディエンスも自然と体を揺らしていた、Michael Kanekoが響かせた美しい音色はGibson Lager Stageの幕開けにふさわしいパフォーマンスだった。

Caravan×村松拓 (Nothing’s Cerved In Stone)の息の合ったトーク&セッション

夕刻の気配が漂ってきた午後5時10分。ステージには、ギブソン ハミングバード リミテッドを持つCaravanと、SJ-200を抱えた村松拓が立った。共演は初めてという二人だが、いきなり始まったギタートークに気心の知れた関係性が感じられた。

Caravan:「ギブソンってヘッドに書いてあるだけで強くなれる感じがするんだよね」

村松:「憧れでしたもんね」

Caravan:「高校時代の友人が先にギブソンを買ったのがジェラシーで、俺も負けじと24回ローンを組んでES-335を手に入れたんですよ。そうしたら3カ月で盗まれて、ひたすらローンを返すだけの日々を送ったことがありました。あのときの俺に教えてあげたい。いつかこうしてギブソンのステージに立てる日が来るぞと(笑)」

使用ギターに関しても、二人はステージ上で説明を始めた。

村松:「SJ-200は見た目通り大きめで生音もデカいんだけど、全体的なバランスがいい。強く弾くとギブソンらしいロックな低音が響くのが好きですね。あと、ピックガードが美しい」

Caravan:「僕が演奏させてもらうハミングバードは、まず名前がいい。実際にハチドリの絵がピックガードに描かれています。これも低音がずんと体に響きつつ、煌びやかな音も鳴ってすごくやる気にさせてくれるんですよ」

初共演の二人はステージ上で打ち合わせするなど、ぶっつけ本番感を醸していたが、それもエンターテインメントに変えて観る者たちを和ませていた。 セッションの中で最も印象に残ったのは、CaravanがYUKIに提供した2003年の楽曲「ハミングバード」のセルフ・カバーだ。「ハミングバード」で奏でる「ハミングバード」、これ以上の組合せは望めないだろう。

二人が最後に披露したのは、ザ・ビートルズの『Across The Universe』。ジョン・レノンがギブソンを弾いていたことにちなんだチョイスだという。

セッションを終えた二人に今回のステージのコメントもいただいた。

「男同士褒め合うんだけど」と、村松拓。「俺はやっぱりCaravanさんのアコギの音がめちゃくちゃ好きなんですよね。今日もちゃんとアンプを持参してきていて、そういうブレない感じもいいなあ」 それを受けたCaravanが一言。「男同士がパッとやるなら瞬発力。それと緊張感。今日はそこに潤滑油となるビールがあったから、最高でした」 ぶっきら棒な友情を感じるこのアコギ・デュオ、これを機に共演機会が増えることに期待したい。

お客さんとの距離を感じさせなかった『Gibson Lager Stage』はまさに麦ノ秋音楽祭の特徴である“出演アーティストと観客が一緒に作り上げていくイベント”を体現していた。なぜならその空間から、文字通りの手づくり感と、ごく自然な親しみやすさが感じ取れたからだ。そんなステージだったからこそ、ギブソン・プレイヤーも、そしてオーディエンスも、あえて言えばオーガニックなバイブスに身を委ねる心地よさを存分に楽しめたのかもしれない。

(フェスリポート2日目に続く)

麦ノ秋音楽祭2024 #Harvest公式サイト:
https://muginotokiongakusai.jp/2024harvest/

COEDO BREWERY公式サイト:
https://coedobrewery.com/

Michael Kaneko公式サイト:
https://michaelkaneko.com/

Caravan公式サイト:
https://www.caravan-music.com/

Nothing's Carved In Stone公式サイト:
https://www.ncis.jp/